生徒指導提要改訂の背景
生徒指導提要とは
生徒指導提要とは、小学校から高校の段階までの生徒指導の考え方を文科省の有識者会議が議論したうえで、冊子にまとめたものです。いわゆる教員の「生徒指導ガイドライン」と考えられています。
生徒指導提要が策定されるまでは長らく、生徒指導は現場の判断で行われてきました。指導のあり方などを網羅的にまとめた基本書のようなものはなく、組織的・体系的な取り組みが不十分だと指摘されていました。そうした課題を踏まえて文部科学省は2010年、有識者会議の議論を経て、生徒指導の意義やいじめ、喫煙・飲酒といった非行行為などに対する具体的な指導方法や、関連する法律や家庭・地域との関わり方などをまとめた「生徒指導提要」を策定しました。提要は全国の自治体に届けられ、現場のガイドラインとして長く活用されてきました。
いじめ防止対策推進法制定と令和の日本型学校教育
今回の改訂は、策定から12年ぶりとなります。この間に新しい法律や制度を始め、学校現場を含めて社会情勢は大きく変わりました。改訂はそうした変化に対応するためのもので、改訂版は「生徒指導の基礎」や「いじめ」、「暴力行為」、「児童虐待」など全13章で構成されています。
今回の見直しの議論の中で、特に大きな動きとして意識されたものは「いじめ防止対策推進法」と「令和の日本型学校教育」です。
2013年に制定された「いじめ防止対策推進法」では、「いじめ」を「対象となった児童等が心身の苦痛を感じているもの」と幅広く定義し、いじめられている児童生徒の主観に重きを置きました。いじめは生徒の命に関わる極めて重要な問題ですので、生徒指導提要にも見直しが必要だとかねて指摘されていました。
もう一つの「令和の日本型学校教育」は、文部科学大臣の諮問機関である「中央教育審議会(中教審)」が2021年1月にまとめた答申に書かれたものです。答申からまもなく始まったGIGAスクール構想をはじめとする教育現場でのICT活用や探究的な学習などを通じ、一人ひとりに対応した「個別最適な学び」と、子ども同士や多様な他者との「協働的な学び」の充実を実現する学校教育のすがたを「令和の日本型学校教育」と名付けました。こうしたICT機器の活用も「生徒指導」の一環に含まれています。
つまり今回の生徒指導提要の見直しは、2010年とは大きく変わった学校現場を踏まえ、改めて組織的・体系的な生徒指導の「ガイドライン」を示すという意味が込められていると言えるでしょう。
生徒指導提要の構成
第1章「生徒指導の基礎」、第2章「生徒指導と教育課程」、第3章「チーム学校による生徒指導体制」、第4章「いじめ」、第5章「暴力行為」、第6章「少年非行」、第7章「児童虐待」、第8章「自殺」、第9章「中途退学」、第10章「不登校」、第11章「インターネット・携帯電話に関わる問題」、12章「性に関する課題」、第13章「多様な背景を持つ児童生徒への生徒指導」
改訂された生徒指導提要のポイントは
いじめ対策
いじめ防止対策推進法が作られるほどに、いじめに対する社会の目は厳しくなっており、いじめの認知件数も増加傾向にあります。それでもなお、いじめを背景とした自殺などの深刻な事態は発生しています。こうした状況について、改訂された指導提要では4段階での改善を求めました。
1段階目は各学校の「いじめ防止基本方針」の具体的な展開に向けた見直しと共有、2段階目は学校内外の連携を基盤に実効的に機能する学校いじめ対策組織の構築、3段階目は事案発生後の対応的な生徒指導から脱却し、すべての子どもたちを対象に、子どもたちが自らを自発的に発達させていくことを支えるような生徒指導や、課題の未然防止と早期発見からなる課題予防的生徒指導への転換、4段階目はいじめを生まない環境づくりと、いじめをしない態度や能力を身につけるような働きかけを行うこと、としています。
ブラック校則 校則のHP掲載ルール
東京都教育委員会は2022年度から、「髪の一律黒染め」や「下着の色指定」「ツーブロックの禁止」「自宅謹慎」「高校生らしいなどの曖昧な表現を用いた指導」などを、理不尽な校則や指導内容を意味する「ブラック校則」にあたるとして、都立高校では全廃することとしました。こうした意識は社会全体に浸透しつつあり、改訂された生徒指導提要でも校則の運用・見直しについて言及しました。
改訂版では、校則の意義を「学校教育において社会規範の遵守について適切な指導を行うことは重要であり、学校の教育目標に照らして定められる校則は、教育的意義を有するものと考えられる」と説明。その一方で「校則の制定に当たっては、少数派の意見も尊重しつつ、児童生徒個人の能力や自主性を伸ばすものとなるように配慮することも必要」とし、校則の制定時に配慮が必要であることを明示しました。
また校則の内容については、普段から学校内外の関係者が参照できるように「学校のホームページ等に公開しておくことが適切である」との考えも示しました。制定から一定期間が経過した校則についても、「意義が適切に説明できないような校則については絶えず見直しを行うことが求められる」などと言及しています。
発達障害への理解
2016年4月に障害者差別解消法が施行されました。この法律により、障害を理由とする不当な差別的な取り扱いはより明確に禁止され、障害者への合理的配慮の提供が求められることとなりました。改訂した生徒指導提要でも、発達障害のある児童生徒には合理的配慮が求められていることを明記しています。
学習上または、生活上の困難を改善・克服するための具体的に配慮が必要な事例として「読み書きや計算、記憶などの学習面の特性による困難さ、不注意や多動性、衝動性など行動面の特性による困難さ、対人関係やコミュニケーションに関する特性による困難さ」を挙げています。学習内容については変更・調整をしたり、タブレットなどのICTを活用することなどが想定されています。