変化の激しい予測困難な時代を生き抜くためには、メタ認知を高めることが重要です。メタ認知とは一体どのような能力なのでしょうか。学校教育のなかで、メタ認知をどのように育成したらよいのでしょうか。いま注目を集めているメタ認知について、教育学研究者がわかりやすく解説します。

1.メタ認知とは

メタ認知(Metacognition)とは、自分が思考していることを、もう一人の自分が、より高次から客観的に捉えて把握し、活動に反映させることです。

メタ(Meta)は「高次の」「より上位の」という意味を持つ接頭語であり、認知(cognition)は推理や思考に基づいて物事を理解したり、判断したり、解釈したりするプロセスを意味しています。

これら二つの用語をあわせた「メタ認知」とは、人間や課題に関する認知特性を観察(モニタリング)しながら、客観的にその認知の状況を判断し、調整(コントロール)して改善することを意味しています。

メタ認知は、古代ギリシアの哲学者であるソクラテスの「無知の知」を連想させる概念だともいわれています。わかったつもりでいたけれども、自分が無知であることを自覚したという「無知の知」は、これから本質的な知を獲得しようとするうえで、重要なきっかけとなる気づきです。このようなメタ認知を促す行為について、詳しく学んでいきましょう。

(1)メタ認知の概要

アメリカの心理学者であるジョン・H・フラベル(John H. Flavell)が、1970年代にメタ認知の理論的研究成果を発表し、メタ認知の要素を定義づけました。その後、メタ認知の実証的研究や介入プログラムの開発がなされ、学校教育においてもメタ認知の育成が意義あるものだと注目を集めています。

見たこと、聞いたこと、理解したこと、考えたこと、判断したことなど、自分の「認知」が正しいかどうか、一段高いレベルから見渡して、よりよい方向へ改善していくことが、メタ認知を働かせるということです。

(2)メタ認知の種類と具体例

メタ認知は「メタ認知的知識」と「メタ認知的活動」という二つのカテゴリーに分けられます。

メタ認知を説明する表

以下、「メタ認知的知識」と「メタ認知的活動」の具体例を説明します。

①メタ認知的知識

メタ認知を働かせるときに影響を与える知識のことを「メタ認知的知識」といいます。ジョン・フラベルは、メタ認知的知識を「人間」「課題」「戦略」の三つのカテゴリーに分けており、これらの知識がメタ認知を働かせるときに影響を与えるものだと説明しています。

メタ認知的知識の一つ目が、人間(person)の認知特性に関する知識です。これは、自分や他者の長所・短所など、人間がもともと備えている特性に関する知識のことです。例えば、「人は一度にたくさんのことを言われても覚えられない」という認知特性や、「緊張すると話すスピードが速くなる」という人の性質に関する知識を指します。

二つ目が、課題(task)の特性に関する知識です。これは、課題の性質や課題が求めている本質に関する知識のことです。例えば、「抽象的な話はイメージをしにくい」「話が長いと要点がつかみにくい」という課題そのものが抱えている特性を指します。

三つ目が、課題解決に向けた戦略(strategy)に関する知識です。これは、課題をよりよく遂行するための戦略や方略に関する知識のことです。例えば、「文章だけで説明するよりも、絵や図を用いて説明した方がわかりやすい」「要点をしぼって説明した方が記憶に残る」「具体的な話の方がイメージしやすい」というように課題を解決するための戦略的な方法に関する知識を指します。

メタ認知を働かせるときは、このような「人間」「課題」「戦略」に関するメタ認知的知識を持っているかどうかで、改善活動の質が変わってきます。

②メタ認知的活動

メタ認知を働かせることを「メタ認知的活動」といいます。

メタ認知的活動は、認知特性について「モニタリング(観察)」する活動と、認知特性を「コントロール(調整)」する活動に分けられます。

メタ認知的モニタリングとは、認知特性や行動を観察することです。具体的には、その状況をどれくらい理解しているのか、自分は何を知っているのかといった現状を把握することを指します。自分自身の特性を観察して、自分の現状を認識することをセルフモニタリングといいます。

メタ認知的コントロールとは、目標に向かって計画を立てたり、修正したりしながら、認知特性や行動を調整して変化させることです。自分自身の行動を調整して変化させるセルフコントロールは、時間内に目標を達成するために重要な力となります。

メタ認知的活動のイメージ図(筆者作成)
メタ認知的活動のイメージ図(筆者作成)

(3)メタ認知の育成が求められている理由

新しい知識・情報・技術が絶え間なく生まれる知識基盤社会においては、「何を知っているか」という知識習得型の教育では不十分であり、知識を活用して「何ができるようになるか」というコンピテンシー育成型の教育が目指されています。

コンピテンシーとは、単なる知識だけではなく、技能や態度を含む人間の包括的な資質能力のことを指しており、変化の激しい社会のなかで複雑な課題に対応できる力のことを意味しています。このようなコンピテンシーの育成には、メタ認知を伸ばしていくことが有効であると考えられています。

OECD(経済協力開発機構)の学習到達度調査(PISA)では、21世紀に求められる数学的スキルを評価する際に、「何を知っているか」という知識のみを問う出題ではなく、「人生で直面する問題を解決するためには、どのような知識を応用して、その問題解決に活用できるか」という思考力が問われてきました。

なかでも複雑な課題を解く際には、自分が何を知っているのか現状を認識したうえで、適切な知識を引き出し、目標達成に向けて適切な解き方を見極め、思考を重ねることが必要です。こうした高次の思考のプロセスがメタ認知であり、この能力の育成が学校現場においても求められています。

2.メタ認知を高める重要性

変化の激しい予測困難な時代を生き抜くためには、メタ認知を高めることが重要です。学習指導要領では、育成すべき資質・能力を次の三つの柱で整理しています。

文部科学省が示した三つの能力を説明する表

参照:2.新しい学習指導要領等が目指す姿|文部科学省

文部科学省は、この三つの能力のうち、主体的に学習に取り組む態度を含めた「学びに向かう力」が、メタ認知に関わる力であると示しています。

学習者自身が、学ぶことに興味や関心を持ち、自分の目標に向かって粘り強く取り組み、自分の学びを振り返って、次につなげるような学びの実現を目指す活動が、メタ認知を発揮した主体的な学びといえます。

以下、メタ認知を高める重要性について、教育的な観点から三つお伝えします。

(1)目標に効率よく近づける

メタ認知を高めることで、効率的に目標達成に近づけるようになります。

例えば、学習や仕事などの場面で、期日までに完成させなければならない課題があるとき、メタ認知を的確に発揮すると、より効率的にその目標に近づくことができます。自分の持っている能力とその時々の忙しさの状況を自分で認識しつつ、課題の難易度を見極めながら、完成までの作業全体像を俯瞰(ふかん)して、段取りを考えて一つひとつ行動することが、成功への第一歩になるでしょう。

このように、課題に対する自分の処理能力を認識しながら、現実的な時間的制約などを考慮して、完成までの見通しを立てて課題に取り組むというメタ認知的活動は、学校教育だけではなく生涯にわたる日常生活においても必要な能力です。

(2)主体的で自律的な学びを深めることができる

メタ認知を身に付けることで、人から指示を受けなくても、自分で自らの行動を選択できるようになります。

メタ認知を有することで、社会の状況や自分の将来の目標を多面的に分析しながら、自分はいま何をしなければならないのか、目標に向けて自分の行動を俯瞰(ふかん)し、具体的な計画を立てて、自分の行動を変化させることができるのです。

主体的で自律的な学習者を育てるには、このようなメタ認知を学校教育のなかで身に付けることが大切です。

(3)感情をコントロールすることができる

メタ認知を働かせることで、感情をコントロールできます。

沈んだ気持ちで作業をするよりも、楽しく安定した気持ちで作業をする方が、高いパフォーマンスが期待できるため、感情をコントロールできる力は重要です。

ネガティブな感情を爆発させないためには、その兆候を事前に察知して、コントロールするというメタ認知を発揮させることが必要です。

3.メタ認知が高い人の特徴

メタ認知を高める重要性についてお伝えしましたが、「メタ認知が高い」とは具体的にどのような状態を指すのでしょうか。ここでは、メタ認知が高い人の特徴を紹介します。

(1)自分を客観的に観察できる人

メタ認知が高い人は、自分のことを客観的に観察し、分析できます。自分の得手不得手を認識したうえで、自分の行動を分析し、足らない点を補いつつよりよい方向へ自分の行動を変化させることができるのです。

また、環境や状況が変化したときに、自分はどのように適応したらよいか、物事を冷静に捉えながら、自分の行動を考える柔軟な対応ができます。

(2)他者の考えを想像できる人

メタ認知が高い人は、自分のことだけではなく、他者の言動を観察して他者の考えていることを想像できます。事前に他者の考えを想像するため、周りの人への配慮が行き届いたり、他者との距離感を見極めたりして、円滑な人間関係を築くために自分の言動をコントロールできる点が特徴です。

(3)失敗経験を振り返り改善できる人

メタ認知が高い人でも、認知を誤ることがあります。失敗した経験も含めて、自分の言動を振り返り、行動を修正しながら、変化させることができる人は、認知能力が高いといえます。

4.メタ認知が低い人の特徴

メタ認知が低い人の特徴を挙げると次の通りです。

  • 自分には何が足らないのか、自分の能力を俯瞰(ふかん)できない人
  • 目標達成に向けて、自分をコントロールできない人
  • 他者の考えを想像せず、一方的な言動をとってしまう人

メタ認知は、高められるスキルです。メタ認知が低い人の特徴に当てはまる人は、自分の感情や行動に向き合いながら、メタ認知を磨いていきましょう。

5.メタ認知のトレーニング方法

メタ認知は高めることができると先述していますが、具体的にはどのようにして高めていけばよいのでしょうか。ここでは、学校教育におけるメタ認知を高めるためのトレーニング方法を紹介します。

(1)自己評価シートの活用

生徒が自分自身を客観的にモニタリングできるようにするためには、自己評価のワークシートを活用して、生徒が自律的に学ぶ力を育成する方法があります。ワークシートには、次のような質問項目があると、自分自身を振り返りやすくなります。

  • 自分自身の行動を確認させるための質問
  • 状況に応じて自分の行動を考えさせる質問
  • 現状を改善するための方途を考えさせる質問
  • 新しく獲得した知識に関する質問
  • 考えてほしいことについて思考を促す質問

(2)協同学習で他者から学ぶ

メタ認知を育成するための効果的な方法は、他者との学びあいやグループワークでの対話的な学びが挙げられます。一人で勉強しているときには気がつかなかったことでも、他者との学びあいのなかで、自分のよいところや自分の足りないところに気がつくことがあります。

また、自分がわかったつもりで他者に説明しようとしたところ、うまく説明できなかったというときにも、他者がその説明を補ってくれることで、自分の理解を深めることができます。

学習指導要領で示されている主体的・対話的で深い学び(アクティブ・ラーニング)は、メタ認知を高める手法であるといえます。このように、他者との協同的な学びのなかで、「他者への理解を深めながら、己を知る」という生徒のメタ認知的活動を育むことが期待されています。

(3)授業ノートの共有

授業で学んだ内容を理解し、記録するために、ノートを取ることは学習上効果的です。このノートをどのように取ったらよいのか、効果的なノートの取り方を知っていると、効率よく学習効果を高めることができます。

このような学習方法に関するメタ認知を高めるには、クラスメイトと授業ノートを見せ合い、自分のノートと見比べながら、わかりやすいノートの取り方を見つけ出し、自分のノートの取り方を考えるきっかけを与える方法があります。

授業中に学んだことを記録するノートは、授業で聞いたことを頭の中にインプットしながら、その学びをアウトプットしていく作業です。授業で学んだ内容が「わかったつもり」で終わらないように、後で見返してもわかりやすい授業ノートを他者と共有して考えることは、メタ認知的活動を活性化させる方法の一つです。

6.メタ認知のデメリットと克服するコツ

メタ認知を高めることは重要ですが、メタ認知を過度に発揮して過剰なモニタリングをしてしまうと、「これでよいのだろうか」「本当に間違っていないのだろうか」と慎重になりすぎて消極的になってしまう面もあります。メタ認知により、自分の心に支障をきたすことが無いようにしなければなりません。

こうした過度なメタ認知にならないように、さらに一段高いところから観察して、自分の行動をコントロールしなおすこともときには必要です。考えすぎてしまうときには、潔く、睡眠をとるのも効果的でしょう。またメタ認知をして行き詰ったときには、人と話して視野を広げてみるのも大切です。

7.メタ認知を育み予測困難な時代を生き抜こう

変化の激しい予測困難な時代を生き抜くためには、メタ認知を高めることが大切です。学校教育のなかで生徒のメタ認知を育むことが求められると同時に、教員自身も自分のメタ認知を磨きながら、社会のなかで、よりよい人間関係を構築していくことが重要です。(編集協力スタジオユリグラフ・中村里歩)