地域学校協働活動は、個々の地域連携活動を集約した活動のことです。これら活動の総合化とネットワーク化をはかるために地域学校協働本部の整備が進められ、コミュニティ・スクールとの一体的推進が課題とされています。この記事では、その活動のメリットと課題、そして好事例を中心に解説します。
目次
1.地域学校協働活動とは
2017年度から、文部科学省の事業として「地域学校協働活動」がスタートしました。
地域学校協働活動とは「幅広い地域住民らの参画を得て、地域全体で子供たちの学びや成長を支えるとともに、『学校を核とした地域づくり』を目指して、地域と学校が相互にパートナーとして連携・協働しておこなうさまざまな活動」のことです(参照:平成29年度地域学校協働活動事例集 p.2|文部科学省)。
ここでは、地域学校協働活動の具体的な活動内容と目的、コミュニティ・スクールとの関係について解説します。
(1)地域学校協働活動の具体例
地域学校協働活動の主な活動には、学校支援ボランティア活動や放課後子ども教室、地域未来塾があります。また、これらのほかに、土日の教育活動、家庭教育支援活動、学校が関わる地域活動なども当てはまります。
ただし、どのような活動が「地域学校協働活動」に位置づくかは法制上定められていないため、各校が任意に位置づけることになります。
①地域学校協働本部・地域学校協働活動推進員とは
地域学校協働本部(以下、協働本部)とは、従来の地域と学校の連携体制を基盤とし、より多くの地域住民や団体が参画したネットワークを形成することで地域学校協働活動を推進していく体制のことです(参照:地域学校協働活動ハンドブック p.4|文部科学省)。
協働本部は、以下の要素を有するものとされています。
このコーディネート機能を担う存在として「地域学校協働活動推進員」が教育委員会に委嘱され、この推進員がコーディネーターとして活動することになります。なお、この推進員や協働本部は必置ではありませんが、整備により協働活動を効果的に推進できるようになります。
(2)地域学校協働活動の目的
前述した文部科学省の定義に記されているように、地域学校協働活動の目的は、学校や家庭(保護者)、諸団体などにより、地域ぐるみで子どもたちの学びや成長を支援すること、学校を核にして地域づくりを推進することにあります。
言い換えれば、地域ぐるみで子どもの人格形成を図り、同時に地域の活性化など持続可能な地域形成に資することを目的とするわけです。
(3)地域学校協働活動が求められている背景
近年、学校を取り巻く状況に大きな変化が見られるようになりました。文部科学省は「地域における教育力の低下、家庭の孤立化などの課題や、学校を取り巻く問題の複雑化・困難化に対して社会総掛かりで対応することが求められる」と述べています(参照:地域学校協働活動パンフレット p.12|文部科学省)。
そのうち、学校を取り巻く複雑化・困難化の具体例として、生徒指導上の問題の激化(特に小学校)、貧困格差による児童生徒の学びに対する負の影響、日本語がわからない児童生徒などの増加、発達障がいのある児童生徒の増加などの課題が挙げられます。
これらの課題に対して、学校や教職員だけでは解決困難な状況にあることから、地域ぐるみで子どもたちを育てる取組の在り方として地域学校協働活動が提起されました。
一方、地域学校協働活動はどのような方法で地域づくりにつながるのでしょうか。2015年の答申では「学校運営や教育活動等への参画を通じ、地域の人々が集うことで、学校が社会的なつながりが得られる場となり、地域のよりどころとなる」という道筋で地域づくりにつながるというのです。
そうして地域の魅力が高まり、地域に若い世代を呼び込むことができる論理になります(参照:第1章 時代の変化に伴う学校と地域の在り方について 第2節 これからの学校と地域の連携・協働の在り方|文部科学省)。
(4)地域学校協働活動とコミュニティ・スクールの違い
文部科学省は、地域学校協働活動とコミュニティ・スクールとの一体的な推進を目指しています。そもそもコミュニティ・スクールとは何か、地域学校協働活動との違いはどのような点か、少し詳しく見ていきましょう。
コミュニティ・スクールとは、学校運営協議会を設置した学校をいいます。学校運営協議会とは、保護者や地域住民の代表、地域学校協働活動推進員などの委員が一定の権限を持ち、学校の運営について協議する機関です。
地域学校協働活動は地域と学校の協働による実践の活動そのものですが、コミュニティ・スクールに置かれる学校運営協議会は、どちらかというと学校改善を目的とした協議を中心とする仕組みといった違いがあります。
出典:これからの学校と地域 コミュニティ・スクールと地域学校協働活動 p.3|文部科学省
コミュニティ・スクールは、2000年の教育改革国民会議の提案に基づいて、2004年に創設されました。同年には「地域子ども教室推進事業」が委託事業としてスタートします。この事業は、放課後や週末の子どもの体験活動などを支援することを目的としていました。
その後、同事業は文部科学省と厚生労働省との連携による「放課後子どもプラン」として形を変えて継続され、さらに2008年には文部科学省の社会教育事業として学校支援地域本部が開始されます。コミュニティ・スクールに置かれる学校運営協議会が学校支援活動に取り組む例が増えたことも、本部設置が背景にあるといえます。
そうして、コミュニティ・スクール、放課後教室、学校支援活動などが取り組まれるようになったことから、2015年には地域学校協働活動と称する新たな活動を提案し、コミュニティ・スクールとの一体的な運用を進めるよう提言しました。
この答申を受けて、2017年に社会教育法の一部改正により「地域学校協働活動」に関する規程が設けられ、また、地方教育行政の組織及び運営に関する法律の一部改正によってコミュニティ・スクールの導入が教育委員会の努力義務とされたのです。
2.地域学校協働活動の実施による効果・メリット
文部科学省・国立教育政策研究所が実施した「平成27年度 地域学校協働活動の実施状況アンケート調査」では、地域学校協働活動の効果として、子ども・地域・学校のそれぞれに分けて以下のように記しています。
以下では、それぞれの効果について補足を加えながら解説します。
(1)子どもにとっての効果
- 実際に事業に参加してみて、子供たちが地域住民と交流することにより、さまざまな体験や経験の場が増え、コミュニケーション能力の向上につながった
- 実際に事業に参加してみて、子供たちが地域住民と交流することにより、さまざまな体験や経験の場が増え、地域への理解・関心が深まった
上記の質問に対して、アンケート対象となった学校は、それぞれ約9割が「とてもそう思う」「ややそう思う」と回答しました(引用:地域学校協働活動ハンドブック p.8|文部科学省)。子どもたちは、日頃接している保護者や友人、教員とは世代や考え方、文化の異なる地域住民等と接することにより、人間関係を広げ、さらに学校などでは体験しにくい活動に触れる機会が得られるメリットがあります。
(2)地域への効果
- ・実際に事業に参加してみて、地域住民が学校を支援することにより、地域の教育力が向上し、地域の活性化につながった
- ・実際に事業に参加してみて、地域住民の生きがいづくりや自己実現につながった
同様に上記の質問では、それぞれ約7割の学校が「とてもそう思う」「ややそう思う」と回答しました(引用:地域学校協働活動ハンドブック p.10|文部科学省)。地域住民が学校支援や様々な協働活動に関わることによって、学校に対する当日者意識が高まる成果が見られ、住民自身にとっては子どもたちと接することによってやり甲斐を感じ、その結果、地域の教育活動に寄与しようとする気運が高まり、地域の活性化につながる効果が指摘できます。
さらに、住民が地域の子どもたちに関心を抱くことによって、安全安心なまちづくりに寄与することができます。
(3)学校にとっての効果
- ・地域住民が学校を支援することにより、教員が授業や生徒指導などにより力を注ぐことができた
上記の質問に対しては、約7割の学校が「とてもそう思う」「ややそう思う」と回答しました(引用:地域学校協働活動ハンドブック p.9|文部科学省)。学校支援活動によって、教員の業務を補助したり、学校だけでは実施困難な体験活動に取り組んだりできるようになります。また、住民の協力によって夜間パトロールを実施した結果、補導件数が激減した学校もあるように、生徒指導上の課題解決につながった例もあります。
また、地域学校協働活動に参加する子どもの様子から学校内とは異なる子どもの姿が見られるようになるなど児童生徒理解が深まったという教員の声も聞かれます。
実際、地域学校協働活動は学校にとって負担増になると言う指摘もありますが、その活動が軌道に乗り、定着するにつれて、負担も軽減される傾向にあります。
3.地域学校協働活動の具体的な取り組み事例
ここでは、地域学校協働活動の具体的な事例として、コミュニティ・スクールによる家庭教育支援(小学校)、地域による協働塾(中学校)、放課後教室(高等学校)について取り上げてみたいと思います。
(1)府中南小学校における家庭教育支援
広島県府中町立府中南小学校は、2014年のコミュニティ・スクール導入に際して、実働部会を4部設置しました。
スポーツ大会の練習支援や子育て談話室企画運営をおこなう「家庭教育部」、授業補助などで学力向上を図る「学習支援部」、掲示物や清掃などを担当する「学校環境部」、登下校の見守りや校内パトロールをおこなう「安心安全部」も置かれ、それぞれに「南っこサポーター」と呼ばれるサポーターが関わっています。
この活動の背景に、同町家庭教育支援チーム「くすのき」の働きがあります。くすのきは、活動の一つとして、コミュニティ・スクールの子育て談話室の支援などに取り組んでいました(参照:『季刊教育法』No.204「コミュニティ・スクールを生かしたサポーター活動」 )。
子育て談話室では、最初にヨガでリラックスした後に、子育ての話題を中心に参加した保護者同士で話し合い、これに対して子育ての先輩が助言をするといった構図がとられています。保護者が一人で抱えていた子育ての悩みを打ち明け、アドバイスをもらうことによって家庭教育の悩みや迷いの解決を図ることがねらいです。
家庭教育支援は、教育基本法第10条2において、「国及び地方公共団体は、家庭教育の自主性を尊重しつつ、保護者に対する学習の機会及び情報の提供その他の家庭教育を支援するために必要な施策を講ずるよう努めなければならない」と明記されています。本校の家庭教育部の活動は、同法の理念を具現化したものといえるでしょう。
(2)春日南中学校と地域が展開する協働講座
福岡県春日市は、市内公立小中学校全校にコミュニティ・スクールを導入しています。各校は独自の取り組みを進めていますが、春日南中学校では「なんちゅうカレッジ」と称するユニークな地域学校協働活動を展開しています。
なんちゅうカレッジは、コミュニティ・スクール活動の一環として、学校を会場にして土曜日に実施される教育活動です。地域住民らが講師になって、学校の教科以外の学習内容を取り上げ、生徒と住民が机を並べて学ぶ講座を年20~30件開催しています。運営は地域住民から構成される「なんちゅうカレッジ委員会」で、学校やPTAと連携して活動しています。
<なんちゅうカレッジのねらい>
- 学校の教科では学べない社会知識を身に付けること
- 将来の人生設計を考える契機を掴むこと
- 保護者以外の大人、社会との接し方を学ぶこと
- 家庭では得られない社会生活のルールを学ぶこと
また、地域の大人が「地域の教育について理解を深める契機にすること」もねらいとされています。生徒の育ちのみならず、地域づくりもねらいにしていることがうかがえます。
令和5年度の開設講座は、おもしろサイエンス、 電気機器工作、知って得する薬の科学、 お金の教室、手書きPOP、楽しい籐細工、三味線、演劇・ミュージカル、 硬式テニス、ゴルフなど19講座です。これらの例示を見ても、学校の教科では学べない内容であることがわかります。
そのほか、同校では、地域貢献、防災訓練、学習支援、小中連携、社会奉仕活動、放課後学習会なども地域学校協働活動に位置づけて取り組んでいるところです。
(3)秦野曽屋高校の放課後学習教室「曽屋塾」
神奈川県立秦野曾屋高校は、地域住民と大学生のボランティアを講師とする放課後学習の場「曽屋塾」を2010年度から実施しています。
当時の校長が生徒の学力を少しでも伸ばしたいという願いによって始まり、地域連携の視点を重視して地域住民や近隣の大学に在籍する学生を講師として起用しました。開始当初は、学生2人と社会人10人の講師により、52人の生徒に対して数学と英語の塾が開講され、現在は物理と化学も加わっています。
当初は教員志望の学生に対する学習指導の体験的学びの機会として構想されていましたが、次第に学生講師の人数が減少し、現在は地域住民らの社会人講師が主力になっています。その意味で、地域との協働という色合いが濃くなったと解することができます(参照:『季刊教育法』No.205 秦野曽屋高校「校内学習支援の場『曽屋塾』」)。
同県の県立高校としていち早くコミュニティ・スクールに指定されたのは、10年間にわたって「曽屋塾」に取り組んできた実績があったからこそです。本校では「地域協働活動」の取組であることを前面に出しているわけではありませんが、その活動の在り方から見る限り、放課後の学習教室としての意味を持つ点で、その活動に位置づくことになります。
春日南中学校「なんちゅうカレッジ」は地域の主導性が強いのに対して、秦野曽屋高校「曾屋塾」は学校の主導性が強い取り組みになります。いずれも従来の学校支援活動の範囲を超えた取り組みだといえるでしょう。
4.地域学校協働活動の推進に向けた課題
令和5年度コミュニティ・スクール及び地域学校協働活動実施状況調査の結果によると、2023年時点での地域学校協働本部は2万1144校で、整備率は61.0%に留まります。また、協働本部の整備率は、福井県・4.4%、山口県・98.6%と数値が大きく開いています。指定都市の場合は、浜松市と横浜市の0%に対して、さいたま市の100%のほか8市では90%を超えているといった状況です。
ただし、福井県の場合、法律に基づくコミュニティ・スクールではない県独自の類似制度である「家庭・地域・学校協議会」が設置され、この協議会が協働本部に類似する役割を担っています。こうした地方間の格差は、教育委員会の考え方に依拠することになります。
地域学校協働活動の展開や協働本部の設置をめぐっては地域に温度差が見られ、なかなか取り組みが進展しない地域や学校が見られます。ここでは、地域学校協働本部の推進に向けた課題や問題点について解説します。