ICTを活用した学習サービスが広がる中、記憶定着のための学習アプリケーション「Monoxer」(モノグサ)が教育現場に浸透してきています。人工知能(AI)が個人の記憶度に応じて問題を出題し、定着までサポートするのが売りです。学習塾などから予備校、小中高校などへと徐々に広がり、今春は大手予備校の代々木ゼミナールが導入しました。公立学校を含む約4千施設が利用するMonoxerとは一体、どんなアプリなのでしょう。

アプリを開発したモノグサ株式会社(東京都千代田区)によると、Monoxerは「解いて覚える記憶アプリ」。管理者が覚えさせたい情報を登録すると、正解を基に問題を自動で作成する。形式は4、5個の選択肢から選ぶ選択問題や、キーボードで用語や数式を書くものなどさまざまだ。学習者は、スマートフォンやタブレット端末、パソコンなどで利用する。出題の形式は個人の記憶度に合わせて変更する。時間の経過とともに忘れてしまうことも想定し、反復して定着を促す。

記憶度に応じて難易度を変更

たとえば英語で「辞書」という単語を覚える際、最も簡単な問題では解答欄にうっすら表示された「dictionary」の文字をなぞって入力するが、記憶の定着とともに「diction」「fictional」などの選択肢から一つを選ぶ方法、空欄にキーボードのローマ字を一つずつ入力する方法、と難易度が高まっていく。

英単語問題
英語の単語問題のイメージ。右に行くほど難易度がアップする=モノグサ提供

正誤予測と解答の結果を受けて学習者それぞれの記憶度を算出し、学習のたびに更新する。その人の解答の傾向から忘却の速度も予測し、こちらもその都度更新する。これらを組み合わせることで、最も効率的に記憶度100%を達成できるようサポートするという。「学習計画機能」を使って学習期間を定めれば、毎日の学習量が自動で調整され、無理なく学習を進めることもできる。

管理者にとっても、メリットは多岐にわたる。管理画面で学習者一人ひとりの学習履歴や記憶度を一覧で確認でき、間違えやすいといころなどの分析ができる。「小テスト機能」を使えば、自動で採点や結果集計ができるようになり、教職員が担ってきたマル付けなどの手間を省くことが可能だ。

記憶定着「有力な競合先なし」

同社の竹内孝太朗・代表取締役CEOは、かつて別の会社でオンライン学習サービスに関わり、映像授業を何回見ても成績が上がらないとの生徒の声を課題と受け止めた。学習を「理解」と「定着」の二つに分けると、「理解」を促すサービスはアナログでは対面授業、デジタルでは映像授業など豊富なコンテンツがある一方、「定着」には紙のドリルなどを除いて有力なプレーヤーがおらず、記憶を最適にすることがサービスになるという発想自体がなかったことに気づいたという。

問題形式
覚えさせたい情報を登録すると、さまざまな形式の問題が自動で作成される=モノグサ提供

2017年にサービスを開始し、これまで学習塾や予備校、小中高校、専門学校、大学など約4千施設に導入された。今春から東京都内の小学校に導入されるなど公立学校も約10校が利用している。記憶が求められるさまざまな分野に対応できるため、学校の教科・科目に限らず、従業員が各種資格の取得を目指す企業との取引もあるという。

理科の問題のイメージ
さし絵を使った理科の問題のイメージ。右に行くほど難易度がアップする=モノグサ提供

代々木ゼミナールでは、「高校メイト会員」(高校生)、「大学受験科生」「高卒メイト会員」(高卒生)が導入対象で、模試や講習会、イベントだけの参加者を除くすべての受講生にあたる。Monoxerに登録する教材はいずれもオリジナルのもので、まず現代文、古文、漢文、数学Ⅰ・A、数学Ⅱ・B、数学Ⅲ、英語から始め、理科や地理歴史についても順次、加えていく予定だ。一部科目を除き、小テスト機能も活用している。

講座に連動してこれまで紙で行っていたチェックテストについても、高校1年生が対象の新課程対応の講座から、Monoxerの小テスト機能を使う形に切り替える。採点や分析などの効率化が図れるという。

「早めに基本、残りの時間は発展学習を」

代々木ゼミナール教務管理本部の加藤允(まこと)本部長は「暗記のためのツールというだけでなく、一人ひとりの習熟度、忘却度に合わせて出題が調整され、それぞれのレベルに合った学習ができることが決め手になった」と話す。忙しい受験生が移動などの合間に効率良く学べて、早めに基本を身につければ残りの時間を発展的な学習に充てられるのもメリットと考えたという。モノグサの竹内CEOは「認めていただいて率直にうれしい。良質で豊富なコンテンツのデジタル化を通じて、成績向上をお手伝いしたい」と話す。

モノグサオンライン取材
取材を受ける代々木ゼミナールの加藤允・教務管理本部長(上段中央)、モノグサの竹内孝太朗代表取締役CEO(下段右端)ら。下段中央が筆者

ただ、近年は学力について「知識・技能」だけでなく、「思考力・判断力・表現力」「主体性・多様性・協働性」の育成にも力点が置かれる。記憶以外の力も問われる昨今の入試に、Monoxerはどの程度役立つのか。竹内CEOは「マル付けが可能な概念、正解が定まるものにおいて、知識なくして解ける問題はない。もちろん思考力というのは定義によって直接カバーできない可能性はあるが、知識の総量が思考力の土台であるという点は疑う余地がないと思う」と話す。

代々木ゼミナールの加藤本部長も「大学入試に思考力重視の問題が出題されているのは確かだが、解くためには知識を関連づけてより深く理解することが必要となる」とし、その土台を身につけるツールとしてMonoxerが有効だと受け止めているという。

管理画面
管理画面では学習計画の進捗状況や記憶度などが確認できる=モノグサ提供

東京都中野区の区立第一小学校は昨年度、検証事業の協力モデル校として国語と算数にのみMonoxerを利用し、今年度からは5教科すべてで使い出している。戸崎晃校長は「これまで授業時間に使っていた記憶にかかる時間を減らし、『考える』『話し合う』などの時間を多くしたいと考えている。Monoxerの活用を通じて全児童の記憶定着の把握と充実を図り、学校での学習活動や家庭学習のあり方の改善と向上につなげていきたい」としている。