急増する不登校児童生徒に対応するための学びの多様化学校が全国各地に設置されています。2023年には、文部科学省が将来的には300校にしたいと宣言しました。この記事では、学びの多様化学校とはどのような学校か、それが設置された背景や効果とともに、設置の大まかな流れや設置時の留意点、課題など、理解を深めるうえでおさえておきたいポイントを概説します。

1.学びの多様化学校(いわゆる不登校特例校)とは

学びの多様化学校とは、不登校児童生徒の実態に配慮して、特色ある教科を新設したり、総授業時間数を削減したりするなど、特別の教育課程を編成して教育を実施している学校です。学校教育法施行規則第56条等に基づいて文部科学大臣が指定するもので、一般の小学校、中学校、高等学校等と同じく卒業資格を得ることができます。もともとは不登校特例校と呼ばれていましたが、2023年8月31日に学びの多様化学校に改称されました。

学びの多様化学校は、教育課程の基準によらずに、それぞれ特色あるカリキュラムを編成しています。ただし、「教育課程の基準によらず」と言っても、学習指導要領等を無視していいという意味ではありません。憲法や教育基本法の理念を踏まえ、学校教育法に定める学校教育の目標の達成に努めなければなりません。また、対象となる児童生徒の範囲や、具体的な教育課程の編成についても、さまざまな留意事項が付されています。

2.学びの多様化学校が推進される背景

学びの多様化学校が推進される背景として、不登校の児童生徒数の増加に対応しようとする文部科学省の対策の流れとともに、内閣府が主導した規制緩和の流れを挙げることができます。

1970年代後半から増加し始めた不登校について、文部科学省はスクールカウンセラー(SC)やスクールソーシャルワーカー(SSW)の導入、教育支援センター(適応指導教室。不登校児童生徒の学習支援やカウンセリングを行うために、通っている学校以外の場所に設けられた教室。教員免許を有する職員や心理系の資格を有するスタッフが配置されている)の設置など、さまざまな対策を講じてきました。しかし、不登校の児童生徒数はここ数年間で急増し、2022年度には不登校の小中学生が約30万人となっています。

不登校児童生徒数の推移のグラフ 出典:令和4年度 児童生徒の問題行動・不登校等生徒指導上の諸課題に関する調査結果について p.70丨文部科学省

不登校児童生徒数の推移のグラフ 出典:令和4年度 児童生徒の問題行動・不登校等生徒指導上の諸課題に関する調査結果について p.70丨文部科学省

こうしたなかで、学びの多様化学校という不登校児童生徒の実態に配慮した特例的な学校を設置することになったのは、規制緩和の政策が進められたからです。2002年、当時の小泉内閣は、停滞する経済の活性化と地方分権の推進を図ることをねらいとして、構造改革特別区域法を制定しました。この規制の特例措置の一つとして、2004年に「不登校児童生徒等を対象とした学校設置に係る教育課程弾力化事業」が閣議決定されました。そして翌2005年に、同法の定める手続きによらずにこの事業を実施できるようにと、学校教育法施行規則の一部が改正され、全国で設置ができるようになりました。なお、当初、学びの多様化学校は、不登校特例校と呼ばれていました。

学びの多様化学校を推進したもう一つの施策は、2016年に制定された教育機会確保法(義務教育の段階における普通教育に相当する教育の機会の確保等に関する法律)です。この法律では、不登校児童生徒に対する多様で適切な教育機会の確保が求められ、その一つとして、不登校特例校の一斉の設置の促進に向けて、設置の申請に係る指導支援や効果的な取り組み事例の紹介などを行うことがうたわれました。そして、同法の方針に基づいて、2023年6月に閣議決定された教育振興基本計画において、各都道府県・政令指定都市で不登校特例校の1校以上の設置、ならびに将来的には全国で300校の設置を目指すこととされました。

また、2023年3月に出された「誰一人取り残されない学びの保障に向けた不登校対策(COCOLOプラン)」の中で、「「不登校特例校」の名称について、より子供たちの目線に立った相応しいものにすることがうたわれました。これを踏まえ、2023年8月31日に、不登校特例校は、「学びの多様化学校」という名称にすることが決定されました。

3.学びの多様化学校の設置状況

学びの多様化学校の全国の設置数は、2024年4月時点において、16都道府県(12都県、7政令市)で35校に上っています。2023年度は24校でしたが、2024年度に新たに11校が新設されました。35校のうち公立校が21校、私立校は14校です。また学校種別では、小学校4校、中学校22校、高等学校6校、義務教育学校(小中一貫校)3校となっています。

設置形態は、①学校型(独立して設置されるタイプ)、②分教室型(一部の学級のみ学びの多様化学校として指定されたタイプ)、③分校型(母体となる本校と分離して設置されるタイプ)、ならびに④高校でのコース指定型に分けられます。政令市など都市部を中心に新しい学校の開設はハードルが高く、35校のうち13校は分教室型で設置されています(参照:学びの多様化学校〈いわゆる不登校特例校〉の設置者一覧丨文部科学省)。

また、文部科学省が2023年7月から9月にかけて実施した「学びの多様化学校実態把握調査」によれば、2023年4月現在の児童生徒数は、小学生70人、中学生1285人、高校生701人となっています(参照:学びの多様化学校の設置に向けて【手引き】p.24丨文部科学省)。

4.学びの多様化学校の効果

「学びの多様化学校実態把握調査」では、学びの多様化学校の教育上の効果として、以下の3点が指摘されています。