教育公務員特例法は、教員の資質向上を図るための法律です。この記事では、近年の法改正をふまえつつ、法律に定められた教員の権利や義務をわかりやすく解説します。この法律を活用して、教員としてのスキルアップを図るとともに、キャリアを見直すよい機会としていきましょう。
目次
1.教育公務員特例法とは
教育公務員特例法とは、教員や校長といった教育公務員の任用、服務、研修等に関する特例が定められている法律です(1949年制定)。同法の対象となるのは、地方公共団体の設置する学校の校長、教員、学長、部局長、教育委員会の専門的教育職員(指導主事、社会教育主事)です。国立や私立の学校教員は対象となりません。
戦後、文部省(当時)は、国公私立を問わず、教員の身分を積極的に保障する法律を制定しようとしていました。しかし、教員の身分を公務員とは別に定める法律の制定にGHQが反対したため、最終的に、地方公務員の一種として地方公務員法による身分保障を原則とし、部分的に教育公務員に関する特例を定めることとなりました。
2.教育公務員特例法の規定内容 主要条文や地方公務員法との違いから解説
現在の教育公務員特例法は、全部で7章・35の条文で構成されています。ここでは、地方公務員法との違いに着目しながら、教育公務員にどのような権利や義務が定められているかを見ていきます。
地方公務員法 |
教育公務員特例法 |
|
採用方法 |
競争試験 |
選考 |
条件付任用期間 |
6カ月 |
1年 |
政治的行為の制限 |
所属する地方公共団体の区域内のみ |
政治的行為の制限される地域は、全国に及ぶ |
兼職・兼業 |
任命権者(※)の許可がなければできない |
本務の遂行に支障がないと任命権者(※)が判断すれば、教育に関するものについて可能 |
研修 |
行政研修 |
行政研修、職専免研修、指導改善研修 |
大学院修学に関する制度 |
自己啓発等休業、修学部分休業 |
大学院修学休業 |
地方公務員法と教育公務員法の主な違い ※任命権者とは公務員の人事権を有する者(地方公共団体の長など)のこと。教員の任命権者は教育委員会
(1)任用に関する規定(第11条・第12条)
まずは任用方法からみていきましょう。地方公務員法では、職員の採用を競争試験によって、昇任を競争試験や選考によって行うとしています。これに対し、教育公務員特例法は、校長・教員の採用と昇任は選考によるとしています(第11条)。ここで採用・昇任の方法を「競争試験」ではなく「選考」としているのは、知識の量を問うよりも、教育者としての使命感や指導力などの総合的な人物評価を重視しているためです。
次に、採用後の条件付任用期間です。条件付任用期間とは、公務員を正式採用する前に、勤務実績や適性を評価し、正式採用するかどうかを判断するために設けられる期間を指します。地方公務員の条件付任用期間は6カ月ですが、教育公務員は1年と長くなっています(第12条)。これは、学校のカリキュラムが1年サイクルで進行し、それに合わせて初任者研修も1年単位で行われるためです。
このように、教員の任用にあたっては、総合的な人物評価を重視し、正式に任用される前に十分な研修を受けることが重要視されています(1年間という長い期間を不安定な身分に置くことについて、問題視する議論もあります)。
(2)服務に関する規定(第17条・第18条)
地方公務員法では、公務員が職務に服する際の義務として、法令や上司の職務上の命令に従う義務、職務に専念する義務、信用失墜行為の禁止、秘密を守る義務、政治的行為の制限、争議行為等の禁止、営利企業への従事等の制限を挙げています。
教員もこれらの義務を守る必要がありますが、教育公務員特例法は、教員の服務について、地方公務員との違いを二つ挙げています。
一つ目は、教員の服務義務の一つである「政治的行為の制限」です。教育公務員の政治的行為の制限は、地方公務員よりも厳格であり、所属する地方公共団体の区域内にとどまらず、全国での活動に適用されます(第18条)。これは、教育の中立性と公正性を確保し、教育を通じて国民全体に奉仕するという教育公務員の特殊な職務と責任を考慮したものです。教育公務員は、この制限を十分に理解し、政治的中立性を保ちながら教育活動を行うことが求められます。
二つ目は、「兼職・兼業」についてです。教員が夏休みなどの休業期間を活用して多様な仕事に携わり、新しい視点やスキルを身につければ、子どもたちにより豊かな学びを提供することが可能になります。教育公務員特例法は条件付任用期間や政治的行為の制限などの厳しい規制が設けられている一方、兼職や兼業については教育公務員の職務の特殊性を考慮し、「教育」に関するものに限り柔軟に認めています。対象となる「教育」は、学校教育に限らず、社会教育や学術・文化活動も含むものとされています。これにより、教育公務員は自身の専門性を生かした活動に従事しやすくなっています。なお、兼職・兼業には服務監督を行う教育委員会の承認が必要であり、公務員としての信用を損ないかねない場合や塾の講師など利益相反が生じる場合には承認されません(第17条)。
(3)研修に関する規定(第21条~第25条の2)
教育公務員特例法第21条において、教員は「絶えず研究と修養に努めなければならない」とされ、公務員よりも広く研修の機会が認められています。
すなわち、「教員は、授業に支障のない限り、本属長の承認を受けて、勤務場所を離れて研修を行うことができる」(第22条第2項)として、校長の承認を受ければ、職務に専念する義務を免除され、研修に参加することができます(職専免研修とも呼ばれます)。2022年に教員免許更新制が廃止されたことに伴い、今後は積極的な研修参加による資質向上が求められています。この法改正については、後ほど詳しく解説します。
なお、児童生徒への指導が不適切であると認定された教員に対しては、指導改善研修が行われることとなっています(第25条、第25条の2)。
(4)大学院修学休業に関する規定(第26条~第28条)
教育公務員特例法では、教員が自主的に国内外の大学院で学ぶための環境も整備されています。
従来、教員が大学院で学びたいときは教育委員会の職務命令として派遣される派遣研修が一般的でした。しかし、現在は休業制度が設けられています。それが、専修免許状の取得を目的とした「大学院修学休業」(第26条)です。専修免許状とは、大学学部卒業で得られる一種免許状を得た上で、大学院で所定の単位を取得、修了することで得られる免許状のことです。取得していることで高い指導能力があるとみなされます。
免許取得のために休業している間は無給となります(第27条)が、自治体や大学院の側で、授業料の一部や全部を負担しているところもあります。休職や停職の処分を受けた場合は、休業の許可の効力も失われます(第28条)。
なお、教員は「大学院修学休業」以外に、地方公務員全般に適用される「自己啓発等休業」(地方公務員法第26条の5)や、勤務時間の一部を休業する「修学部分休業」(同第26条の2)といった制度を利用することもできます。
これらの制度により、教員は身分を保持したまま大学院で学び、専門性を高める機会が保障されています。
3.教育公務員特例法の改正の概要
教育公務員特例法は、1949年に制定されて以降、複数回にわたって改正が実施されています。ここでは、直近(2016年11月と2022年5月)で行われた改正についてご紹介します。