2023年4月から段階的に進められる公務員の65歳までの定年延長制度。公立学校の教職員の中には、定数増や業務の改善がなかなか進まない中、希望に沿った働き方ができるかどうか、気がかりな人も多いのではないでしょうか。今回は定年延長に関連する諸制度の内容や課題について解説します。

野川孝三(のがわ・こうぞう) 公立学校の事務職員として勤務した後に、組合活動に従事し、教育予算増額や教職員定数改善にとりくむ。分担執筆に『いまさら聞けない!日本の教育制度』、共著に『事務職員の職務が「従事する」から「つかさどる」へ』がある。

公立学校の教職員を含む地方公務員の定年制度は、地方公務員法の規定により、国家公務員の定年を基準としてそれぞれの地方自治体の条例で定めるものとされており、各自治体の条例等で確定されます。ここでは、国家公務員の制度を基に、公立学校の教職員に想定される段階的な定年延長に関連する定年前再任用短時間勤務制度、暫定再任用制度、役職定年制、教職員への情報提供・意思確認の仕組みなどを扱います。

定年前再任用短時間勤務制度

任用は本人の希望による

定年延長の施行に合わせて、フルタイムの常勤職員の継続である定年延長の他に、定年前再任用短時間勤務制度が新たに設けられます。本人の希望により、60歳に達した日以後に定年前に退職し、本来の定年時期まで再任用短時間勤務を可能とする制度です。新設される理由は、60歳以降は、健康上、人生設計上の理由等により、多様な働き方を可能とすることへの職員のニーズがあることからです。なお、現行の再任用制度と異なりフルタイムの勤務はありません。

※現行の再任用制度とは
年金の支給開始年齢が段階的に65歳へと引き上げられたことに伴い、60歳定年で退職した者について無収入期間が発生しないように雇用と年金支給を接続するためのものです。今回の定年延長により廃止されますが、定年の段階的な引き上げ期間中は、現行と同様の再任用制度が設けられます(暫定再任用制度という)。

60歳を超えての働き方として、定年延長の他に、定年前再任用短時間勤務が選択できることになります。この制度は、あくまでも本人の希望によるものとなっています。ただし、希望すれば必ず任用されるものではありません。地方公務員の所管である総務省は、希望者全員に再任用を保証した制度ではないものの、最大限本人の希望にこたえる運用が望ましいとしています。また、任命権者である教育委員会が教職員の意思に反して定年前再任用短時間勤務を強要してはいけないものとなっています。

後段で述べる暫定再任用制度は1年ごとの任用ですが、定年前再任用短時間勤務制は延長された本来の定年時期までの一括任用となります。また、60歳以降に退職し一定の期間を置いた後でも、本人の希望による定年前再任用短時間勤務の任用は、任命権者の教育委員会の判断で可能です。

勤務時間・給与の扱いは

勤務時間は、1週間当たり15時間30分から31時間の範囲内で任命権者が決定します。給与などの取扱いは現在の再任用短時間制度と同様です。具体的には、給料月額は職務の級ごとに単一の額が設定され、その額から勤務時間に比例して支給額が算定されます。支給される手当は、通勤手当、期末手当、勤勉手当、地域手当、特殊勤務手当、時間外勤務手当などです。扶養手当、住居手当、寒冷地手当などの生活関連の手当は支給されません。年次休暇及び一部の特別休暇は、週の勤務時間等に応じた日数となります。

標準定数法との関係は

定年前再任用短時間勤務者の標準定数法上の扱いは、標準定数法(義務・高校とも)の範囲内として定数換算されます。短時間勤務者の勤務時間を合計し、フルタイムである週38時間45分につき定数1人に換算されます。なお、暫定再任用も同様です。また、標準定数法と義務教育費国庫負担金は連動するので、定年前再任用短時間勤務者・暫定再任用者の給与は、国庫負担金の対象となります。

暫定再任用制度

段階的定年延長期間中の65歳未満の定年後から年金が満額支給される65歳までの間の制度として、現行の再任用制度が暫定再任用制度として残ります。フルタイムと短時間勤務があります。給与などの取扱いは現在の再任用制度と同様です。短時間勤務の場合の給料、諸手当は、新制度の定年前再任用短時間制度と同様です。

役職定年制

法令上は、「管理監督職勤務上限年齢制」といいます。