コロナ禍で2020年度以降、延期・中止されることの多かった高校や中学の修学旅行が、今年度に入って回復の兆しを見せています。高校の新学習指導要領に「総合的な探究の時間」など探究の名が付く科目が7個ももうけられるなど探究学習が重視されるようになり、修学旅行を探究学習の場として見直す動きが出てきたこととも無関係ではなさそうです。修学旅行のこれまでとこれからについて、日本修学旅行協会理事長の竹内秀一さん、修学旅行に詳しい東京成徳大特任教授の寺本潔さんの2人に聞きました。

「相性は非常に良い」 日本修学旅行協会・竹内秀一理事長

竹内秀一さん
インタビューに応じる日本修学旅行協会の竹内秀一理事長

――修学旅行を探究学習の場に活用する動きが広がっていると聞いています

私の感覚では、2年ほど前からそうした動きが活発化しています。高校で「総合的な探究の時間」の学習が始まったことで、修学旅行を探究の場として活用したいという学校はさらに増えている。修学旅行協会の雑誌「教育旅行」でも、最近は探究の特集を何度も組んでいます。

協会には学校側から「こんなテーマで探究をしたいが、修学旅行先にこういうプログラムはあるか?」という問い合わせも多く届いており、関心の高さがうかがえます。

竹内秀一(たけうち・しゅういち)
1953年生まれ。日本修学旅行協会理事長。順天堂大学国際教養学部非常勤講師。1976年に神奈川県立高校教諭。85年から東京都立高校教諭となり、練馬工業高校や石神井高校で校長を務める。2015年から同協会。

――修学旅行と探究学習の組み合わせについて、協会はどのようにみていますか

相性は非常に良いと思います。探究では、生徒が自ら課題を設定し、情報を集めて整理、分析をして、最後に発表するという形が一般的です。そうした教科横断的・総合的な学習を通じて知識や技能、ものの見方や考え方を体得し、生きる力にしていくものです。

そうした学びを実践するためには、生徒が学校の外に出て現場の声やデータなどの情報を集める必要があります。しかし学校現場からは、そうした機会が少ないと聞きます。まして遠方となると非常に難しい。したがって、修学旅行は、探究に力を入れる学校にとっては、学校外に出る絶好の機会になっていると言えるでしょう。

――修学旅行生を受け入れる地域の受け止めはどうでしょうか

こちらも、各地の観光協会はこの状況を「チャンス」だとみています。実は観光協会側からも、問い合わせや講演の依頼が数多く届いています。修学旅行に探究を取り入れる学校が、どんな体験や学習を求めているかを知りたい、というものです。

探究を取り入れた修学旅行は、これまでのように学年全員が同じ目的地を訪れるという大人数型ではなく、生徒それぞれの目的地が異なる小規模分散型になっています。生徒の密度の濃い「体験」が重要な要素となるためです。現地の人にインタビューしたり、職人の技を体験したり、自らが設定した課題の解決に向けて、時間をかけて独自の情報を収集することが求められます。こうした学習は大人数では難しい。

受け入れ側の視点で見ると、各地の魅力ある場所や施設を訪れてもらうチャンスです。数百人は無理でも、少人数ならば特別な体験や学びを提供できる施設はいくつもある。観光地に新しい人の流れが生まれます。探究は受け入れ側のニーズにも合致しているのです。

――近年は修学旅行でSDGsを学ぶ学校も増えていた印象があります