物理教育に顕著な貢献をした教員や研究者を表彰する2023年度の日本物理教育学会賞に、福島県立安積高校で放射線教育を実践してきた教員2人が選ばれた。科学的事実に基づき原発事故を捉えることを、多くの生徒に伝えてきた活動が評価された。

 受賞したのは、安積高校で物理を教える原尚志(たかし)さん(65)と千葉惇(あつし)さん(37)。受賞タイトルは「生徒とともに取り組んだ震災後の福島の調査発信活動と、福島復興を織り込んだ放射線教育の実践」。同学会からは「単に教育的意義だけでなく風評被害払拭(ふっしょく)などの社会的意義も大きい」と高い評価を受けた。2人は8月に東京であった同学会の大会で表彰された。1995年に創設された同賞の受賞は6年ぶりだ。

 原さんは、2011年3月に東京電力福島第一原発事故が起きた直後、当時勤務していた県立福島高校で、部活動の生徒とともに学校グラウンドの放射線量を測定し、地表の平均線量が基準値以下であることを測定。14年には県内と県外・海外の高校生に個人線量計を携帯してもらい、地域・国ごとの放射線量を比較測定。避難指示区域以外の福島県の放射線量が他地域と同等レベルであることを数値で示した。

 15年からは、フランスなど放射線教育が盛んな地域の高校生と福島の高校生が交流し学びを深める「国際高校生放射線防護ワークショップ」を主宰し、生徒への放射線教育に尽力した。

 千葉さんは、原発事故が起きた時は原子核物理を研究する東北大大学院生だった。その年の4月に県立本宮高校で教壇に立ったが、放射線への理解不足から福島への誤解や風評が広まり、生徒も「将来子どもは産めないのでは」などと影響を受けていることに衝撃を受け、科学的根拠に基づき放射線を学ぶ教育に取り組んだ。

 その後、会津高や安積高でも、物理の授業のほか探究の時間や夏休みセミナーで、客観的な数値データに基づき考え、判断する大切さを教えてきた。浜通りの被災地や第一原発の見学などフィールドワークを行い、処理水の放出など時事問題も絡めながら、福島の現状や課題を教えている。

 原さんは「活動が評価されうれしい。協力してくれた生徒たちに感謝したい」、千葉さんは「授業での生徒の反応やアンケートをふまえて内容を更新してきた。生徒がいたからこその受賞」と話した。

 福島出身の2人の根底にあるのは、いまだに続く福島に対する偏見や風評に対し、生徒に客観的な知識を身につけることで克服してほしいとの思いだ。事故から13年経った現在も、福島や県民に対する偏見が、一部で根強く残っていることを痛感している。千葉さんは「福島の子どもたちが前を向いて生きていける手助けができるよう、これからも努力していきたい」と語った。

 原さんは「国内では今も原発が稼働しており、福島のような事故が起きないとは限らない。万一そうなった場合も正しい知識で状況を判断できるよう、放射線教育を全国に広げていく必要がある」と話した。

=朝日新聞デジタル2024年09月13日掲載