東京都三鷹市の大成高校は今年度から、2年生の「総合的な探究の時間」に「SDGsコース」を設けています。約100人が23の班に分かれ、それぞれが選んだ社会課題について学びます。7月3日には、1学期の締めくくりとして、課題に関する質問項目を話し合ったうえで、市内の3カ所にインタビューに出かけました。街行く人や商店などで話を聞く難しさも痛感したフィールドワークから、どんな気付きがあったのでしょうか。
何を聞こうか?
3日の午前中は、午後のインタビューに向けて、各班(4~5人で構成)に分かれて質問項目を話し合った。自分たちの設定したSDGsのテーマについて学ぶためには、どこに行って、どんな人に何を聞くべきか、どんな聞き方がいいかを相談した。
23の班が決めたテーマは幅広い。
生徒にとって身近なテーマは食品ロスの問題で、複数の班がテーマに選んだ。例えば、「フードロスから見えてくる課題を調べ、どうフードロスをなくすか考える。お店の人に解決策を聞く」といった具合だ。環境や地球温暖化への関心も高く、「資源と地球温暖化の関係性を調べ見えてきた課題、つながりから解決策をみんなに発信しよう」というものも。音楽とSDGsを関連させ、「音楽の広報力から環境問題を改善していこう」と課題を設定をした班もあった。
ユニークなテーマとしては、「スポーツは見ている人にはやる気と自信!やっている人には達成感!お互いに達成感を得るための食事、ケガをどう乗り切るか、健康でいるための食事・栄養管理」という班も。その班の打ち合わせでは、▽スポーツをする上での格差をなくすにはどうすればいいかを聞いては▽まず、何かスポーツをされていますかを聞くのがいいのでは▽みんなが楽しめるスポーツは何だと思いますかと聞きたい――と様々な意見が出た。
各班はインタビュー項目を10項目にまとめ、取材場所も決めて、先生に提出した。
粘って「なんとか聞けた!」
午後がフィールドワーク、インタビューの本番だ。取材にかけられるのは1時間半から2時間。場所は、①三鷹市役所付近②三鷹駅付近③杏林大学病院付近の3カ所から選んだ。同校の生徒であることが分かるように、校章などが入った体操着に着替えて出かけた。
「食から見えてくる課題を調べ、現状のフードロスや人手不足」という課題を決めた第6班の4人が選んだ取材場所は、学校から歩いて20分の三鷹駅付近だ。道々、「さっと聞いて早く学校に帰ってもいいんだよね」などと言い合いながら駅方面に。
4人が最初に見つけたのは、三鷹警察署の地域安全センターだ。担当者に「フードロスについて聞きたいのですが?」と申し込んだが、「そのテーマだと商店とかスーパーで聞いてもらった方がいいのでは」との返事。少し粘ったが、テーマと取材先が合わないことを痛感して、駅に向かった。
途中のコンビニエンスストアでは「忙しいので」と断られ、次は駅近くのファミリーレストランに。込み合っていたこともあり、「事前に依頼がないと、、店長もいないので」と話しは聞けずじまい。それでもめげずに、「買い物が終わった女性なら話してくれるのでは」と、近くのスーパーで年配の女性に話しかけたが、「ダメ」の一言。
一人もインタビューできないまま、学校に戻る時間が迫る。
時間切れ寸前で、立ち話をしていた3人連れの女性に声をかけたら、「難しい課題をやってるのねえ、いいですよ」と話し始めてくれた。
1人の女性は「私たちは親から『残さないで食べなさい』と言われて育った世代。食べられる分しかよそわない。買い物も1週間で家族が食べられる分しか買わない」。別の女性は「一人暮らしだとそうもいかないです。数日分を買うという感じ」と言う。
さらに「最近は食パンも1斤(きん)でなく、2枚入りなども売っている。(売る方も)食品ロスに注意しているのでは」という話もしてくれた。ファミレスで断られた話をしたら、「個人でやっているイタリアンレストランとかパン屋さんに行ってみるのがいいのでは」「がんばってね」と、次に生かせるアドバイスももらった。
学校への帰着はほぼ最後の班になったが、粘って最後に話が聞けたことでほっとし、手ごたえも感じた。
班をリードしていた齊藤啓太さんは「街で人にインタビューする難しさを身をもって感じた」。年配の女性にインタビューを断られた加々美璃音さんは「断られて、次に行くのが怖かった。でも最後にいい人でよかった」とほっとした様子。
高橋良治さんは「テレビとかで見ていて取材は簡単そうに見えたが、(難しさが)よく分かった」といい経験だったよう。山田成美さんも「街で人に声をかける難しさがよく分かった。次に向けて(今回の経験が)よかった」と前向きに受け止めた。
各班はインタビューの結果や感想をまとめて先生に提出し、1日の「暑い」フィールドワークを終えた。
「探究の時間」に3コース
大成高校は1学年約400人で、12クラスある。2年生では今年度から「総合的な探究の時間」に複数のコースを設けることにした。
①ITコース=約200人②国際理解コース=約100人③SDGsコース=約100人の3コースで、春からスタートした。ITコースでは、ドローンやVR(バーチャルリアリティー)ゴーグルを体験しており、国際理解コースでは留学生との交流などをしている。
SDGsコースを担当している田所隆史先生は「教員は大きく、数学・情報系、言語系(国語、英語)、理科・社会系に分類されていて、どういうコースにするかを話し合っているうちに、それぞれの専門に沿ってこの三つのコースが固まった」と言う。
SDGsコースは、SDGsの17の目標(ゴール)の中から自分たちが関心のあるテーマを選び、そこにある課題を探し、その解決策を見つけ出すのが目標だ。街中へでかけてのインタビューも、「探究」にふさわしい経験と考えている。コースは、田所先生と育野裕治、伊達麻衣両先生の3人が担当している。
SDGsコースの1学期の活動は、今回のフィールドワークで終了する。2学期は今回の経験を踏まえた、インタビューの本番を予定している。質問項目の再検討や、取材のためのアポイントメントの準備などを進める。3学期は最終コーナーだ。記者から文章の書き方を改めて学び、インタビューに基づいて実際に記事作成に挑戦する。
そして最終的には、実際の新聞大(ブランケット判)の新聞を「成果物」として作成する予定だ。