「SDGsキャンプ」という取り組みがあります。子どもたちの生きる力を育むキャンプと海洋教育を一体化し、自らの体験を通じてSDGsの本質を考えるもので、大阪YMCAが昨年度から実施しています。そのノウハウも参考に、関東では初めてとなる「SDGsジュニアリーダー養成キャンプ」(朝日新聞社総合プロデュース本部など後援)が10月、神奈川県三浦市の三浦YMCAグローバル・エコ・ビレッジで開かれました。SDGsを実践する人を育むのがねらいです。どんな活動が行われるのか、同行取材しました。

10月8日~10日の2泊3日にわたるキャンプは横浜YMCAが企画・運営した。開催場所の同ビレッジは、「ヒルサイド」「シーサイド」の2施設からなり、和田長浜海岸のすぐそばに位置する「シーサイド」はカヤックやシーサイドハイキング、キャンプファイアなどの野外活動のほか、防災プログラムも体験できる。

炊事にどれだけの水が必要か真剣に議論した=10月8日

自分たちの「なぜ?」から始まる

8日午前11時、同ビレッジには地元の神奈川県内を中心に、埼玉、大阪などの中学生、高校生計13人(男子7人、女子6人)が集まった。昼食後、2班に分かれて話し合いが始まった。テーマは「何を課題とするか」「そのためにどんなプログラムを実践するか」。問題意識が異なるメンバーどうし、相手の話をしっかりと聴き、合意形成を図りながら、自分たちのテーマに沿ったプログラムを決めていく。

野外炊事では、水をどれくらい使うかを自分たちで決めたうえで、準備を進めた。どうやって火をつけるかも、みんなで考えた。
どこで寝るか、どうやって寝るかも、同じように話し合った結果、初日はテント泊になった。

班のメンバーどうしで協力してテントを設営した=10月8日

海の現状を自ら確かめて考える

2日目のテーマは「海を通して学ぶ」。午前中は磯を観察し、様々な海の生き物に出合った。その後、みんなで集めた海の生き物を観察しながら、磯焼けなど海の現状について、観音崎自然博物館の山田和彦学芸部長の説明に耳を傾けた。

午後の班別プログラムで、一つの班は海のごみの現状を確かめようとスキンダイビングに繰り出し、魚や貝に交じり、レジ袋のかけらのようなナイロン系のゴミが漂っているのを目の当たりにした。海の中や海岸で拾い集めたごみは、ペットボトルや空き缶、布製の手袋、不織布マスク、発泡スチロールや金属製の破片などさまざま。宿舎に戻ると、これらを題材にワークショップを開き、自然に戻るまでにはどのくらいの期間が必要かなどを考え、ディスカッションした。

もう一つの班は、カヤックで海の様子や海流の力を体感した。宿舎に戻り、くんできた海水を蒸留して水をつくる実験を通して、「水の大切さ」について学んだ。また、海水の酸性化実験を通して、気候変動についても考えた。

磯の観察で見つけた生き物を前に、講師の話に聴き入った=10月9日

夜は、横須賀市の漁師の仲地慶祐さんが、市場で売ることができる魚介類しか取らないなどSDGsを意識した海に優しい漁業について講演を聞いた。伊勢エビをつかむ体験をしたり、実際に使用している漁網を広げて見せてもらったり。仲地さんが実際に素潜り漁をしている動画を見ながら、参加者が一緒に息を止めて素潜りを疑似体験する場面もあった。

振り返りから気づくSDGsの本質

こうした体験を踏まえ、「どんなことに気づき、そこから考えられることは何か、自分たちは何ができるか。」を各班で話し合った。大学生のサポートリーダーも班に交じり、一緒に考えながら、時には話が円滑に進むよう、高校生リーダーや班メンバーをさりげなくサポートした。

最後のプログラムの活動報告会は、3日間で体験した気づきから考えた、自分たちのアクションを保護者の前で報告した。

午後の活動報告会に向けて、話し合いがぎりぎりまで続いた=10月10日

「みうらの海洋探究」をテーマとした班は、フィールド調査からプラスチックごみがあふれる現状をどう改善したらいいかを考えた。野外での炊事や、海水から「水」をつくる実験を通して水の貴重さを感じ、資源としての水の重要性についても検討した。「捨てられる魚網をリサイクルして販売する」など具体的なアイデアも飛び出した。

もう一つの班は「質が高く、信頼できるタイムリーな情報をゲットし、協力して取り組む。取り組むことを楽しむ」が目標。朝は「3日間を健康に過ごそう」、昼は「生態系の回復のための活動」、夜は「水とプラスティックの削減を目指す」というテーマを掲げ、SDGsの目標に沿ったプログラムを考えて実践した。プラスチックごみ削減のため、「街の給水機を増やす(マイボトルの自動販売機)」などを提案した。

2つの班の報告からは、「学んだことを発信する」「楽しみながら活動する」「周りを巻き込む」「常識を疑う」「知らないことは知らないままにしない」など、体験したからこそ感じる言葉が並んだ。

最後に、SDGsキャンプを先行実施しているYMCA阿南国際海洋センター所長の菅田斉さんが「みなさんは横浜YMCAのSDGsジュニアリーダー養成キャンプを修了した1期生です。これからSDGs実践者として、周りを巻き込みながら活躍してください」との言葉を贈った。

保護者やスタッフらに向けて3日間の報告を行う=10月10日

大学生サポートリーダーで大学院2年の小曽根千穂さんは、「中高生のサポートをしながら、私自身も自分ができる取り組みを考える機会となりました。今後もSDGsキャンプを通して、1人でも多くの中高生が、課題やその解決に興味を持ってもらえたらうれしい」。横浜YMCA事業統括部長の鴨下純久(よしひさ)さんは、「私もスタッフとして関わり、キャンプでの学びを通して、自分たちの行動から変化が生まれることを実感しました。次年度は更にバージョンアップしたSDGsキャンプを夏休みに予定しています」と話した。

【参加者の主な声】

  • 飯島勇人さん(高校2年)
    野外炊事の際、水の量にとても気を使い、大切に使いました。プレゼンの中の「川のない国」の人々の苦労を身に染みて感じました。
  • 太田梨々さん(中学3年)
    SDGsは私が思っていたよりも楽しい活動であり、またとても複雑。みんなと話し合ってこそ、多くのことを得られるものだと思いました。
  •  河桃暎(とよん)さん(中学2年)
    自分と違う意見に触れることがもっと好きになった。話し合うことで、自分の中の常識を疑うことができると思いました。
  • 渡辺美月さん(中学2年)
    「このキャンプに世界中の人が参加すれば、絶対すぐ解決する」と思ったくらい、すごくいろんなことを知ることができた。身近な人に伝え、自分で実践することが大事だと思いました。
  • 賀川寛人さん(中学1年)
    今回のキャンプでは、僕が知らなかったSDGsの一面を見ることができました。磯では、カニやウニ、ギンポを見ることができました。
  • 太田心さん(中学1年)
    普段の生活の中で自分たちができることがたくさんあると実感しました。プラスティックは良くないもの、使わない方がいいと思っていましたが、どのように使っていくかが大切ということを再確認できました。
SDGsジュニアリーダー養成キャンプ in三浦2022