新学習指導要領では、カリキュラム・マネジメントの一環として「指導と評価の一体化」が求められています。主体的・対話的で深い学びのなかで、どのような評価が求められるのでしょうか。教育学研究者が「指導と評価の一体化」の意義とメリット、そして実現のための手順について、詳しく解説します。
目次

1.指導と評価の一体化とは
「指導と評価の一体化」とは、教員が指導する際の観点と、子どもを評価する際の観点を連動させることで、教育の質的改善を目指す学習評価の在り方です。具体的には、教員が授業計画(Plan)を立てて実践(Do)した指導の結果、子どもたちは何ができるようになったのかをこまめに評価(Check)すると同時に、教員の指導方法が適切であったのかを教員自身が点検(Check)し、教員の指導を改善(Action)させる取り組みを示しています。
これまでの学習評価は、評価の結果が子どもの学習改善や教員の指導改善に結びついていないことが課題として指摘されてきました(参照:「指導と評価の一体化」のための学習評価に関する参考資料〈高等学校編〉巻頭資料 p.2丨国立教育政策研究所)。学習評価が成績をつけるためだけの「評価」にとどめず、評価の結果を受けて、子ども自身が学習姿勢を改善したり、教員自身が指導を改善したりすることが、教育の質を向上させるうえで大切です。

2.指導と評価の一体化がもたらすメリット
指導と評価の一体化がもたらすメリットは、教員と子どもたちが信頼関係を築きながら、お互いに教育の質を高めていけることです。具体的には、以下の三つのメリットが挙げられます。
- 子ども自身の学習改善につなげられる
- 教員自身の指導改善に生かせる
- 毎回の授業の積み重ねが大切になる
順番に見ていきましょう。
(1)子ども自身の学習改善につなげられる
指導と評価を一体化することで、明確な評価にもとづく指導が可能になるため、学習活動への取り組みを改善していこうとする子ども自身のモチベーションを高められます。授業中の発表に対するフィードバックや、小テストの解答解説などの場面を活用しながら、指導と評価をこまめに繰り返すことで、子ども自身が自らの学びを振り返り、改善を図れるようになります。
毎回の授業で全評価の記録を残すことは現実的ではありません。しかし、単元のまとまりのなかで、一つひとつの指導内容や学習活動に対して、適切に評価の場面を設定して学習評価のフィードバックをすることが求められます。
特に、これまでの学習評価は学期末や学年末などのタイミングで総括的に評価することが多く、評価の結果が子どもの学習改善につながらないことが指摘されてきました。指導と評価を一体化させて、こまめに評価結果を子どもに還元することが、子ども自身の学習改善につながります。
(2)教員自身の指導改善に生かせる
「指導と評価の一体化」により、子どもの評価結果を受けて、教員自身が指導を見直すきっかけを得られます。
生徒の理解度を把握できなければ、生徒の理解度とかけ離れた指導をし続けることになってしまいます。指導と評価の観点を統一することにより、どのような力を身につけるための活動なのか、授業における学習活動一つひとつの意義を明確にした指導が可能になります。
授業の質を向上させるためには、計画を立てて実施した授業の「何がよかったのか」「何が課題だったのか」を教員自身が振り返り、次の授業改善につなげることが必要です。指導と評価を一体化させて、毎回の授業における子どもの反応(リアクション)を感じ取ることを大切にしつつ、子どもの理解度を把握しながら、次の指導に生かしていくことが求められます。
(3)毎回の授業の積み重ねが大切になる
「主体的・対話的で深い学び」を主軸とした授業改善が求められているなかでは、学期末試験の結果だけでなく、毎回の授業における学習活動一つひとつが評価の対象になります。
日々の学習活動が評価の対象になることで、子どもが学期末テスト直前における一夜漬けの勉強に偏ることなく、日頃から学習活動の質を高めて、学びを深めることに意義を見出すことが期待できます。単元全体を通じてバランスよく評価を設定し、毎回の授業における積み重ねを大切にすることが、教員・子ども両者にとって重要です。
3. 新学習指導要領における評価の観点
新学習指導要領(2017~2019年改訂版)では、学校の教育活動全体を通じて、次の三つの力をバランスよく育むことを目指しています。
- 実際の社会や生活で生きて働く「知識及び技能」
- 未知の状況にも対応できる「思考力、判断力、表現力等」
- 学んだことを人生や社会に生かそうとする「学びに向かう力、人間性等」
学習指導要領に示された小・中・高校の各教科の目標と内容は、原則として、この三つの力を柱としながら同じ構造で整理されており、学校種や教科の枠を超えた共通の観点になっています(参照:平成29・30・31年改訂学習指導要領〈本文、解説〉|文部科学省) 。
また、育成すべき三つの力は学習評価の観点にも結びついています。各教科における学習評価の観点は「知識・技能」「思考・判断・表現」「主体的に学習に取り組む態度」の三点に整理されており、各教科において育成すべき三つの力が身についたかどうかを具体的に評価し、評定をつけます。
育成すべき三つの力のうち、③の「学びに向かう力、人間性等」には「主体的に学習に取り組む態度」を評価する側面と、「感性や思いやりなど」といった子ども一人ひとりのよい点や可能性、進歩の状況を評価する側面があります。「主体的に学習に取り組む態度」は各教科の学習状況の中で観点ごとに評定をつけますが、「感性や思いやりなど」は評定にはなじまないため、日々の教育活動の中で個人内評価をすることが望まれています(参照:ハンドブック p.6|国立教育政策研究所)。

4.授業における観点別評価の方法
新学習指導要領(2017~2019年改訂版)においては、単元や題材など内容や時間のまとまりを見通しながら、「主体的・対話的で深い学び」の視点から授業改善をおこなうと同時に、その成果を適切に評価することが求められています。
そのため、学期末のペーパーテストだけでなく、授業中のグループワーク・発表・ノートの記録・作品づくり・レポートの作成・ポートフォリオの提出などさまざまな場面で評価の記録をつけ、指導と評価を一体化させていくことが必要です。
(1) 知識・技能

「知識・技能」の評価は、子どもが「何を理解しているのか」「何ができるようになったのか」を確認するためにおこないます。具体的には、テスト(定期考査や小テストなど)が伝統的な方法として挙げられます。事実的な知識の習得を問う問題と、知識の概念的な理解を問う問題とのバランスに配慮しながら、単元ごとの小テストや期末テストなどで評価します。
これまで「知識・技能」の評価にはテストが主として用いられてきましたが、そのほかレポート・ノートの記述・観察・実験・発表などのあらゆる場面で知識・技能が確実に身についているかどうかを評価するのが効果的です。誤った知識をレポートやノートにまとめたり、発表したりしていた場合、「思考・判断・表現」の観点で評価する以前に、「知識・技能」の観点で適切な評価をおこない、改善を図ることが必要でしょう。
教員には、多様な評価方法を適切な場面で取り入れて、知識や技能の習得度を多面的に分析しながら、評価の結果を指導に生かしていくことが求められます。
(2) 思考・判断・表現

「思考・判断・表現」の評価の目的は、子どもが「理解していることやできることをどのように活用できるのか」を見極めることです。各教科で得た知識と技能を活用して、課題を解決するために必要な思考力、判断力、表現力が身についているかどうかを評価します。
(3) 主体的に学習に取り組む態度

「主体的に学習に取り組む態度」を評価する際には、「粘り強い取り組みをおこなおうとする側面」と「自らの学習を調整しようとする側面」から評価することが求められています。
「粘り強い取り組みをおこなおうとする側面」とは、知識及び技能を獲得したり、思考力・判断力・表現力を身につけたりすることに対して、粘り強く取り組もうとする態度のことです。また「自らの学びを調整する側面」とは、子どもが自らの学習状況を把握し、よりよい学びになるよう主体的に自らの学びを改善する姿勢を指します。
これまで示してきた二つの観点「知識・技能」「思考・判断・表現」を踏まえながら、これらの力が身につくように、粘り強く取り組もうとしているか、自らの学びを調整して主体的に取り組んでいるかを評価します。
5.指導と評価の一体化を実現するための評価計画作成の手順
指導と評価の一体化を実現するためには、授業づくりのときから指導と評価の観点を一致させた計画を作成することが重要です。
その手順を三つのステップに沿って見ていきましょう。
(1)ステップ1.単元の目標の設定
まずは、学習指導要領に示されている各教科の目標と内容にもとづいて、年間指導計画を作成しましょう。子どもの実態を踏まえながら、各単元の目標が実現されるように年間指導計画を立てることがポイントです。
そのうえで、各単元や題材ごとの目標と内容を設定します。目標は学習指導要領にもとづきながら、身につけるべき資質・能力の「知識及び技能」「思考力・判断力・表現力」「学びに向かう力・人間性等」の三つの観点で整理します。

(2)ステップ2.単元の評価規準の作成
次に、単元ごとに具体的な評価規準を作成します。