クリティカルシンキング(批判的思考)は、人々の多様な幸せ(ウェルビーイング)と民主主義社会に貢献できる重要な力と言われており、学校教育においてもしばしば重視されています。この記事では、クリティカルシンキングのプロセスや注目される背景、メリットを概観したうえで、児童生徒に身につけてもらうための教育のポイントについて、教育学研究者がわかりやすく解説します。
目次
1.クリティカルシンキング(批判的思考)とは
クリティカルシンキングとは、思い込みや既成概念にとらわれずに物事を判断しようとする思考のことです。批判的思考と訳されますが、ここでいう「批判的」とは物事を否定的に捉えることではなく、自分なりの解釈や考えを疑い、客観的に分析、評価をして物事の本質を捉えようとする行為を指します。
クリティカルシンキングでは、例えば、報道、発言、書籍などから「日本の教員は働きすぎだ」といった情報を得た際、まずは自分自身のこれまでの経験と知識に基づきながら自分なりの解釈を行います。次に、「この解釈で本当に正しいのか」と、新しい情報を集めながら多角的・多面的な分析を行います。その後、「自分の解釈に誤りや偏りがないか」と妥当性・信頼性を評価し、「もしかしたら、このような捉え方ができるのではないか」と多様な価値観の中で吟味して推論します。それらを踏まえて、最終的には「このような判断をしたほうが良いだろう」と意思決定をするのが、クリティカルシンキングの基本的な流れです。
クリティカルシンキングを行う際には、メタ認知(自分が思考していることを、もう一人の自分がより高次から客観的に捉えて把握し、活動に反映させること)を行うことが重要です。
クリティカルシンキングの思考プロセス(筆者作成)
2.クリティカルシンキングとロジカルシンキングの違い
クリティカルシンキングと並んでよく紹介される思考法に、ロジカルシンキングがあります。
ロジカルシンキングは、論理的に物事を考える思考を指します。「論理的に考える」とは、前提から結論まで筋道を立てて、合理的に物事を考えるプロセスです。ロジカルシンキングには、演繹推理(一般的事実や原理から推理すること)、帰納推理(特殊な事例または個別的な事実から推理すること)、アナロジー推理(ある領域の特殊な事例、または個別的な事実に当てはまる関係を別の領域に適用して推理すること)などがあります(参照:『批判的思考』p.90~93「論理的思考」)。
他方、クリティカルシンキングは、前提から振り返り、多様な観点でその妥当性や信頼性を解釈、分析、評価、推論していきます。そのため、論理的に物事を考えるだけではなく、探究心を持って、主観にとらわれず客観的に分析し、適切な証拠を集めて、多角的・多面的に考え、妥当性を評価することもクリティカルシンキングのプロセスに含まれています。
このクリティカルシンキングのプロセスの中で、思考を説明する力やメタ認知が必要であると言われています。クリティカルシンキングの「④推論」の部分では、ロジカルシンキングで用いられる演繹推理や帰納推理などを行い、論理的に考えを整理します。この「推論」自体が、妥当なのか、信頼性があるものなのか、評価しながら考えを改善していくことがクリティカルシンキングの特徴です。