ティーム・ティーチングとは、複数の教員がティーム(チーム)となって実施する指導方法を指します。1950年代にアメリカで誕生し、日本でも小学校から高校まで様々な校種や教科で活用されるなど、広く学校現場で採用されている授業形態です。ティーム・ティーチングは通常の授業形態と何が異なるのか、どのような効果を発揮するのかを、小学校英語教育の専門家が解説します。

1.ティーム・ティーチングとは

「ティーム・ティーチング」とは、複数(多くの場合は2人)の教員がティームとなり、授業づくりや授業後の振り返りも含めて一緒に授業をする指導方法です。英語の授業をはじめ、さまざまな科目で取り入れられています。

『英語教育用語辞典』では、「ある特定の学習集団に対して、2人以上の教師がチームを組み、協力して指導にあたる教育方法のこと」と定義されています(引用:『英語教育用語辞典 第3版』p.306)。

今日、ティーム・ティーチングは小学校から高校まで広く学校現場で取り入れられています。児童生徒に対する指導にとどまらず、教員の指導力向上の有効な手立てとしても活用されています。

(1)学級制・学年制をこえた指導

最近では、小学校の高学年を中心に教科担任制を実施したり、英語・理科・算数・体育などに専科教員(専門的にその教科のみを指導する教員)を置いたりする学校も出てきました。とはいえ、依然として多くの小学校では学級担任がほぼすべての教科を指導する学級担任制が中心です。また、中学校以降になると教科担任制が主流となっています。

一方で、子どもたちの多様化や指導内容の高度化につれ、1人の教員にすべてを任せるだけではなく、複数の教員が指導することの有効性にも目が向けられています。

特に、英語によるコミュニケーション能力の育成やICTの活用、政府の提言する「Society 5.0」の社会の実現に向けて、指導の内容や方法が多様化・高度化しています。

そこで、小学校では各教科の高い専門性を持つ教員が一緒に指導に加わったり、中学校以降では他学年を指導する教科担任が一緒に指導に加わったりする学校が増えてきました。それにより、指導の幅が広がるだけでなく、児童生徒へのサポートも手厚くなるメリットが生まれます。

さらに、ティーム・ティーチングを通して他の教員の指導方法を間近で見ることで、各教員も自らの指導方法を振り返り、新たな指導を学ぶ機会にもなります。そのため、学級制や学年制をこえた指導につながるティーム・ティーチングが、広く取り入れられているのです。

(2)歴史

ティーム・ティーチングの考え方は、1950年代にアメリカ合衆国のハーバード大学で生まれ、授業開発に応用されたといわれています(参照:『教育心理学用語辞典』p.306 )。

基本は、2人以上の教員が協力しながらその資質や能力を活用して、指導の責任を分担します。

アメリカでは、ティーム・ティーチング(team teaching)という用語よりも、コ・ティーチング(co-teaching:共同指導)の方が一般的です。1960年代のアメリカでは、子どもたちの多様なニーズに応えていこうと、特別支援教育を受ける児童生徒を通常学級に含める運動が起こりました。

その後「障害のある個人教育法」(IDEA)が成立し、現在、日本でも進められているインクルーシブ教育(障害の有無にかかわらず、すべての子どもが一緒に学ぶ教育)が始まりました。

障害のある子どもたちが通常の学級で学ぶ際、必要な支援を受けることが欠かせません。そこで学校内で複数の教員が協力し合い、専門的な支援を個別の児童生徒に与えることで、全ての子どもたちが成功できるようにと、コ・ティーチングが広がりました。

またアメリカでは移民の増加から、英語を母語としない子どもたちのための英語学習クラス(ESL:English as a Second Language)でも、学級担任と英語指導の専門教員が共同で指導する場面も多くなりました。そこでの実践の成功が、他国へのティーム・ティーチングの波及へとつながったのです。

(3)普及の動き

日本でも1960年代にはティーム・ティーチングの考え方が入ってきましたが、教員の数を増やすことがなかなか難しく、飛躍的な普及につながりませんでした。しかし、1990年代になると、国の「個に応じた多様な教育」を推進するとの方針を受け、ティーム・ティーチングを含めた指導の工夫が求められるようになります。その後、教員定数の増加など、ティーム・ティーチングを推進する状況が整ってきました。

同じころ(1987年)、国の事業である「語学指導等を行う外国青年招致事業」(通称:JETプログラム)が始まりました。JETプログラムは、アメリカやイギリスなどから大学を出たばかりの若いネイティブ・スピーカーを招聘し、公立の中学校や高校に英語の授業を補助する「外国人指導助手(ALT:Assistant Language Teacher)」として派遣するものです。

その後、全国の学校で英語の教科担任とALTが一緒に教えるティーム・ティーチングが広がっていきました。1987年に来日したALTは848人ですが、2023年には5831人のALTが来日しています(参照:歴史|一般財団法人自治体国際化協会 〈CLAIR〉)。

当初は中学校と高校で行われていたALTとの英語のティーム・ティーチングも、現在は小学校にも広がっています。2022年度には、小学校高学年での実施率(半分以上の授業をALTとのティーム・ティーチングで実施)が70.1%にまで達しました(参照:令和4年度公立小学校における英語教育実施状況調査 p.4|文部科学省

2.ティーム・ティーチングで期待される効果

ティーム・ティーチングでは、教室の中だけでなく教室の外でも児童生徒や教員にとって、さまざまな学習や指導の効果が期待されています。

(1)多種多様な授業を展開できる

ティーム・ティーチングを取り入れると、これまで1人で指導していたときにはできなかったような授業を行うことができます。

(例)

  • 教室の児童生徒を二つの少人数グループに分け、各教員が同じ内容をそれぞれのグループに教える
  • 基礎・応用に分けて子どもたちのレベルに沿った、きめ細かな指導を行う

現在、日本では各小中学校で35人以下の少人数学級が広がってきています。それでも欧米などの1クラスの児童生徒数(例:2023年度の米国イリノイ州の1クラスの平均児童生徒数20.8人)に比べるとまだ多いのが現状です(参照:Average Class SizeOverall|ILLINOIS| )。

しかし、ティーム・ティーチングで2人の教員が指導することにより、1人の教員が担当する児童生徒の数は少なくなります。それによって、子どもたちのニーズに沿ったきめ細かな指導ができるようになります。

(2)児童生徒に対して多面的な指導ができる

子どもたちは、教科の得意・不得意や各教員に対する好みや苦手意識などを持っています。複数の教員が指導にあたれば、それまで見落としていた子どもたちの反応に気づくことが可能です。

ティーム・ティーチングによって、各教員がきめ細かく子どもたちの様子を観察し、それを教員同士で共有することで、より行き届いた指導につながります。また、児童生徒にとっても、指導する教員が増えることは相談する相手が増えることにもつながります。

これまで教員との相性の関係で質問しづらかった場合も、別の教員に疑問点を質問したり、相談したりすることができるようになるでしょう。同じ教科でも違う教員が説明することで、子どもたちは違ったアプローチで事象や問題に向き合う視点を得ることもできます。このように、児童生徒が多面的に学ぶ機会につながる指導ができるところも、ティーム・ティーチングの利点の一つです。

(3)教員同士の協力で手厚い事前・事後の作業ができる

昨今、さまざまな場面で「働き方改革」が叫ばれていて、学校現場でもそれは変わりません。特に、OECDの加盟国の中で日本の教員の労働時間はとりわけ長く、1週間の労働時間の国際平均(38.3時間)を大きく超えて50時間以上となっています(参照:OECD 国際教員指導環境調査〈TALIS〉2018報告書 vol.2 のポイント p.14|文部科学省)。

また、中学校教員の残業時間は特に長く、全体の36.6%が過労死ラインにあるといわれています(参照:教員勤務実態調査〈令和4年度〉の 集計〈速報値〉について p.15|文部科学省)。

ティーム・ティーチングは、実際に教室内で教える部分だけの協力ではありません。授業前(教材や指導案の作成)と授業後(授業の振り返りや採点・評価)の協力も含まれます。複数の教員で授業のアイデアを出し、準備をし、授業後も協力して振り返りや評価の作業を行うことで、効率的に授業を行えます。それが結果的に、教員の負担軽減につながるのです。

(4)教員同士の学び合いができる

教員は、大学や大学院の卒業後すぐに子どもたちの指導にあたります。しかし、最初からうまく指導できるわけではありません。そのために教員研修がありますが、参加の時間も機会も限られています。

ティーム・ティーチングは、教員が学校で授業をしながら指導力向上を図れる機会でもあります。若い教員や指導力を高めたい教員にとって、ベテランや高い専門性を持つ教員の指導を間近で見て、授業の前後に直接質問できる機会は、絶好の学びの場です。

同様に、ベテラン教員にとっても、若い教員や意欲のある教員の自由で新しい発想は刺激になります。すべての教員が指導の専門性を高めていかなければならない時代において、ティーム・ティーチングは有効な教員研修の場にもなっています。

3.ティーム・ティーチングの学習形態

教室でティーム・ティーチングを行うとき、児童生徒の集団の様子や教員の指導内容・方針によって、七つのパターンに分けられます(参照:Collaboration and co-teaching: Strategies for English learners. p.75〜81|Cowin)。それぞれのパターンについて解説します。

(1)単集団・指導+補足

「単集団」とは、クラスの児童生徒が一つの集団として同じ活動(例えば、教員の説明を聞く)をすることを指します。クラス全体の児童生徒に対して、2人の教員が協力しながら指示を出します。

「単集団・指導+補足」では、1人の教員がメインとなって説明をし、もう1人の教員がサブとなって補足をします。例えば、体育の授業で1人の教員がバスケットボールのシュートの大まかな説明をします。もう1人の教員は、それを補うようにドリブル・シュートを実演し、注意点の解説を行います。

(2)単集団・同じ内容の指導

「単集団・同じ内容の指導」は、一つの集団になっている児童生徒に対して、2人の教員が共同で同じ内容を指導します。例えば、英語の授業で新しい会話表現を導入する際、2人の教員が子どもたちの前で実際に会話をして、どのように新出表現を使うのかをデモンストレーションします。

(3)単集団・指導+評価

「単集団・指導+評価」は児童生徒に対して、1人の教員が指示や説明をします。もう1人の教員は、子どもたちの理解の様子を見て、支援が必要な児童生徒に個別に説明やヒントを与えます。例えば、算数のかけ算の復習をする際に、1人の教員が例題を解いて見せて、もう1人の教員は児童が個別に問題演習をする様子を見て回り、アドバイスをします。

また、この形態は教員の指導の評価にも応用できます。サブで指導する教員は、メインで指導する教員の指導の強みや弱み、指導の癖(いつも窓側ばかりを向いて話をするなど)を把握し、授業後に指導力向上につながるフィードバックを行います。

(4)複数集団・同じ内容の指導

複数集団とは、クラスの児童生徒が二つ(またはそれ以上)の班やグループに分かれて活動することです。「複数集団・同じ内容の指導」の場合、2人の教員は少人数になった各班やグループの子どもたちに対して、同じ内容の指導を行います。

この学習形態では、少人数の子どもたちにきめ細かな指導ができます。また、途中で教員が担当する班やグループを入れ替えれば、授業中にすべての子どもたちを指導することが可能です。

(5)複数集団・異なる内容の指導(導入)

「複数集団・異なる内容の指導(導入)」は、事前の知識や教科の得意・不得意を基準に子どもたちをグループに分け、各教員が担当するグループの子どもたちに異なる内容を指導します。

例えば、英語の授業で初めてアルファベットを学習するグループと、すでにアルファベットを読めるグループに子どもたちを分けた場合で考えてみましょう。初めて学ぶ児童や英語を苦手とする児童には、担当する教員が時間をかけてわかりやすく指導します。

一方、すでに理解している児童にはアルファベットを使った活動などを行い、学習内容の一層の定着を図ります。それぞれの教員は、事前に協力して共通の学習到達目標を目指し、子どもたちの背景知識や学習経験の差を埋めて、一緒に学び合える環境を作り出します。

(6)複数集団・異なる内容の指導(復習)

「複数集団・異なる内容の指導(復習)」では、複数の班やグループに分かれた子どもたちのニーズや習熟の度合いに応じて、各教員が異なる内容を指導します。
例えば、算数で子どもたちが前回の授業の復習を行いたいグループと、前回の授業の内容を踏まえて応用問題に取り組みたいグループに分かれたとします。各教員は、自身の担当する子どもたちのニーズに応えて、それぞれが異なる内容の指導を行います。

(7)複数集団・グループ支援

「複数集団・グループ支援」では、班やグループに分かれて作業する児童生徒に対して、2人の教員が教室を歩き回りながら班・グループを観察し、必要に応じてアドバイスします。

例えば、子どもたちが班ごとにプレゼンテーションのスライドを作成している様子を想像してください。2人の教員は各班を回り、進捗状況を確認しながら、それぞれに指導やアドバイスを行います。よりタイムリーで個別の指導が複数個所で行えるので、グループ活動を支援する際に向いています。

4.さまざまな場面で浸透するティーム・ティーチング

ティーム・ティーチングは、校種や教科を超えて多くの場面で取り入れられています。

(1)特別支援学校

特別支援の学級や学校では、児童生徒の支援のニーズがさまざまです。そのため、教室ではメインの教員とサブの教員が分担して支援をします。

例えば、メインの教員が中心で授業を進め、指示を出したり上手くいったときに褒めたりする役割を担います。一方、サブの教員は全体活動に参加することが難しい児童生徒に対して、個別授業を行ったり障害の重い子どもたちでも参加できる活動を見つけたりして支援をします。

さらに、各児童生徒に関わる学校・家庭・外部の障害サービス関係者などによる定期的な話し合いを行い、障害特性に合わせたより良い授業内容につなげていきます。

(2) ALTとの授業

英語の授業では、日本人教員と外国人指導助手(ALT:Assistant Language Teacher)がペアを組み、一緒に英語を教えることがあります。ALTは、大学を出たばかりの若いネイティブ・スピーカーが多く、日本政府が主催するJETプログラムなどを利用して来日し、2~3年ほど指導するのが一般的です。外国人の多い首都圏では、人材派遣会社や英会話学校から派遣されるALTもいます。

ALTとの授業では、日本人教員とALTそれぞれの強みを生かしながら、子どもたちの英語でのコミュニケーション能力を伸ばす授業を行います。

  • 日本人教員の強み:文法指導や児童生徒の指導全般、及び英語の学習経験
  • ALTの強み:英語力や英語文化の知識や経験

中学校や高校では、日本人の英語教員がALTと授業をします。一方、小学校では英語を専門に指導する教員(英語専科教員)や英語が得意な教員がALTとペアを組むケースもありますが、多くの小学校では学級担任がALTと組んで授業をしています。

(3)情報教育

GIGAスクール構想により、児童生徒が授業中にタブレットやパソコンを使いながら学習する場面が増えてきました。中学校の技術家庭や高校の情報科の授業だけにとどまらず、さまざまな授業でICTを活用した情報の検索やプレゼンテーションが行われています。

パソコンやインターネットの活用は、児童生徒一人ひとりの知識や操作能力が大きく異なります。そのため、各教科担任や学級担任が、ICTの知識や指導経験が豊富な教員や専門家とペアになり、授業を行いながら子どもたちの疑問やつまずきに対応しているのです。

これからの時代は、全ての教員がICTを活用した授業を行うことが求められます。ティーム・ティーチングによる授業は、教員一人ひとりのICTの活用能力向上にも役立っています。

5.ティーム・ティーチング実践のポイント

ティーム・ティーチングを効果的に行うためには、いくつかの実践のポイントがあります。