GIGAスクール構想のもと、1人1台端末が普及し、今まで以上にテクノロジーを教育に生かすことができるようになりました。一方で、学校現場ではそのテクノロジーを十分に活用しきれていないという声もよく聞かれます。課題はどんなところにあるのでしょうか。この春、朝日新聞グループに仲間入りした日本最大級の教育イベント「未来の先生フォーラム2024」のオンラインのプログラムで7月29日、リアルのプログラムでは9月14日に講演いただく東北学院大教授の稲垣忠さんに聞きました。

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稲垣 忠さん(いながき・ただし、東北学院大学文学部教授・学長特別補佐)
関西大学大学院総合情報学研究科博士課程後期課程修了。博士(情報学)。専門は、情報教育、教育工学。東北学院大学教養学部講師、准教授等を経て、現職。日本教育工学協会常任理事、日本教育工学会・日本教育メディア学会理事等を務める。共訳に「情報時代の学校をデザインする 学習者中心の教育に変える6つのアイデア」(北大路書房)著書に「探究する学びをデザインする!情報活用型プロジェクト学習ガイドブック」(明治図書)など。

テクノロジー×学校教育-教育活動におけるテクノロジー活用の理論と実践-

GIGAスクール構想が始まったことに加えて、コロナ禍が結果的にもたらしたことでもありますが、学校教育へのテクノロジーの浸透が進みました。それにより、学校の授業は家庭や社会とよりつながりやすくなり、「学び」の枠は従来と比べて広がっています。

一方、学校やクラスによっても端末の活用頻度には差があると言われます。テクノロジーをどのように学習に生かしたらいいか悩んでいる先生もまだいらっしゃるのではないでしょうか。今回の講演がそのような先生方のヒントになればと思います。

240618 稲垣忠さん

講演ではさまざまなテクノロジーの授業や学習での活用事例もご紹介します。ただし、具体的な活用場面を知っていただくだけでは本当の解決にはなりません。一番大切なのは、今求められている「主体的・対話的で深い学び」「個別最適な学び・協働的な学び」とはどのようなものか、子どもたち主体の授業をどう作っていくか、をイメージすること。これまでの授業観・学習観が変わっていく中で、テクノロジーの使い方もおのずと見えてくるのではないかと思います。

「探究的な学び」 深める環境を整えたい

子ども主体の授業で学ぶ児童生徒の振り返りをみると、「次の授業のためにこんな家庭学習をしたい」など、子どもたち一人ひとりが学習の見通しを持って取り組んでいます。教師が主導する従来の一斉授業から、子どもが主体的に学びを深め、学習過程をデザインする学びにどのようにシフトしていくか。それをテクノロジーが支えてくれるということを伝えたいと思います。

私は2000年代初頭の学生時代、「学校間交流学習」をテーマに研究していました。離れた地域の子どもたちがそれぞれの地域で探究したことを、インターネットをつないで議論する実践でした。

最初は先生がリードして子どもたちはおずおずと話していましたが、次第に子どもたちが前面に出てきて、先生は後ろに下がっていく。教師だけが正解を知っていて、子どもは答え合わせのように応答する授業とはまるで違う姿がそこにはありました。その様子を見て、探究的な学びから子どもたちが得られるものは本当に大きいと魅力を感じ、そんな学びを深めることができる環境を整えていきたいと考えるようになりました。

子どもたちが自分の興味関心に応じて学びを深めるには、学びを支える「情報活用能力」は欠かせません。インターネットや図書館を利用した情報収集・活用の仕方、プログラミング、情報セキュリティーや情報モラルの知識など、現在の学習指導要領では、各教科にまたがって育成するとされています。そのため、カリキュラムマネジメントをしっかり行うことが重要です。

生成AIの進歩と今後の教育

これからは生成AIと教育のかかわりも重要になってきます。人間の知的な活動のうち、AIが代行できる部分がますます増えています。これまでのAIを使った学習は、各自の学習状況に合った問題を出して、つまずいているところを先生が対面でじっくり指導・支援するといったものでした。一方で、個別の支援もAIの方が気兼ねなく相談できるといった声を聞くこともあります。

探究学習でも、問いを立て、情報を集め、整理・分析し、まとめるといった過程をそれらしく代行してしまいます。子どもたち自身が学習の見通しをもち、AIを含むさまざまなテクノロジーの助けを借りつつも、情報の信頼性や技術の限界を見極め、判断する力が求められます。

このようなことをふまえると、情報活用能力も今とは内容が変わってくるでしょう。先生の役割としては、子どもたちが本気になって追究したい、伝えたい、そんな意欲を呼び起こし、学びの主導権が教師やAIではなく、子ども自身にあることを保障する役割が、より大切になってくるのではないでしょうか。

子どもたち一人ひとりにとって適切な学習環境を整えるには何が必要か、学ぶことの楽しさを実感してもらうにはどうしたらいいか。私はそこに、テクノロジーの役割や影響を正面から考える時代になったと考えています。講演を通じて、テクノロジーの活用とこれからの教育について、皆さんと一緒にディスカッションできることを楽しみにしています。

稲垣忠さんの7月29日のオンライン講演「テクノロジー×学校教育-教育活動におけるテクノロジー活用の理論と実践-」の申し込みはこちらから→