虐待や生活困窮などのさまざまな事情から、適切な養育環境にない児童が多くいます。主に都道府県レベルに設置されている児童相談所が困難事例に対応する一方で、市町村レベルでは要保護児童対策地域協議会(要対協)という関連専門職で組織されている協議会を設置し、市町村の役所などで定期的に会合を開いて、こうした児童や保護者の在宅での支援方法を検討しています。この記事では、要対協について、期待される役割や支援対象、実践事例などを児童福祉の専門家が解説します。
目次
1.要保護児童対策地域協議会(要対協)とは
要保護児童対策地域協議会(要対協)とは、さまざまな事情から保護が必要となった児童やその保護者を適切に支援するために、専門的な知識および技術を有する機関によって構成される団体です。2004(平成16)年度の改正児童福祉法第25条2で法定化され、2008(平成20)年度の同法改正で地方公共団体(自治体)に設置の努力義務が課されました。
要対協の設置主体は児童福祉法では地方公共団体と規定されていますが、実質的に要対協が置かれているのは市町村です。その数は、要対協が法定化された直後の2005(平成17)年度時点では111カ所(4.6%)でしたが、要対協の設置の努力義務化がされた直後の2008(平成20)年度には1532カ所(84.6%)まで増加しています。その後も要対協の設置数は増え続けており、2020(令和2)年度には1738カ所(99.8%)となりました。
出典:要保護児童対策地域協議会の設置運営状況調査結果の概要丨子ども家庭庁
(1)要対協の設置された背景と期待される役割
1990年代には、日本においても欧米と同様に児童虐待問題の社会問題化が起こりました。従来、児童虐待問題は児童福祉法の範疇でしたが、2000(平成12)年に児童虐待の防止等に関する法律(児童虐待防止法)が公布・施行され、児童虐待の定義を含む、児童虐待の予防および対応施策が定められることとなりました。一方で、本法の施行は児童虐待対応の主たる行政機関である児童相談所に大きな負担を課すこととなりました。
児童虐待防止法の施行に先立つ1996(平成8)年に、厚生省(当時)は児童虐待ケースマネジメントモデル事業を実施しました。また、2000(平成12)年からは児童虐待防止市町村ネットワーク事業を実施しています。
これらは、「児童相談所による専門的対応が必要となる以前の段階における児童虐待に対する予防的対応」と、「児童相談所における対応を終えた保護者と子どもに対する事後対応等」を実施するための市町村レベルにおけるモデル事業でした。
その後、2005(平成17)年からは、自治体内の子どもおよび妊産婦の福祉に関する実情把握、情報提供、そして相談への対応や必要な調査および指導等を実施することが市町村の業務として位置づけられることとなりました。これと同時に、前述のモデル事業の実施を経て、要対協が法定化されました。
上記の経緯からわかるように、要対協は、児童相談所を持たない市町村における児童家庭相談に関して、関係機関や施設等との協働のもとに対応するために設置されました。設置当初は児童虐待防止のネットワークからの移行が課題でしたが、現在は児童虐待を中心としつつ幅広い児童家庭問題に対応しています。
ところで、多くの市町村には、児童福祉に関する専門職を採用する余裕がないという現状があります。そこで、市町村における児童家庭相談をバックアップするため、都道府県(児童相談所)が市町村の後方支援を行うとともに、「専門的な知識および技術を必要とするケース」について市町村と協働して対応することになっています。
(2)要対協の支援対象
要対協の支援対象は、「要保護児童」「要支援児童とその保護者」「特定妊婦」とされています。
前述の児童相談所が基本的に対応する「専門的な知識および技術を必要とするケース」とは、児童相談所に与えられている権限である「一時保護」の実施や、子ども自身の福祉の観点から里親等や施設に「措置」する権限の行使が必要になる可能性のあるケースと考えることができます。
したがって、市町村および要対協が主として扱う支援対象の特徴は、さまざまな支援があれば当該自治体内において「在宅で支援できる」ケースである、ということができます。また、家族成員の中にさまざまな問題があるため、複数の支援機関や施設が関与している、という特徴も挙げられます。
このことから、要対協の支援対象は、上記の特徴を併せ持っている要保護児童(保護者のいない児童または保護者に監護させることが不適当であると認められる児童)、要支援児童とその保護者(保護者の養育を支援することが特に必要と認められる児童およびその保護者)、特定妊婦(出産後の養育について出産前において支援を行うことが特に必要と認められる妊婦)と考えられます。
市町村および要対協が主として扱う支援対象のケースの内容をより具体的に見ていくと、もっとも多いのは「児童虐待」です。ほかにも「非行」「不登校・いじめ」「生活困窮」や、保護者に精神疾患等があり子どもの養育が困難なケースなどがあります。
2.要対協を構成するメンバー
要対協は、児童福祉法第25条の2が定める「関係機関、関係団体及び児童の福祉に関連する職務に従事する者その他の関係者」によって構成されています。
具体的には、「市町村」の子ども関連部署を中心として、「保健機関」「教育委員会」「児童相談所」などの行政機関、「学校」「保育所」などの関係施設、そして「民生・児童委員」「弁護士会」「医療機関」「警察」「民間団体」などの関係団体を挙げることができます。
そして、後述する市町村の「要保護児童対策調整機関」がこれらの構成機関との連携を図りながら、ケースの支援を実施していきます。