いじめ問題の現状や課題について、NPO法人「ストップいじめ!ナビ」代表理事の荻上チキさんにインタビューした「荻上チキさんが語るいじめ対策」の後編です。日本の学校教育におけるいじめ防止の取り組みの問題点と、教員一人ひとりが実践できるいじめ防止授業のアイデアについてうかがいました。

荻上チキさん(おぎうえ・ちき 評論家、NPO法人ストップいじめ!ナビ 代表理事)
1981年生まれ。ラジオパーソナリティー。特定非営利活動法人ストップいじめ!ナビ代表理事、一般社団法人 社会調査支援機構チキラボ代表理事。著書に「いじめを生む教室 子どもを守るために知っておきたいデータと知識」(PHP研究所)、「災害支援手帖」(木楽社)、「社会問題のつくり方」(翔泳社)など多数。
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――国、自治体、学校などで行われているいじめ対策について、不十分だと感じている点はありますか?

2013年にいじめ防止対策推進法が施行されました。この法律では、学校がいじめ対策の行動計画を策定し、それに基づく常設チームを作り、具体的な対策を講じることが定められています。もしも重大事態が発生した場合は、特設委員会を作ることで個別事案に対処して、問題解決や再発防止につなげていく……というようなPDCAサイクルの発想で法律が作られています。

教員がいじめを把握した場合、ただちに学校に共有し、自治体によってはその情報を教育委員会に報告するという流れで、いじめの情報をしっかりとアセスメント共有するという仕組みです。こうした環境整備が功を奏して、2014年以降にいじめの件数は減少フェーズに入ったと考えられます。ただし、現状のいじめ対策には課題もあります。

国の調査研究、大きな進展見られず

まず、学校や自治体ごとに行動計画やいじめ対策の内容が違っていて、それぞれどういう対策を行っているのか分からないことです。現状では、いじめ対策によりいじめが減っても、具体的にどの対策が効果を上げたのか判断できないのです。

また、対策の効果を見極めるには調査研究が不可欠です。いじめ防止対策推進法でも研究や調査の必要性について触れていますが、この11年間、国によるいじめ研究に大きな進展は見られません。法律に書かれているにもかかわらず、調査研究が十分でないことは大きな問題です。

いじめ防止対策推進法には、法律の内容と運用の両面で課題があると思います。まず、法律の内容についての問題です。

この法律では、学校の内外で起こったいじめに学校として対策を行うこととされています。当然ながら、校内だけでなく校外で起きたいじめについても学校が対応するべきなのかという疑問が生じます。ただでさえ多忙な教職員が、いじめ対応で一層忙しくなるケースも考えられます。いじめの定義を改めて見直した上で、それに基づいて法改正を検討することも必要でしょう。

次に、運用面での問題です。

世界各国の学校では現在、研究により有効性が証明されたいじめ防止プログラムの導入が進んでいます。いじめ防止プログラムは、年間15コマほどの授業を行うことで、いじめの加害および被害を約2割減らすことができます。

これに対して、日本ではいじめ対策として道徳教育を推進しています。一見、いじめ対策のために道徳を教科化したかのように見えますが、道徳を教科にしたい一部の勢力が、大津の事件を利用したというのが実際のところです。

日本では いじめ対策に道徳教育

ちなみに、事件が起きた大津市の中学校は、文科省によって道徳の教科モデル校に指定されていました。道徳教育に力を入れている学校でいじめ自殺事件が起きたのですから、その有効性を疑うのは当たり前です。第三者委員会による検証報告書では、いじめがエスカレートした幾つかのタイミングについても指摘されていますが、その一つは、道徳の授業の後の休み時間でした。道徳の授業の限界について報告書に書かれているにもかかわらず、道徳の教科化が一層推進されたのです。

道徳の授業では、他の様々なテーマと並んで、いじめについても取り上げられます。ただし、「いじめは良くない」といった規範的な話に終始していて、「いじめを目撃した時にどうすればいいのか」といった実効性のある内容になっていないのが現状です。

――現行の学指導要領の中で、いじめ予防授業はできるのでしょうか。

海外のいじめ防止プログラムのように15コマとまで言わなくても、道徳や総合的な学習の時間を使って、いじめを予防するための授業を実施することは可能です。また、ゲスト講師にいじめの授業をさせる学校も少なくありません。しかし、大規模には行えないのが現状です。

大きな制度改善も必要ですが、現場ではいますぐ使える手法を聞かれがちです。次に紹介する3つのアイデアは、クラス担任の先生がすぐに始められるいじめ対策です。

①いじめについて子どもたちに説明する

まず、いじめについて子どもたちに説明することから始めましょう。例えば、以下のようにいじめへの基本的な姿勢を明確に伝えます。

  • 教室の雰囲気を良好に保つために、いじめや問題行動には先生が責任を持って対応する
  • 先生の言動に問題があれば、遠慮せず指摘してほしい
  • いじめを目撃したら、見て見ぬふりをせず先生に教えてほしい
  • もしも担任が対処しきれない場合は、校長先生、NPO、市役所の児童課など、どこでも構わないから助けを求めてほしい
  • 大人にはいじめに対処する義務があり、そのための法律もある

このように説明した上で、いじめ行為に至るメカニズムと、その対処法を紹介します。

  • いじめや攻撃的なふるまいは、イライラやモヤモヤなど、ネガティブな感情が刺激されて表れる
  • もしかすると、日常のスケジュールや学校のカリキュラムなどが一因かもしれない
  • 状況を一緒に改善していきたいので、イライラやモヤモヤを感じた時には先生に教えてほしい

と伝えましょう。

事前にいじめについて詳しく説明することで、学校や先生がいじめへの対策をしてくれるというラポール(相互的な信頼関係)を醸成できます。

②子どもたちのストレスを取り除く努力

次に、子どもたちのストレスを取り除く努力をします。

人間は大きなストレスを受けると、加害行動や問題行動に出ることが知られています。児童虐待などを見ても、日常的にストレスにさらされている親の方が加害リスクは高まります。ストレスが重なることで、いじめ加害につながる場合があることを踏まえて、教師自身が生徒のストレスの原因にならないということが最重要です。

幼稚園や保育園では、子どもたちに2人以上の保育者がいて、輪から外れた子どもには、必ず一方の保育者が寄り添いサポートする体制ができています。ところが、小学校に入学した途端、先生が声を荒らげて注意したり、輪を乱すと叱咤(しった)されたりと、環境が一変します。

人前で叱らない、怒鳴らない、名前を呼び捨てにしないなど、一般社会であれば躊躇(ちゅうちょ)される行為が、なぜか学校内では許される風潮がいまだにあると感じます。教師が児童生徒に対して有害なふるまいをしてしまうこともあるでしょう。そうしたふるまいを自分の中から取り出していくことが大切です。

どんな行動が子どもにとってストレスになるかを考えて、自身が生徒に威圧感を与えていないか、怖い先生だと思われていないか振り返ってみてください。

また、授業が分かりやすい、授業が面白い先生の教室ではいじめが少ないという報告もあります。日頃から取り組んでいることでしょうが、授業内容の改善といった努力も欠かせません。

③先生自身のいじめ体験を話す

そして最後は、子どもたちに先生自身のいじめ体験を話すことです。

いじめ防止プログラムの中では、大人が過去に経験したいじめの話をしながら、それによって今どれほど辛い思いをしているのかを伝える映像教材が用いられるものがあります。いじめが他人を傷つける深刻な行為であり、成長してもその傷はいえないのだと伝えることで、いじめ抑止につながります。

同様に、「先生が子どもの頃にこんないじめを体験して、それを見てすごくモヤモヤしている。だからこの教室ではいじめをなくしたい」というように、いじめについて自分自身の経験や思いを率直に伝えるのです。

以上の3つは、どれも担任教諭が自身の裁量でできる内容です。ぜひ試してみてほしいと思います。

240626 文科省ともだち
文部科学省公式YouTubeチャンネル 動画教材「ともだち・かかわりづくりプログラム」より

――もしも担任を受け持つクラスでいじめの兆候を感じ取った場合に、どう対応すればよいのでしょうか?

いじめが起きてから対処するのでは遅いです。いじめが起きるかもしれないという気配を感じ取った段階から介入してください。クラス内の人間関係の中で、じゃれ合いの延長線で粗暴なふるまいが発生しているとか、冗談めかした言動や、役割の押しつけが発生している、そうした兆候に気付いた段階から介入するべきだと思います。

自らを主語に「先生だったら傷付くよ」

いじめの前段階、懸念や疑念のさらに手前にある心配の段階で、いかにスーパービジョンを発揮してそれを捕捉して介入するかが問われるでしょう。

注意する場合は、叱るのではなくて、「今の言い方は、先生だったら傷付くよ」などと、私を主語とするI(アイ)メッセージに言い換えて伝えるのも必要です。

子どもたちは、いじめが悪いことだというのを十分に理解していて、この先生の前でやってもよいかというシグナルを受け取ることで行動を変えています。心配の段階で、教員が正しいシグナルを送ることで、その後の懸念や疑念につながる状況を防ぐことができるはずです。

保護者との連携についても、実際にいじめが起きてから関係構築を図るのは難しいです。あらかじめ、学校としての姿勢や方針を保護者に説明しておくことが大切でしょう。できれば、入学や新学期の段階で保護者とカンファレンスを行うのが理想的です。

いじめが発生した場合の学校の行動計画はこういう内容で、不足があれば追加するので、意見を聞かせてほしいというように、学校に任せきりにするではなく、保護者一人ひとりがチームの一員なのだと訴えて連携する姿勢が必要でしょう。

――管理職にできるいじめ対策についても、お考えをお聞かせください。

校長先生にできることは本当にたくさんあります。例えば、教室以外にも子どもたちの居場所を作ること。ただし、いじめの97%は大人のいないところで起きるので、大人の目が行き届くような配慮をした上で、適切な見守りを増やしてほしいです。

それ以外にも、年間の行動計画を立てる、いじめ相談の窓口を作る、各人の発達特性に合わせた授業スタイルを模索するなど、管理職ができるいじめ対策のレパートリーは無数にあると思います。

これは、日本の学校で、今すぐどこまで実現可能かは分かりませんが、バナナやパンなどの朝食を学校に用意しておくといったライフラインの保障も重要です。食事といじめには密接な関係があります。空腹は人をイライラさせたり、集中力をそいだりします。

家庭で朝食を食べてこない子どもが朝食を食べられるような環境が学校にあれば、人間関係、授業への集中度、栄養や健康など、あらゆる面で良い影響が期待できます。予算と手間が要ることなので、簡単ではありませんが。

厳しすぎる校則は緩和を

学校で食事を提供することが難しいのなら、「休み時間に持参した朝食を食べてもよい」と校則を緩和するだけでもよいと思います。1時間目が終わったあとの休み時間に職員室内でパンを食べてもよいだとか、いろいろな工夫ができるはずです。

校則が厳しすぎることで、子どもたちの心理的なストレスへの対処法のレパートリーが制限されることは避けるべきです。また、校則の多さがストレスそのものにつながっているケースも見受けられます。制服や身だしなみなどを含めて、校則は必要最低限のものだけを残して、緩和するべきだと考えます。

服装等について、地域の目を気にするような風潮もありますが、そんなことより子どもたちのメンタルヘルスの方が大事だという発想に立ち、自由で民主的な学校運営に取り組んでほしいと期待します。

自身の周囲の環境は自分たちで改善できるといった、社会統制感覚と呼ばれる感覚を持つことで、子どもたちの秩序に対する忠誠心やコミットメントが高まり、本人のストレスも減少します。校長先生には、不必要な校則を見直すことも検討してほしいですね。

――この記事を読んでいる教職員の皆さんにメッセージを。

最近では教員の多忙化や、部活動の負担、給食の無償化、給食費の集金などの事務手続きの簡素化などが必要だと声を上げているNGOやNPOも多くあります。働きづらさや苦しさを抱えている先生も多いと思いますが、全てを個人のスキル不足の問題であると捉えるのではなく、社会問題の一つとして考えてほしいと思います。

学校の外で、教職員の待遇を改善するよう求める団体や研究者、そして市民は少なくありません。一緒に、教育環境の改善を進めながら、より確からしい方法で、いじめ問題に取り組んでいければと思います。