粉末に水を加えると膨らむ「ねるねるねるね」など、子どもに人気の知育菓子Ⓡを販売する「クラシエ」(本社・東京都港区)は2023年10月15日、初めて教員を対象にした知育菓子のイベントを開催しました。これまでターゲットとしていた「子ども」ではなく、あえて「教員」に目を向けた理由を同社の担当者に聞きました。

知育菓子を「授業」に 教員が実践例を発表

「知育菓子は、子どもの知的好奇心をくすぐり、上手に作れたという自己肯定感を養うことが出来る。主体的な学びが求められている教育現場でも生かせるはず。今日はそのヒントを皆様と一緒に考えたいと思っています」。同社マーケティング室菓子部の菊池光倫(みつのり)部長は、イベント会場となったクラシエ本社の会議室で熱っぽく語りかけた。

この日のイベントは、知育菓子を使って授業やワークショップを行った教員が講師を務め、学校での活用を考えるというもの。特別支援学校や小学校、高校など学校種も担当教科も異なる6人が登壇し、会場とオンラインを合わせて数十人の教員が発表内容に耳を傾けていた。

小学6年の理科で学ぶ水溶液とねるねるねるね

愛知県江南市の岩田智文先生は、小学6年生の理科の授業で「ねるねるねるね ブドウあじ」を使った実践例を発表。「2学期の授業で、酸性とアルカリ性によって色が変わる様子を学ぶ単元がある。内容はまさにねるねるねるねの仕組みと同じです」。

クラシエのイベントで講演する岩田智文先生

岩田先生は「ブドウあじ」には紫キャベツの成分であるアントシアニンが入っていることを紹介し、「アントシアニンは水溶液の性質によって色が変化する。中性だと紫色、酸性になると赤色、アルカリ性になると青色になります」と解説。ねるねるねるねは、2種類の粉と水を混ぜて作るお菓子だが、最初の粉にはアントシアニンと重曹が入っているため、中性の水を加えると先にアントシアニンが溶けて紫色に変わり、その後にアルカリ性の重曹が溶けて青色に変化する。2番目の粉は酸性の酸味料が入っているため、赤色に変化するという仕組みだ。

岩田先生は学校で授業を行った際に、2番目の粉を実際に生徒に口に含んでもらい、酸味料の味も体験してもらったという。「理科の実験で味覚を使って学べるのは貴重な経験。お菓子は個包装されているので、1人ずつに実験道具を用意することができるのも魅力的。こんな薬品は理科室の中にはありません」と教員たちに語りかけていた。

特別支援学校での授業を紹介した埼玉県立本庄特別支援学校の関口あさか先生は、ねるねるねるねを作りながら楽しめる絵本や、5色のソフトキャンディーを粘土のように使える「ねりきゃんワールド」を使ったコマ撮り動画の撮影した様子を紹介。静岡サレジオ高校の吉川牧人先生は、ねりきゃんワールドとグミを作る「おえかきグミランド」を組み合わせて歴史上の人物や風刺画などを生徒たちが再現する授業の様子を披露していた。

知育菓子を教育現場へ 40年ぶりの転換点

同社が知育菓子の先駆けとなる一手間加える菓子の販売を始めたのは40年以上前のこと。食べる前に水を入れたり、粉を混ぜたりする「作る楽しみ」を感じてもらうことをコンセプトに「プカポン」や「ムクムク」などを販売。1986年に発売し、大ヒット商品となった「ねるねるねるね」は、商品開発の担当者が公園で泥遊びをする子どもからヒントを得たという。同社は2007年、こうした商品を子どもの学びを育てる「知育菓子」として商標登録し、認知を広げてきた。

ロングセラー商品「ねるねるねるね」(右)と、そのルーツになった商品「ムクムク」=クラシエフーズ提供

だが、「知育菓子とうたいながらも、これまでは学校との関わりが薄かった」と、菊池部長は明かす。商品の販売を促進するためのイベントも小売店を中心に展開しており、「社内でもお菓子は自宅で食べるもの」という認識があったという。社内で知育菓子のブランド戦略を見直そうという機運が高まったのが、2021年ごろ。その時期と重なるように中学校や高校では、新学習指導要領への移り変わりが始まっていた。

「学習指導要領の全面実施の前ぐらいから、『授業で発表するので、商品について話を聞きたい』という問い合わせが教員や学生から届くようになりました」。社内会議のアドバイザーとして招いた大学教授からも「探究学習は大きなチャンス。知育菓子が向いている」と太鼓判をもらい、学校への販売が本格的に検討されるようになったという。

知育菓子について語るクラシエの菊池光倫さん(左)

知育菓子の改革元年へ 追い風も

菊池部長は「消費者の年代も追い風になった」と語る。人気商品の「ねるねるねるね」も販売開始から今年で37年、知育菓子に親しんだ子どもたちが、今や親や教員になっている。「子どもの頃に食べた商品を使って、次世代と一緒に楽しむという需要が生まれている」という。そうした需要をとらえて2022年に発売した「大人のねるねるねるね」も、多くのSNSユーザーに取り上げられ大ヒットした。

同社は新たなブランドイメージの定着を図ろうと、2021年から毎年7月19日を「知育菓子の日」と銘打って、各地でイベントなどを展開。学校への本格導入へ進み始めた今年の7月19日には、学校現場向けにオンラインで知育菓子を販売するサイトも開設し、知育菓子を使った授業の教材もダウンロードできるようにした。

食品ならではの課題も