経済協力開発機構(OECD)が先月、「図表でみる教育2023」という報告書を発表した。データなども含めると約470㌻にわたる膨大なもので、まだとても読み切れていない。ただ、発表に先立ってオンラインで行われたOECDのアンドレア・シュライヒャー教育・スキル局長のブリーフィングに参加したところ、興味を覚えた話題が二つあった。

日本の高校教員の給与、OECD平均下回る

一つは教員の給与に関する報告である。今回の調査で、日本の公立学校のうち高校教員の給与がOECD平均を下回った、との結果が出た。15年間の勤務経験のある教員でみると、年間に4万7349㌦(555万9千円相当)で、加盟国平均の5万3456㌦より11%余り少ない。初任給や退職時の給与で比べても、日本の教員の給与はOECD平均を下回ったという。

そして、国際的な学習到達度調査「PISA」の成績が良い国は総じて、学級の規模を大きくする一方、教員の給与は手厚くする、つまり教員の質の向上に投資するという選択をしているのだそうだ。

231015 OECDグラフ(数値入り)

質の高い教員の確保が難しくなっている日本の現状を、どうしたら改善できるのか。ブリーフィングでは当然のように、そんな質問が出た。シュライヒャー局長は「日本の教員の給与は競争力を持っていません。同じように大学を卒業して別の職業に就いた人の給与と比較して、少なくとも同じレベルになれば選択肢になります」と答え、給与引き上げがひとつの対策になり得るとの見方を示した。シンガポールなど、教員の給与を意図的に他の職業より高くする戦略を採っている国もあるという。

さらに、「金銭的な魅力があるだけでなく、同僚と協力して良い教育のプラクティス(取り組み)を見つけて共有したり、授業をともにつくったりと、教職を知的に魅力が感じられるものにしなければならない。教員たちがプロフェッショナルとして成長していく機会を提供しなければならないと思います」と付け加えた。

学級規模大きいほどPISAで良い成績

それにしても、PISAの成績が良い多くの国の特徴として、教師の給与を手厚くしているのはわかるとしても、学級の規模を大きくしているというのは意外だ。少人数学級にしたほうが子ども一人ひとりに目が行き届くであろうことは、教育の専門家でなくとも想像がつく。その結果、教育効果が高まってPISAの成績にも表れそうなものだが、調査結果はむしろその逆になった。この点について、シュライヒャー局長は「大きな学級にすることによって、その分、質の高い教員を雇うことができる状況を作っている」とした。

日本では、2021年度から段階的に、小学校の1学級あたりの児童数の上限が40人から35人に減らす施策が進められてきた。きめ細かい指導が必要な子が増えていることに対応するのが主なねらいだ。2025年度には6学年全てが35人学級になる。

少人数学級には高い教育効果があり、現状は望ましい方向に進んでいると思っていただけに、調査結果に「聞き間違いでは」と驚きを覚える。学級規模と成績の関係について、さらなる詳しい調査を待ちたい。そしてそれとともに、日本の教員の待遇改善は、世界各国との比較でみても待ったなしの状況なのだ、と嫌でも思い知らされる。

STEM分野の女性大卒、日本は最低の17.5%

興味を引いたもう一つは、高等教育における男女差の問題だ。大学のSTEM(科学、技術、工学、数学)分野の卒業生のうち、女性が占める割合を加盟国で比較すると、日本はデータがある47カ国中、最低の17.5%(OECD平均32.5%)だった。既に女性のほうが多数派になっている医療や福祉の分野に比べれば、STEMの分野は世界的にみても男性のほうが多いが、それにしても日本の低さは際立っている。

考えられる要因は何か。「子どもの人生の早期の段階で、既に答えは決まっているのです」とシュライヒャー局長は言う。「子どもがどんな職業のイメージを抱くかが大変重要になります。STEMの分野で女性が働いていることが、子どもたちの目に良いイメージとして映らなければ、そうした職業に就きたいとは思えません。重要なのは、いかに子どもたちのモチベーションを高め、大志を抱いてもらうかだと思います」

調査結果は、世界経済フォーラムが毎年発表する「ジェンダーギャップ報告書」で、日本の男女平等の達成率が、他国に比べて低迷し続けているすがたと重なる。自分のジェンダーバイアスを、子どもたちにうつしていないか。それによって、子どもたちのモチベーションをなえさせてはいないだろうか。子どもと話をする時、常に意識していたいと思う。