2022年度から高等学校の家庭科と公共の授業で、金融や資産形成分野に関する学習内容が拡充されました。その一方で、「資産形成・運用」分野に苦手意識をもつ教員の方々も多いと聞きます。そんな声を受け、「金融経済教育に携わる高校教員向けオンラインセミナー」が開催されました。第1部では金融経済教育の重要性や金融リテラシーの基礎に関する講演が行われ、第2部では授業実施の参考となる事例や教科横断の実践例などに関する講演のほか、先生方の悩みや課題に講師の方々がリアルタイムで答えました。授業の実践に役立つと好評を得た講演内容の要約をお届けします。

第1部 理論・金融リテラシー編

基調講演:学校教育における金融経済教育

講師:大藪千穂 教授
国立大学法人東海国立大学機構 機構長補佐/岐阜大学副学長・教育学部教授/兵庫教育大学連合大学院教授

おおやぶ・ちほ/京都ノートルダム女子大学卒、大阪市立大学大学院修了(学術博士)。2021年より副学長。日本消費者教育学会会長、生活経済学会副会長、東海財務局金融行政アドバイザー、岐阜県金融広報アドバイザー、株式会社京都フィナンシャルグループ取締役監査等委員(社外)。2018年金融知識普及功績者表彰。

お金の知識「金融リテラシー」を学ぶ「金融経済教育」

最近、「貯蓄から投資へ」の流れや「投資教育」が話題になっています。その背景にあるのが、平均寿命が延びたことや晩婚化・晩産化によるライフステージの変化です。まとまったお金が必要になる時期が人生の後半に集中するため、しっかりした資金計画を立てる重要性が高まっています。そのために大事なのが、お金の知識「金融リテラシー」を身に付けること。それを学ぶのが「金融経済教育」です。

日本の「金融経済教育」は、「経済教育」「金融教育」「投資教育」「消費者教育」に分類できます。「経済教育」は経済学の考え方で、大学でよく学ぶ内容です。「経済学的に考える力」を養うことを大切に、人生を生きるための思考法を訓練する点において非常に意義があるものと考えられます。「金融教育」は、金融広報中央委員会と金融庁が中心となって取り組んでいて、小学生を対象にしたものは「金銭教育」と呼ばれます。お金の勉強を通じて、人間形成を目指し、主体的に行動できる態度を養っていきます。

「投資教育」は、「金融教育」の応用編・実践編です。2022年からは高校の家庭科でもこの授業が始まりました。投資は効率的にお金を増やす一つの方法ですが、私は「経済教育」「金融教育」といった土台となる知識を身に付けてから始めた方がいいのでは、と思います。「消費者教育」に関しては、2022年の成年年齢の引き下げにより内容が大きく変わりました。成人になる高校3年生で様々な契約ができてしまうため、1、2年生のうちに消費生活に関わる内容を学んでいこうという流れになっています。

新高等学校学習指導要領の家庭科に加わった「資産形成」

2018年告示の新高等学校学習指導要領の家庭科で以前と変わった点を挙げると、「資産形成」という言葉が加わり、さらに「資産形成」を年金などの社会保障制度と関連付けながら考えるという内容が追加されたことです。また債券、投資信託のメリットとデメリット、暗号資産(仮想通貨)なども取り上げられるようになりました。公民科の公共(以前は現代社会)では、消費者主権の内容が加わりました。これは家庭科と内容が一部重複するため、協働で授業を行うことも可能なのではと思います。

家庭科は、家庭から社会の方にベクトルが向いていますが、公民科は社会での内容を学んで、それを家庭にどう生かすかという方向でベクトルが異なっています。ただ家庭科も公民科もお金に関する授業時間が少ないのが現状です。そんな中で、先生方が金融経済教育をどこまで教えられるのかという難しい側面があると感じています。

金融経済教育は教科の垣根を越え、協働で教えていくことが大切

高校の先生方に「これから金融経済教育を発展させていくためには何が必要か?」というアンケートを取ったのですが、「教科書以外の教材」「外部専門家の話」といった声が多く挙がりました。学習指導要領の改訂により、金融経済教育の実践度が高くなってきていますが、先生方は教えることにまだまだ不安を感じています。そこで先生方の知識不足を補うものとして、教科書以外の教材や外部講師の必要性が叫ばれているのではないでしょうか。授業に大学の先生やファイナンシャルプランナーを呼んだ場合、生徒の理解度が高まったという意見も聞かれました。

ただ「他の教科と家庭科・公民科を一緒の授業で行った」という先生方の声は少なかったです。金融経済教育では国語や数学など他の教科の能力も必要になってきます。教科の垣根を越え、協働で教えていくことが大切になってくると思います。

学校での金融教育は、今までは金融トラブル防止のための授業が多かったのですが、一番大事なのは人間形成です。株や投資信託の知識だけを教えるのではなく、それを通して生徒たちがどういう人生を歩めるのかということを、先生方にはぜひ教えていただきたいと思います。

講演:生徒に教える・先生が実践する資産形成とは?

講師:金融教育家・塚本俊太郎 氏

つかもと・しゅんたろう/外資系運用会社で勤務したのち、金融庁の金融教育担当として高校家庭科での金融経済教育指導教材や「うんこお金ドリル」の作成を担当。現在は金融教育家として講演等を行う。慶應義塾大学総合政策学部卒業。Eテレ「趣味どきっ!今日から楽しむ“金育”」講師。YouTube「塚本俊太郎の金融リテラシーチャンネル」配信中。

金融商品は「収益性」「安全性」「流動性」の三つの基準で判断

私は2020年から2年間、金融庁で金融教育担当として働き、その際に高校向けの金融経済教育指導教材の制作に携わりました。今回、この教材の内容に沿って、「生徒に教える・先生が実践する資産形成とは?」についてお話しいたします。

第1章で取り上げたのは「家計管理とライフプランニング」。人生の3大費用といわれる、子どもの教育費、住宅購入費用、老後の生活費は、たくさんのお金がかかるため、計画的にお金を貯めていくことが必要です。第2章は「使う」。収入の中から貯蓄する金額を取り分け、残りでやりくりすると確実にお金が貯まるようになります。第3章は「備える」。社会保険と資産形成や民間保険を組み合わせ、将来のリスクに備えていくことが大切です。

第4章の「貯める・増やす」は、資産形成についてのお話です。金融商品は、「収益性」(どのぐらい利益が期待できるか)、「安全性」(元本が減らないかどうか)、「流動性」(お金を引き出しやすいかどうか)の3つの基準で判断していきます。「預金」「貯金」は、収益性は低いですが、安全性・流動性は高いです。「債券」は、国債の安全性は高く、社債は発行企業次第。また一般的に満期までお金を預けるので流動性は低く、収益性は預金より高く、株式より低くなっています。「株式」は、高い収益性が期待でき、流動性も高いですが、安全性は低いです。「投資信託」は、収益性、安全性は投資対象次第で、流動性は高くなっています。三つの基準とも高い金融商品はないため、目的に応じて使い分けるのがポイントです。

第5章は「借りる」。クレジットカードを使うことはお金を借りることと認識し、1回払いだけにするなど自分のルールを決めることが大事です。第6章は「金融トラブル」。18歳の成人になる前、高校1、2年生のうちに、マルチ商法など金融トラブルの手口について先生方は教えておいた方がいいと思います。

投資のキーワードは「長期」「積立」「分散」

また、先生方が実践する資産形成を、第4章の応用編としてお話しいたします。投資のキーワードは「長期」「積立」「分散」、そして「非課税制度」の活用です。

 景気循環は10年で1サイクルといわれています。そのため、保有期間が5年の場合と比べると、20年の長期投資の方がトータルでプラスになる可能性が高くなります。また、投資のタイミングは難しいのが現状。そこで毎月1万円など、あらかじめ決まった金額を続けて投資する積立投資を活用すれば、価格が安い時に買わなかったり、高い時にだけ買ってしまうといったことを防ぐことができます。さらに、値動きの異なる複数の資産に分散投資を行ったり、先進国、新興国など投資先の地域を分散することで、リスクの軽減につながります。投資はこの「長期」「積立」「分散」を組み合わせることが大切です。

 そして「長期」「積立」「分散」投資を行うのに活用してほしいのが「非課税制度」です。2024年1月から新しくなったNISAでは、「つみたて投資枠」は年間120万円まで、「成長投資枠」は年間240万円まで非課税で投資ができます。さらに非課税保有期間も無期限になりました。先生方が「ちょっと投資をやってみたい」と考えたら、この新NISAをどのように活用したらいいか調べてみてもよいでしょう。

金融教育の機会を利用しながら、先生方が自ら考えて欲しい

資産形成について生徒に教えるのは難しいという先生方は、投資信託協会など様々な機関が行っている講師派遣制度を活用していただくのも一つの方法です。さらに先生自身が金融を学んでみたいという場合は、金融庁、日銀、各関係団体等が連携し行っているeラーニング講座「マネビタ 〜人生を豊かにするお金の知恵~」で学習したり、金融広報中央委員会の「知るぽると」で開催している金融教育公開授業や金融教育セミナーに参加してみてはいかがでしょうか。このような金融教育の機会を利用しながら、生徒たちにどのように教えていくべきなのか、どのように資産形成を実践していくべきなのかを先生方が自ら考えていただければいいのかなと思っています。

第2部 実践編

講演1:家庭科における金融経済教育(投資教育)の実践

講師:大藪千穂 教授
国立大学法人東海国立大学機構 機構長補佐/岐阜大学副学長・教育学部教授/兵庫教育大学連合大学院教授

おおやぶ・ちほ/京都ノートルダム女子大学卒、大阪市立大学大学院修了(学術博士)。2021年より副学長。日本消費者教育学会会長、生活経済学会副会長、東海財務局金融行政アドバイザー、岐阜県金融広報アドバイザー、株式会社京都フィナンシャルグループ取締役監査等委員(社外)。2018年金融知識普及功績者表彰。

主体性を生み出す、内的世界に変化を及ぼす教育

学校の金融経済教育として必要なことは「人間の発達」を促すということです。人間発達のプロセスには、三つの段階があると私は考えております。最初は「分かった」という現状把握、次は「なぜ今こんなに株価が上がっているんだろう」などと疑問を感じるようになる価値の内面化、最後に「じゃあ、自分はこうしてみよう」という自己創造です。このように金融に関することを題材としながら児童、生徒たちの意識を変えていくことを「主体性を生み出す、内的世界に変化を及ぼす教育」と私は呼んでいます。

新学習指導要領の高等学校の家庭基礎・家庭総合についてですが、領域がABCDと分かれ、C領域に「持続可能な消費生活・環境」という内容があります。この領域に、新しくリスクマネジメントや金融商品・保険商品、投資などが追加され、契約の重要性や消費者保護の仕組みに関する規定も記載されました。今回、このC領域に関して私が行った6時間程度の授業の実践例をご紹介します。

まずは1時間目で「消費生活の現状」に関して、スマホを使った「人生設計ゲーム」を行いました。これは金沢大学の先生と一緒につくったゲームで、結婚して子どもが産まれると、教育費や住居費がどのくらいかかるかなどを計算するものです。次に「金銭の管理」に関して、2時間目に家計構造とキャッシュレス社会でのお金の管理、3時間目に大学の費用と奨学金、クレジットカードの利用など負債の管理の授業を行いました。キャッシュレスのビデオを見せて、そのメリット・デメリットを考えさせたり、近年のエンゲル係数上昇の理由から家計構造を考えさせたりしました。

そして「トラブルと権利・救済」に関して、4時間目でスマホによるトラブルと消費者救済、5限目に消費者契約法と消費者市民への行動と消費者問題についての授業を行いました。消費者契約法や特定商取引法の消費者保護について考えさせ、消費者被害の解決に関しては弁護士にもご協力いただきました。最後に「消費者の自立と環境」に関して、6時間目でフェアトレードの関係から環境を考えた購入とSDGsの視点の授業をしました。各授業後に学んだことに対して自由に記述してもらい、事後アンケートにも答えてもらったのですが、多くの生徒が金融に関して理解が深まっただけでなく、先ほど冒頭で述べた人間発達度の進展も見られたという結果が出ました。これは「分かった」という現状把握から、「じゃあこうしよう」といった自己創造的な考えの段階に至った生徒が多かったということです。

未成年者の契約や契約取り消し、投資の仕組みなどを実践授業

高校の先生方と行った資産形成・投資教育の実践授業についても、いくつか事例をご紹介します。保護者の同意がなくても18歳になったらスマホなどの契約ができたり、お金が借りられることを分かってもらうために、ワークシートに書かれた項目の中から「成年(18歳)になったらできること」「20歳にならないとできないこと」を選んでもらいました。また「自分でローンを組んで、車を購入することできる?」「クレジットカードを作ることはできる?」といったクイズも出題しました。

さらに「交通系ICカードでバスに乗る」「自動販売機でジュースを買う」など「暮らしの中のすべてが契約」ということを紹介して、契約は口約束でも成立し、未成年者の契約は取り消せること、ただし、成年年齢が18歳になったので未成年者契約の取り消しは17歳までということを伝えました。そして情報商材の契約自体はクーリング・オフできるが、購入した株式や暗号資産はクーリング・オフできないことの説明もしました。

「なぜ投資をするのか?」についても考えてもらいました。「今の預金の金利では資産が増えない、じゃあお金に少しでも働いてもらおう。そのための資産形成や投資は18歳になったらできるようになるよ」と。そして、投資は預金と違って元本保証がない、さまざまな商品があるがローリスク・ハイリターンの商品はないということを伝えました。また、株式や債券のほか、投資信託の仕組みを動線で生徒たちに描いてもらうことで理解を深めてもらい、「分散」「積立」「長期」の投資の原則を説明しました。

教科横断的な授業を取り入れることで、複眼的な視点を養える

公民科の先生と家庭科の先生の協働で授業も行いました。公共では社会の仕組みを学び、家庭科では生活に必要な実践、お金のことを学んでいくので、複眼的な視点を養えると私は考えています。生徒からも「全く違うものだと思っていたが、家庭科は公共よりももっと生活に身近なものだった」「これからは一つの教科を学んでいても、ほかの教科と関係していないか考えてみたい」といった感想が寄せられました。さまざまな課題はありますが、ぜひ協働の授業を積極的に実施していただけたらと思います。

先生方としては「時間が足りない」「全てやるのは困難だ」と感じていることもあるでしょう。しかし、家庭科のC領域でお金のことを考えながら、数学で利息計算をしたり、公共で預貯金や保険を学んだりするなど、教科の枠を超えていけばいいのではと思います。そうすれば多層的に学べ、金融経済教育の基礎となる総合的なカリキュラムを設定することができるのではないでしょうか。このような教科横断的な授業を取り入れ、投資や資産形成について教えてみてください。

講演2:生きる力を高める金融リテラシー

講師:岩澤未奈 教諭
東京都立国際高等学校 主幹教諭/杉野服飾大学 教職課程 教壇模擬演習特別講師/
日本家政学会 被服構成学部会 会員/日本家庭科教育学会 会員

いわさわ・みな/東京都立高校に勤務し、普通科や専門学科など様々な校種の高校で、高校生が自立して豊かな人生を設計するための家庭科の授業を実践。教員を目指す大学生に家庭経済分野の授業法を指導。高校家庭科教科書の編集、他教科と連携した金融教育の研究や教材開発を行い、その実践例が多数のメディアで取り上げられている。

生徒たちに、身近なことからお金について意識させる

家庭経済の指導のポイントから考えると、身に付けてもらいたい金融リテラシーは「成年年齢の引き下げ」「一生涯を見通した経済計画」「金融商品を活用した資産形成」です。豊かな人生設計に経済設計は欠かせず、消費者としての責任も自覚していかなければいけません。金融経済教育においては、自分の生活との関わりに深いお金について、いろいろな視点から考えさせることが必要です。

そのための課題は大きく三つあると思います。一つ目は、指導者の専門性の不足と授業時間の不足です。これを解決する提案の一つとして、私は「家庭経済」の指導計画を次のように工夫しています。

まずは生徒たちに、普段の買い物を振り返ったり、これから必要なお金を計算させたりして、身近なことからお金について意識させます。例えば「収入と支出」では原油の高騰や為替など、国内外の経済が家計に与える影響に気付かせること、「契約と消費者の責任」では商品を選ぶ際、人や環境、社会に悪影響を及ぼさない選択はエシカル消費とSDGsの達成につながっていること、「キャッシュレス決済」では預金の金利とクレジットやカードローンの金利との比較、「ライフイベントとリスク管理」では教育費や住居費、生命保険や個人年金の活用など、各授業の際に少しずつ金融経済教育を取り入れていきます。

最後のまとめとして「一生涯を見通した経済計画と資産形成」のための金融商品の特徴を伝え、投資は「儲かる、お金を増やす」ことだけを目的としたものではなく、社会とのつながりを意識して、持続可能な社会をつくる手段の一つであると理解させていきます。

また、他教科との連携の工夫も課題を解決する提案の一つです。例えば公民科の「公共」でも家庭科と同様、契約や消費者、金融の働きを扱います。重複する内容を整理して住み分けをするなど、教科間で情報交換を密にすることで、専門外の部分は他教科の力を借り、時間を節約することができます。教科横断的な学習は、生徒にとっても異なる教科で学んだ知識を組み合わせて思考することになり、金融を多面的に捉えて主体的に判断し、深い学びにつながります。

グループでの話し合いで、金融に対する考えが自分ごとに

課題の二つ目は、生徒の理解力の不足、生徒の興味関心が低いことです。この解決策として、私は自分ごととして考えさせる工夫を行っています。その一つが、グループでの話し合いやワークシートの活用です。たくさんの情報を整理して自らの意見を述べたり、他の生徒の意見を聞いてさらに考えを深めたり、自分はどうするのか主体的に参加できる授業展開にすると効果が上がります。さらに問題を発見して解決策を導くための有効なアクティブラーニングにもなり、対話の中から多様な視点に気付き、これからの人生のさまざまな場面で意思決定をする際に役立ちます。

また悪質商法の学習の際には、ロールプレイを取り入れています。ペアをつくり、投資教材のマルチ商法に誘う大学の先輩、誘われる後輩という設定で演じてもらいます。ロールプレイを通じて、詐欺や悪質商法の仕組みは単純ではないこと、もしかしたら自分も被害に遭うかもしれないということを体験してもらい、話し合っていきます。

課題の三つ目は「現実経済の変動が複雑すぎる」という点です。この解決策として、外部機関の活用が有効だと思います。本校では、ICTを利用した調べ学習、専門機関の出張授業、教科書以外の活用を採用しています。

例えば、「夢を叶えるためには、いつ頃までに、いくらお金が必要か、生涯設計と経済計画を計算してみる」といった課題を設定し、インターネットなどを活用して調べ学習をさせています。出張授業は証券、保険、クレジットカード会社など、専門家を招いて授業を行っています。何度も来てもらうのが困難な場合、ホームルームや学年行事などで機会を設けるのも一つの方法です。動画で学べる講座もあるので活用するのもよいでしょう。また外部教材として、ゲーム感覚で株や債券の値動きを体験できるICT教材なども取り入れています。注意点として、数字は架空であり経済は変化することを伝え、儲かった、損したという結果だけでなく、これからの自分の資産形成の課題を考えることが大事であると教えます。

家庭科と公民科のコラボ授業は、生徒の深い学びのために有効

また、本校では公民科とのコラボ授業も行いました。コラボのきっかけは、家庭科の「生活者として自立して人生を豊かに」という視点と、公民科の「社会の仕組みを知り、社会全体をよりよくする」という目標、「どちらの視点も大切。であれば一緒に教えるのはどうでしょう」という何気ない会話でした。

コラボ授業最大のメリットは、異なる教科の先生方が、それぞれの専門の立場で指導をすることです。家庭科はあらゆる教科と関連が深く、他教科や外部の連携を実践して、カリキュラムマネジメントの中核となることができる科目だと思います。生徒の深い学びのためにコラボ授業は有効な手段ではないでしょうか。

このように、他教科や外部との連携を実践して、限られた時間を有効に使い、授業をよりよくする工夫を続けることが大事です。生徒の深い学びのために、私たち教師自身も情報収集を行い、学び続け、工夫することが必要だと思います。

QA:講師が皆様の疑問にライブで回答!

オンラインセミナーで質問に答える大藪千穂教授(左上)と岩澤未奈教諭(右上)

――授業時間数が少ないなか、高校家庭科で金融教育はどこまで何を教えればよいでしょうか(特に資産形成と投資)。

大藪 どの商品に、どれだけ投資をしたらいいのかというようなことは学校教育なので教える必要はないと思っています。それよりも、どのぐらいの時期に、どのぐらいの金額が必要なのか、そのためにはどのぐらい預貯金しておき、余裕資金で投資をするとしたら、どのぐらいのお金を回すのか、そういった「仕組みづくり」を教えていくことが大事です。また、投資にはどのようなものがあるか、リスクとリターンの関係性、投資はバランスを考えながらやらなくてはいけない、ということを伝えていけばいいのではと思います。

――「説明ばかりの授業が生徒の理解につながらず、体験的な学びを取り入れたいが自信がなく、学習の幅が広がっていない。単元への理解を深めるために何かを始めたいが、自信がなくて始められていない」というお悩みをいただいておりますが、いかがでしょうか。

岩澤 先生方の得意な分野を取り入れるといいと思います。私の大学の専攻は被服でした。教員になって被服制作の授業をしている時に、生徒から「自分で作るよりも買う方が楽だし早いし安い」ということを聞きました。そこで生徒たちに「手作業だと手間がかかるのに、どうしてそんなに服が安く買えるのかな」と問い掛け、外国での労働問題や環境問題に気付かせ、エシカル商品を取り上げ、経済の話をするようにしました。このように先生方の得意な分野からお金の話を切り口にしてみるのもよいのではないかと思います。

――授業を受けて学生の反応はいかがでしょうか。

大藪 講演でお話しした「人生設計ゲーム」は、最後に資産残高がグラフで示され、「やり直し人生」「ギリギリ人生」「足るを知る人生」「熟慮人生」「贅沢か心配性人生」と結果が出ます。そして各自コメントが入れられ、他の生徒のコメントも一緒に見られます。「やり直し人生」と結果が出た生徒が、「先のことをしっかりと考えてお金を使うようにしないといけないということが分かった」とコメントを入れていましたが、それを他の生徒たちが見て、とても盛り上がっていました。キャッシュレスのビデオ鑑賞後は、「もっとしっかり考えていかないといけない内容だ」といった声も多く挙がりました。

岩澤 授業の後、「将来のことが不安だったのですが、しっかり経済計画を立てていけば人生の目標が達成できるということに気付いた」「いろいろな資産形成を勉強して、自分に合った方法を見つけていきたい」といった感想をいただき、うれしかったです。目まぐるしく社会が変化する中で、先の見えない不安というものが高校生にもあるんだなと思います。その中で家庭科を学ぶことで「自分の人生は自分でつくっていく」「目標や計画をしっかり立てて、さらにリスクに備えていけば安心感が得られる」「金融経済教育については、学び続けることが大事」というように生徒たちの考えに大きな変化があったことは大きな収穫でした。

――授業時間数が少ないなか、自分ごととなるための方法はありますか。

大藪 身近に起こっていることを取り上げるのが、自分ごとにするのに一番だと思います。例えば消費者被害では、「アイドルグループのファンクラブを入会してすぐに脱退したいけれど、いかなる理由があってもお金は返済できませんと書いてあったがどうしたらいいの?」といった内容だと、自分たちが本当にファンクラブに入っていれば、すごく考えますよね。また、「自分がよく行く店、応援したいものなどの株価を見てみる」「優待券をもらうために、その会社にどのぐらいの投資をしなくてはいけないのかを考えてみる」、このように身近なものに結び付けてみると投資について興味が湧いてくるのではないでしょうか。そういう工夫を授業の中で取り入れていくのが大事だと思います。

――NISAなどの制度や、個別の金融商品など、どこまで教えたらいいでしょうか。

岩澤 時間があれば丁寧に制度を教えてあげてもいいと思うのですが、学校の授業では時間がないですよね。もちろんこの株がいいなどは教えてあげることができません。NISA等の制度は改正もあるので、私は授業では触れていないのですが、どちらかと言うと、「『この商品がいい』と言われた時に、それを鵜呑みにしないで、きちんと自分で判断して選びましょう」ということに重点を置いて教えています。

――「人生を設計して、試算を実践するような授業をしましたが、生徒たちはお金の不安や心配から、結婚や出産に前向きに考えられない印象があります。人生に希望を持てるような授業を行うのに、何かアドバイスをいただきたい」とのことですが、いかがでしょうか。

大藪 私たちは家族をはじめ、いろいろな人たちとのつながりの中で暮らしていて、人生、生活設計も社会との関係を考えながら生きていかなくてはいけません。だからこそ、お金だけではなく、心の豊かさを教えていくことが重要です。本当の自分の生き方、幸せが何かを考えさせ、そのうちの1つにお金があるということ、総合的に生活を考えられるような授業を行う工夫が大事なのではないかと思います。

岩澤 夢が持てない生徒はたまにいますが、自分で言わないだけで、好きなことは何かあると思います。お金の話だけではなく、総合的に自分の人生を豊かにしてくれるという視点で考えていけば、ゆくゆくは夢が持てるようになるのではないでしょうか。先生方もなるべく生徒に寄り添い、「今はそういう気持ちなんだね」と心を汲み取ってあげてください。授業を受けて、今すぐに何かが大きく変化するということはなくても、生徒たちはいずれ成長しますから。その力を信じて、私たちは教えていけばいいのではないかと思います。