千葉県八街市で2021年6月、飲酒運転のトラックが児童5人を死傷させた事故は28日、発生から3年を迎える。市教育委員会は事故を教訓として、大学や研究機関と交通安全教育の実証事業を始めた。運転手が通学路で児童の視線に気づくことで、速度を急激に落とすのを避けるようになった可能性が確認されている。

 実証事業として昨年10月、八街北小で2年生の親子が一緒に参加した交通安全教室が開かれ、見通しの悪い丁字路を想定した横断の練習をした。この教室の前後に通学路の交差点で児童の登下校の様子を比較すると、横断前に左右や後方を確認する動作が倍増していた。

 住宅地と準幹線道路の信号機がない交差点にカメラを設置し、教室が開かれる前後1カ月ずつ、計2カ月間の映像を分析した。協力した千葉工業大の赤羽弘和教授(交通工学)によると、安全を確認する行動は日が経つにつれて減少したため、家庭などで日常的に教育を続ける必要がある。

 赤羽教授はカメラを設置した交差点のほかに、別の信号機のない交差点を加えた計5地点で、走行車両の変化も調べた。大手自動車メーカーのホンダが提供したデータを使い、2カ月間の登下校の時間帯を比較した。

 下校時は3カ所で車の急な減速が減り、特に学校近くの交差点では半分以下になった。周囲を目視で確認することは安全に役立つと児童が認識し、児童の視線を介して運転手とコミュニケーションが成立した結果、運転手も行動を変えたと考えられるという。

 一方で、ほぼ変化が見られなかった交差点もあった。赤羽教授によると、渋滞を避けて地域外から車両が流入し、交通量が多い道路で確認されたといい、「車両の挙動は道路の性質と交通状況で変わる。児童の安全教育だけでなく、運転手への働きかけも必要だ」と指摘した。

 規制速度を下げたり、標識を強調したりする対策に加え、登下校時に注意喚起をするシステムをカーナビに搭載することも有効という。赤羽教授は「必要な地点で効率よく安全を確保する工夫を自動車メーカーなどと考えたい」と話す。

 八街市の5人死傷事故の現場はガードレールが設置され、白線の引き方も変わった。「もう二度と事故が起きないようにという思いが伝わってくる。一つ一つの安全対策の効果を示すことで、その意義を多くの人に理解してもらいたい」

=朝日新聞デジタル2024年06月25日掲載