神奈川県鎌倉市は、「鎌倉スクールコラボファンド」という独自の資金獲得の手段を生み出し、小中学校の探究的な学びに生かしています。どのような仕組みで、従来の教育予算とはどこが異なるのでしょうか。文部科学省から外資系コンサルティング企業を経て2023年に教育長に就任した異色の経歴を持つ高橋洋平さんにうかがいました。
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宮城県登米市出身。同市教育長を務めた父の影響を受け、教育の道に進む。東北大学教育学部卒業後、文部科学省に入省。教職員の人事制度、高校の授業料無償化、学校のデジタル化、福島県での復興教育などの業務に携わる。文科省を退職した後、コンサルティング企業の教育チームマネジャーとして、学校における働き方改革などを支援。2023年から現職。
寄付を募り教育活動の実現を加速
——教育長就任の経緯をお聞かせください。
大学で教育行政学を学び、文部科学省職員として、主に初等中等教育行政に携わってきました。文科省から福島県教育委員会へ5年間出向して教育の復興に携わった際、文科省が言う正しいことをいかに「本当に」正しいこととして現場に実装するかが教育行政の課題だと実感しました。また、公教育が質の高い学びを保障するには、ビジョンを示しつつも、子どもたちの視点に立ったリーダーシップを発揮する必要があるとも感じました。
文科省を退職して民間のコンサルティング企業に勤めていた折、鎌倉市長からお声がけいただいて2023年8月に教育長に就任しました。
教育長は、自治体の首長が直接任命する特別職の地方公務員であり、退職した校長先生が務められるケースが多いです。これからの教育委員会のリーダーシップには、専門性を有する多様な人材の活用が求められると考えています。
——スクールコラボファンドとはどのようなものですか?
現代の学校教育は、探究的な学びや多様な学びの場が求められる一方で、それを実現するためのリソースが限られています。また、子どもたちや先生たちがワクワクする学びをつくる際に、税金や補助金だけだとタイミングや用途に柔軟性を欠くという課題もあります。つまり、現状の教育行政の仕組みでは、「今、これをやりたい」という現場の希望に対して、スピード感のある対応が難しい。そこで始めたのがスクールコラボファンドです。
教育委員会がガバメントクラウドファンディング、つまり寄付を募って、学校の探究的な学びの財源にするという仕組みです。ふるさと納税制度を活用することで、寄付者にも税額控除のメリットがあります。集まった寄付金を元に教育委員会が、「こういう活動をやりたい」という学校側の要望と、民間企業などをマッチングすることで、新しい学びを創出しています。
リアルな社会課題を題材とした学習を実施するための資金を獲得するため、ふるさと納税制度を活用して寄付を募る仕組み。より魅力的で豊かな学びを子どもたちに体験してもらおうとの趣旨を打ち出している。教育委員会は、小中学校からどんな活動がしたいのか具体的な要望を受け、企業やNPO、大学などとマッチングして活動をサポートしている。これまで4回のクラウドファンディングで計2638万円を集め、「カフェでフードロス対策案の提案と実施」「車いすバスケットボールの試合体験」「まちのステキがいっぱいの手書き地図作り」など延べ29件のプロジェクトを実施した。
——具体的にはどのようなプロジェクトが実現していますか?
初年度(2021年度)の実施は……