ChatGPTなどの生成系AIが取り沙汰されるなか、学校教育はこうした時代に対応できているのか気になる人も多いでしょう。現在の学校教育は、2016年改訂(高校は2017年改訂)された学習指導要領に基づいて行われています。この記事では、その学習指導要領の改訂の要点を、いま一度振り返る形でご紹介します。

1.新学習指導要領とは?
2.ポイント1:子どもたちに必要な力を三つの柱として整理
3.ポイント2:アクティブ・ラーニングの視点から授業を改善
4.ポイント3:教科・科目の新設・見直し
5.ポイント4:カリキュラム・マネジメントの確立
6.ポイント5:目標は社会に開かれた教育課程の実現
7.教員や保護者に求められる対応
8.新しい未来を拓く力を育てるために

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1.新学習指導要領とは?

学習指導要領とは、文部科学省によって、学校教育をどのように行っていくべきか、その具体的な内容がまとめられたガイドラインです。

学習指導要領は、時代の変遷に合わせるように、これまで約10年に1度のペースで改訂されています。次期改訂は2027年と予測されますが、現行では2016年改訂・2017年告示(高等学校は2017年改訂・2018年告示)された学習指導要領に基づいた教育が行われています。

この記事では、現行の学習指導要領を一番新しいものという意味合いで「新学習指導要領」と呼び、要点をまとめます。

(1)そもそも学習指導要領とは

第2次世界大戦後の1947年、GHQ指導のもと、日本の学校教育が構築されていく過程において、「学習指導要領 一般編(試案)」が作成されました。これが日本における最初の学習指導要領です。

「第一章 教育の一般目標」では、「わが国の教育の根本的な目的は,教育基本法のはじめに示されているとおりである。われわれは教育のすべての営みによって,このような目的を逹することに努めなくてはならないのである。ただここで当面している,学習の指導といった問題に関係してみると,これをもっと具体的な形で,しかも今日の社会状態に応じてこまかく考える必要がある。このような意味において国民一般の教育について具体的な教育の目標を考えると,次のようなことがあげられる。」という文言から始まります(引用:学習指導要領 一般編〈試案〉/第一章 教育の一般目標丨国立教育政策研究所

そして、教育目標の柱としては、「個人生活については」「家庭生活については」「社会生活については」「経済生活および職業生活については」の4項目を挙げ、それぞれ下位目標が述べられています。

例えば、「個人生活については」では、

1. 人の生活の根本というべき正邪善悪の区別をはっきりわきまえるようになり,これによって自分の生活を律して行くことができ,同時に鋭い道徳的な感情をもって生活するようになること。
2. 自然と社会とについての見方考え方を科学的合理的にし,いつもこれらについて研究的に学んで行こうとする態度を持ち,またこれによって科学的知識を豊かにして行くようになること。
(引用:同上)

など、一人ひとりが、科学的合理的な見方考え方を身につけ、正しい情報判断をし、自分の生活を律していくために必要な項目が挙げられています。

学習指導要領は、このように教育の具体的な内容が定められたものです。いずれの小学校・中学校・高校も、学習指導要領に記載された内容に基づいて教育を行わなければいけません。

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(2)学習指導要領が改訂されるのはなぜ?

上記でご紹介した「学習指導要領 一般編(試案)」に記載された内容は、「個人生活については」の項目からもわかるように、現代から見てもさして古くさくはありません。

しかし、作成された1947年から現在に至るまで、学習指導要領は幾度も改変が加えられています(参照:学習指導要領の一覧丨国立教育政策研究所

学習指導要領が頻繁に改訂される理由は、社会や教育環境が変化し、生徒らが必要とする力や価値観が常に変化しているためです。

例えば近年では、情報技術やグローバル化の進展により、国内外の情報や文化に触れる機会が増えています。また、昨今話題のChatGPTなどの生成系AIや、スマートフォンやゲーム機などのICT機器も急速に普及しています。現代社会を生き抜くためには、それに対応するための能力や視野の広さが必要です。

他にも、生徒たちの多様な背景や価値観があることも考慮し、社会の多様性を尊重する姿勢が強調されるようになっています。

これらの変化のなかで、より適切な教育が提供されるようにするため、学習指導要領は定期的に改訂されているのです。

(3)新学習指導要領の実施時期

現行の学習指導要領の改訂と実施時期は以下のとおりです。

文部科学省が発表した今後の学習指導要領改訂スケジュール

出典:今後の学習指導要領改訂スケジュール丨文部科学省

スケジュールを見るとわかるように、小学校・中学校は改訂時期は同じですが全面実施のタイミングが異なり、高校も小・中学校より少し遅れて改訂・全面実施されています。

また、改訂の中身の議論が中央教育審議会で行われてから全面実施まで、思いのほか年数を要していることもわかります。例えば、小学校の場合は6年です。中学・高校では、改訂の検討が始まってから実施までに7年かかっています。

これは、議論をまとめて具体的に改訂内容を決めるのに時間に加え、改訂内容を国民に告示し周知徹底させる時間、新しい学習指導要領に合わせた教科書を作る時間、その教科書を必要部数印刷する時間など、移行に必要な時間が必要なためです。

なお、学習指導要領は、作成された当初は頻繁に改訂が加えられていましたが、最近では、およそ10年ごとに定着してきています。この流れからすると、次期新学習指導要領は、2026年改訂・2027年告示となるでしょう。

すでに、次期改定の方向付けとなる「次期教育振興基本計画について(答申)」が、2023年3月8日に発表されています。

2.ポイント1:子どもたちに必要な力を三つの柱として整理

では、ここから新学習指導要領(現行の学習指導要領)の要点を具体的に見ていきましょう。この記事では、文部科学省の解説をもとに、以下のように大きく五つのポイントに分けました。

【新学習指導要領のポイント】

  1. 子どもたちに必要な力を三つの柱として整理
  2. アクティブ・ラーニングの視点から授業を改善
  3. 教科・科目の新設・見直し
  4. カリキュラム・マネジメントの確立
  5. 目標は社会に開かれた教育課程の実現

まず一つ目のポイントが、子どもたちに必要な力を三つの柱として整理していることです。その三つとは、「知識・技能」「思考力・判断力・表現力等」「学びに向かう力・人間性等」です。

(1)知識・技能

この柱では、基礎的な学問や技術、文化、歴史、地理などの知識や技能を身につけることが目標とされます。また、情報を収集し、情報の信憑性を正しく判断し利用する能力や、グローバル社会において必要とされる国際理解などの能力も含まれます。

(2)思考力・判断力・表現力等

この柱では、未知の状況にも対応できる問題解決能力や批判的思考力、創造力、コミュニケーション能力、表現力などが育成されます。これらの能力を養うためには、授業や課外活動での活発なディスカッションや発表などが重要です。

(3)学びに向かう力・人間性等

この柱では、主体的な学習や自己表現力、協働力、感性や思いやりなどが育成されます。また、多様な価値観を尊重し、自分自身や他者、社会について理解する力も重要です。これらの能力を育むためには、授業や課外活動での自己の目標設定や自己評価、グループワーク、社会体験活動などが重要です。

3.ポイント2:アクティブ・ラーニングの視点から授業を改善

ポイント1で見てきたように、生徒らは知識や技能だけでなく、問題解決能力や創造性、コミュニケーション能力、協働性、自己肯定感など、さまざまな資質・能力を身につける必要があります。

そのために、新学習指導要領では、アクティブ・ラーニング(学習者が自ら能動的に学ぶように設計された教育方法)の視点で、授業を改善するように求めています。具体的には、授業に以下の三つの視点を取り入れる必要があります。

(1)改善の基準となる三つの視点

①主体的な学びになっているか
主体的な学びは、生徒たちが自分自身で学ぶことを促し、自らの学びに責任を持ち、学ぶ目的を自ら設定し、自分のペースで進めることができる学び方です。このような学び方を促すことで、生徒たちは自己肯定感を高め、自らの能力を発揮することができます。

②対話的な学びになっているか
対話的な学びは、生徒たちがお互いに意見を出し合い、考えを共有しながら学びを深めることができる学び方です。生徒たちは、他者の意見に敬意を払い、相手の意見に共感し、自らの意見を述べることで、コミュニケーション能力や協働性を身につけられるようになります。

③深い学びになっているか
深い学びは、表面的な知識だけでなく、深い洞察や理解を得ることができる学び方です。このような学び方を促すことで、生徒たちは問題解決能力や創造性を身につけ、独自の見解を持ち、多様な視点から物事を捉えることができます。

(2)具体的な授業例

これらの観点を採り入れた授業の具体例を二つご紹介します。

①小学校6年生単元「資料の調べ方」度数分布表についての授業
度数分布表は、データを表やグラフで整理するための方法のひとつです。

例えば、あるクラスの生徒がテストを受けたときに、それぞれの点数を集計したいと思ったとしましょう。

このときに、0~10点、11~20点、21~30点、といったように、点数を10点ごとに区切り、各区間に含まれる人数を数えます。その結果を表やグラフにまとめたものが、度数分布表です。

具体例を示す表①

STEAM教育とは、Science(科学)、 Technology(技術)、 Engineering(高額)、Arts(芸術)、Mathematics(数学)を横断的に組み合わせながら、学習者の問題解決能力を育む教育手法

②国語「みんなで一文ずつつないで、一つのお話を作ろう」の授業

国語の授業では、例えば次のようなものがあります。

具体的な事例を示した表②

4.ポイント3:教科・科目の新設・見直し

新学習指導要領では、教科・科目の新設・見直しも行われています。

(1)情報の活用、情報モラルなどの情報教育を充実

ビッグデータや人工知能(AI)の活用などによる技術革新が進み、スマートフォンと家電製品や自宅のセキュリティシステムと連携し操作する機器が増えるため、小学校では「プログラミング教育」が必須となりました。

また、文部科学省による大学や高等専門学校の正規の課程で数理・データサイエンス・AI教育プログラム認定制度が開始されたことに伴い、高校においてもデータサイエンスコースや選択科目を設けたり、中学校においてもデータサイエンスの基礎を学ぶ授業が展開されたりしています。

(2)外国語教育の充実

社会のグローバル化に伴い、国際社会に対応できる人材を育成するため小学校中学年から「外国語教育」が導入されました。さらに、中学校では聞く・話す・読む・書く技能を総合的に充実(語数を900語程度から1,200語程度に増加するなど)させることになりました。

(3)言語活動や道徳教育に関する教育の充実

インターネット上では、誹謗中傷やコミュニケーションのずれによる仲違いなどの問題が多発しています。人の話をきちんと聞く力や、目にした文章を最初だけ読んで早合点せず、きちんと最後まで読み、メッセージの背後や行間も読むことのできる力がこれまで以上に求められる時代となっています。

そのため、国語をはじめ各教科で記録、説明、批評、論述、討論などの学習を充実や、人間としてしてはならないことをしないように、小学校であれば「きまりを守る」ための教育を、中学校であれば社会の形成への参画に必要な支援をするなど、発達の段階に応じた指導の充実が指摘されています。

未来を生きる子どもたちにとって重要な新しい項目3点を上記に挙げましたが、これら以外にも、理数教育の充実、主権者教育、体験活動の充実、消費者教育、伝統や文化に関する教育の充実など、旧来から取り組まれている内容も挙げられています。

5.ポイント4:カリキュラム・マネジメントの確立