デジタル時代の進化が、教育の新たな地平を切り開こうとしています。特に教育界で革命を起こす可能性の高い存在が生成AIです。「文部科学省が掲げる生成AIのガイドライン」では、教育者が生成AIを活用するための指針を示しています。この記事では、ガイドラインの詳しい解説と生成AIのメリットなどを紹介します。

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1.文部科学省が掲げる生成AIのガイドラインとは

文部科学省が掲げる生成AIのガイドラインとは、生成AI技術を教育現場で活用するための指針として策定されたものです。

文部科学省は、生成AI技術の活用の指針として、小中学生向けに「初等中等教育段階における生成AIの利用に関する暫定的なガイドライン」を策定しました。高校・大学生向けには「大学・高専における生成AIの教学面の取扱いについて(周知)」にて、生成AIの利用がまとめられています。

このガイドラインは、政府全体の議論やG7教育大臣会合で共有されています。さまざまな有識者や中央教育審議会委員からの意見聴取をもとにまとめられたものです。

2.文部科学省が重視する「生成AI」とは

文部科学省の重視する「生成AI」はジェネレーティブAIともいわれ、さまざまなコンテンツを作成する目的で使われています。ChatGPTやBing Chat、Bardなどの対話型AIは、人との自然な会話のような応答が可能です。文章作成や翻訳の素案作成、ブレインストーミング(アイデアの出し合い)のサポートなど、民間企業での利用も増えています。

各生成AIは、膨大な情報から作られた大規模言語モデル(LLM)をもとに「統計的にそれらしい応答」を生成します。指示文(プロンプト)を工夫することで、精度を高められます。ただし、上述のとおり正確性に課題がある点に注意しましょう。

対話型生成AIの回答もあくまで「参考の一つ」であり、最終的な判断は自分でおこなう姿勢が求められます。回答を修正するうえでは、その分野の知識や真偽を判断する能力も必要です。
生成AIは、従来のAIと異なるポイントがいくつかあります。特に言語モデルの進化により、新しいコンテンツを生成できるのがポイントです。この機械学習の手法は「ディープラーニング」と呼ばれています。
以下に、筆者が授業用に配布している資料をもとに、従来のAIと生成AIの主な違いについて表で整理しました。

AI時代の情報教育を説明する図
参考:「AI時代の情報教育」授業用配布資料|加納寛子

従来のAIは、特定のタスクを遂行するために設計され、その範囲外の動作は基本的にできません。一方で生成AIは、大量のデータから学習することで多岐にわたるタスクの対応が可能です。特に言語関連のタスクにおいて、高い柔軟性を持っています。

3.ガイドラインから見る生成AIを初等中等教育に活用する目的

ガイドラインでは、学習指導要領において「情報活用能力」を中心的な資質・能力として位置付けているとしたうえで、情報技術を日常生活や学習に取り入れる重要性を強調しています。この背景を考慮すると、生成AIは業務の効率化や生産性向上のために多くの人によって使用されるでしょう。

生成AIを取り入れる際には、以下の点について理解させることが必要としています

  • 生成AIの性質
  • 生成AIのメリット・デメリット
  • 生成AIには自我や人格がないこと
  • 生成AIに委ねるだけではなく自己の判断や考えが重要であること

一方で、生成AIはまだ発展途上の技術です。利便性は高いものの、次のようなリスクや懸念点も存在するとしています。

  • 個人情報の流出
  • 著作権の侵害
  • 偽情報の拡散
  • 批判的思考力や創造性の低下
  • 学習意欲への影響

さらにガイドラインでは、最終的には子どもの育成のみならず、教師自身の働き方改革にも生成AIを役立てる必要があるとしています。

4.ガイドラインの示す生成AIの校務での活用事例

現在、生成AIは教育現場での取り入れが進められています。しかし、生成AIはあくまで「たたき台」として利用するのが基本です。最終的な内容の確認や推敲(すいこう)は教員自身がおこなう必要があります。このような背景を踏まえ、ガイドラインの示す具体的な活用事例を紹介します。生成AIが教育現場でどのように活用できるかをイメージしてください。

(1)子どもの指導にかかわる業務の支援

生成AIは、授業の教材作りで大いに活躍します。ガイドラインで紹介されている活用事例について解説します。

①教材および練習問題・テスト問題のたたき台

生成AIを使用して、新しい教材の草案を作成する活用方法を示しています。これにより、教員は効率的に教材の内容を整理・調整できるでしょう。加えて、練習問題やテスト問題の初期案の作成もガイドラインに示されている内容の一つです。教員が自ら内容を考えるよりも、問題のバリエーションを増やせます。

②生成AIを模擬授業相手とした授業準備

教員が授業の準備を進めるうえでは、実際にシミュレーションをおこなうことも重要です。ガイドラインは、生成AIを模擬の生徒として活用する方法も想定しています。事前に授業の流れや内容を確認し、調整できます。

(2)保護者向けの文書作成や学校行事・部活動への支援

教員の仕事は、子どもに対する授業だけではありません。保護者に向けた文書の作成や学校行事および部活動にも力を入れる必要があります。ガイドラインでも、これらの仕事に関する生成AIの活用事例をまとめています。

①保護者向けのお知らせ文書のたたき台

はじめに学校から保護者に向けた重要なお知らせ文書のたたき台作成も、ガイドラインで紹介されています。その後で内容を調整すれば、スムーズに保護者向けのお知らせを作れるでしょう。外国籍の保護者に向けた文書の翻訳も、生成AIが活用できるとしています。

②校外学習など学校行事の支援

ガイドラインは、生成AIは校外学習の行程表作成や運動会の競技種目の案出しにも活用可能としています。業務の負担も軽減され、ほかの仕事に力を入れやすくなるでしょう。

(3)学校の運営にかかわる業務の支援

生成AIは学校の運営にかかわる業務の支援にも役立つとしています。例えば、ガイドラインでは報告書や広報用資料、挨拶文や式辞などのたたき台に使用できるとしています。

また、授業時数の調整も生成AIの活用例の一つとしています。教員向けの研修資料の作成にも使えるため、よりよい授業を提供できるようにうまく活用してください。

5.ガイドラインの示す生成AIの活用が望ましくない例

生成AIは教育現場において多岐にわたる業務の支援として活用されています。一方で、適切ではない使い方も存在するため、あらかじめ教員側が把握しなければなりません。生成AIの活用が望ましくない例について、二つのポイントに分けて詳しく解説します。

(1)学習や評価に関する不適切な活用

ガイドラインでは、子どもが生成AIの性質やメリット・デメリットを十分に理解していない段階では子どもに自由に使わせるべきでないと示しています。そのなかでも、情報活用能力(情報モラルを含む)がどこまで育成されているかを重視してください。仮に情報活用能力が育成されていない場合は、生成AIの活用を控えたほうが賢明です。なぜなら、情報を精査せず、出力された内容を鵜呑みにする危険があるからです。

ほかにもガイドラインは、学習の進捗(しんちょく)や成果を正確に評価できなくなる場合、生成AIによる学習が望ましくないとしています。定期考査や小テストで使用するケースが主な例です。

筆者は、課題の提出(リポートや小論文の作成も含む)でも、生成AIは使わせないようにしたほうがよいと考えています。

(2)感性や独創性を発揮させる場面での不適切な活用

ガイドラインでは、以下の学習においても生成AIをはじめから使うのは望ましくないとしています。

  • 詩や俳句の創作
  • 音楽・美術などの表現・鑑賞
  • 作品を見た際に初発の感想を求める場面

基本的には教員が専門性を発揮し、人間的な触れ合いのなかで子どもと接するのが教育の姿です。しかし、ガイドラインは安易にAIを使わせると子どもの感性や独創性が十分に発揮されない恐れがあると懸念を示しています。

筆者は、例えばコンクールへ出す作品は応募要項を含めて教員がしっかりと指導したほうがよいと考えています。この意識が欠如していると、教育の質を低下させる可能性があるため注意が必要です。

6.文部科学省のガイドラインが示す生成AIの注意点

文部科学省のガイドラインでは、生成AIを教育現場で活用する際の注意点について詳しく紹介しています。その具体的な内容を詳しく説明します。

(1)プライバシーの保護の理解を深める

ガイドラインには注意事項として、プライバシーの保護の理解を深めるように記載されています。生成AIを使用する際、子どもの個人情報や学習データが関与する可能性があります。これらの情報を外部に漏らすことで生じるリスクを理解し、プライバシー保護への知識を深める意識が大切です。

筆者は、特に生成AIの学習データや出力結果に含まれる情報が、どのように取り扱われるのかを正確に把握しなければならないと考えています。プライバシーの保護に力を入れ、データの取り扱いには厳重に注意しましょう。

(2)教育情報のセキュリティーを厳重に管理する

生成AIの活用により、教育情報がデジタル化されつつあります。このような教育情報は、子どもの学習履歴や成績などデリケートな情報を含んでいます。

そのため、セキュリティーを厳重に管理することもガイドラインが重視している注意点の一つです。不正アクセスや情報の改ざん、漏洩などのリスクを最小限に抑えるための対策を講じましょう。

(3)著作物の取り扱い方法を正しく理解する

ガイドラインには生成AIで作成された文章やデータについて、著作権の観点からも注意点がまとめられています。生成AIで作成した文章が既存の著作物と同一または類似していた場合、授業内での利用は可能だが授業目的以外に利用すると著作権侵害になりうるとしています。

そのため、筆者は特に学習の一環として生成AIを使用して作成した著作物を公開や提出する際には注意が必要だと考えています。その著作権の所在や取り扱いについて正しく理解し、適切な方法で利用しなければなりません。

また、ガイドラインに記載はありませんが、他者の著作物を無断で生成AIに学習させると、著作権侵害となる可能性があるため十分な注意が必要です。

7.生成AIを教育に取り入れる方法

ここでは、ガイドラインの説明ではなく、生成AIと教育の関係性について筆者の視点で解説します。教育における主な活用例は次のとおりです。

  • 学習指導計画や学校行事のプランニング
  • 文書(学校便り)の下書き
  • 英会話・英文校正・翻訳
  • 名前や所属が書かれたメモを表にまとめるなどの整理
  • プログラミングのバグ発見

生成AIをうまく教育に取り入れることで、子どもによい影響を与えられます。ここでは、上記の例にはない筆者のおすすめの活用方法を3点紹介します。

(1)カウンセラーや家庭教師としての役割