中高生や教職員が体験を通じてSDGsの本質を考える「SDGsキャンププロジェクト」(大阪YMCA主催・朝日新聞社後援)のうち、中高生を対象にした今年の「SDGsジュニアリーダー養成キャンプ」が8月19~22日の3泊4日、徳島県阿南市のYMCA阿南国際海洋センターを拠点に実施されました。無人島で1泊するのが特徴のキャンプに、スタッフとして同行しました。
【無料ウェビナー】学校に採り入れたい体験学習-実践例と参加者の声から-
地域ESD活動推進拠点に登録
1968年、日本で初めて海洋型キャンプ場として開設されたYMCA阿南国際海洋センターは北向きの海に面し、ヨットやカヌーなどの海と親しむマリンスポーツや磯観察など、様々な海洋プログラムを展開しています。持ち主になっている約800㍍沖合の無人島「野々島」は、センターのシンボルでもあります。最近では、地域ESD(持続可能な開発のための教育)推進活動拠点に登録されました。地域や社会の課題解決に関する学びや活動に取り組んでいる学校や団体などを支援・推進することが期待されています。
「SDGsジュニアリーダー養成キャンプ」は2021年度から年に1回実施しています。野々島を舞台に、「見いだした課題を自分事として捉え、解決するための力を養う」ため、「日頃気になっていること、やってみたいこと」を実践します。班ごとに合意形成を図りながら、プログラムや必要な備品は全て自分たちで計画し準備します。主体的な活動を通して、気づきと学びを得る取り組みです。
このキャンプの特徴は、「SDGsジュニアリーダー養成キャンプ」の参加回数によって、求められる視点や役割が違うことです。
- 1回目(1年目) ベーシックコース(環境・海の現状から考える)
- 2回目(2年目) アドバンスコース(社会・多様性・多文化共生)
- 3回目(3年目) マスターコース(経済・班リーダーとして運営側を学ぶ)
3回目となる今夏は、1回目から参加している中学3年生~高校2年生の6人が班リーダーとしてマスターコースに挑んだのをはじめ、ベーシック、アドバンスの両コースに25人の計31人が参加しました。運営スタッフ5人、サポートの大学生・留学生6人を合わせると、総勢42人となりました。
無人島での生活は「想定外」の連続
メインイベントの無人島での生活に向けて、班での話し合いは事前研修会や移動中のバス内、また現地に入ってからも続けられます。班リーダーを中心にメンバー一人ひとりの考えを丁寧に聴き、グループ名も活動テーマもプログラムも、一から考えみんなで決めていきます。活動内容が決まったら、そのためにはどんな備品が必要か、自分たちで使う水の量はどれくらいかといったことも考えます。
2日目の20日、班ごとに入念に準備した一行はカヌーを操って無人島に上陸しました。早速、磯の観察や海洋ごみ拾い、釣りざおや竹製の皿など竹を使った生活用具作り、釣りなど、班それぞれのプログラムに沿った活動に取り組みます。
1班は「火起こし」からスタートしました。火起こしキットを用いてチャレンジし、煙は発生するのですが、火はなかなかつかず、試行錯誤を続けました。一方、テーマに沿って「釣れた魚をさばき、マイクロプラスチックを確認する」ことを目指した5班は、肝心の魚が釣れなくて、計画そのものを変更することになりました。
各班はこんな具合に次々と「想定外」に見舞われてはその都度、メンバー全員で協力して目の前の課題を克服していきました。時にはメンバー間で衝突も起きますが、スタッフは介入せず、そっとその様子を見守りました。海外からの留学生も班で一緒に活動し、中高生たちと寝食をともにする中で、それぞれの国・文化の違いも学んでいきました。
宿舎に戻ってからが本番!
3日目の21日、無人島から宿舎に戻ってからがこのキャンプの学びの本番です。無人島での生活は予定通り実施できたか、自分の行動はどうだったか、一つひとつのプロセスを丁寧に振り返ります。「火」や「塩」「食材」「食器」など、日頃当たり前にあるものがいかに便利なものか、いかに自分たちの生活が恵まれているか、多くの参加者は実感した様子で、「感謝しないといけない」との声も上がりました。無人島から持ち帰った貝殻を使って水着やアクセサリーを作成する班もありました。
同日夜は、持続可能な漁業について、地元阿南市の漁師、小川道洋さんの講話を聞きました。小川さんは冒頭、参加者に問いかけました。「20匹の魚がいます。1年後、残った分と同じだけの魚が増えることとします。1年目に20匹全部捕った場合と半分だけ捕った場合では、5年後どんな違いが出るでしょうか」。魚を全て捕りきるのではなく、取れ高と生活のバランスを考えた漁が必要だとして、「この持続可能にする取り組みがモチベーションにもなっている」と説明しました。
活動報告を経てアクションプラン作成
この後は、活動報告会に向けたミーティングが行われました。無人島でどんなプログラムを実施し、どんな気づきがあったか。それぞれの活動の中で集めた写真や動画を使って報告資料を作成しました。
そして迎えた最終日、班ごとに発表する順番を決め、制作物を示しながら活動内容や気づいたことを報告し合いました。この経験を踏まえ、参加者一人ひとりが作ったのが「アクションプラン」。SDGsの達成期限である2030年を見据えたとき、自分はどんな行動をし、どうありたいのかを一人ひとりがじっくり考えて自ら記すものです。キャンプ後も、日々の生活や自身の行動に生かしていきます。
こうしたキャンプでは、運営側が準備したプログラムを体験するのが一般的ですが、このキャンプでは参加者が感じた身近な疑問や課題、やってみたいことをプログラムに落とし込みます。大阪YMCAの菅田斉さんは「マスターコースの6人は、班リーダーとして自らの経験を語りながらみんなの意見を採り入れて行動し、周りも見えていた。キャンプのテーマ『見出した課題を自分事として捉え、解決するための道筋を考える力を養う』を実践していました」と評価しました。今回の経験が参加者にどんな影響をもたらすか追跡調査しているそうです。
大阪YMCAでは、2024年のキャンプに受け入れる学校団体を募っています。本番(無人島での生活)に向けて、事前・事後学習は学校で行う2泊3日のプランなども可能です。詳しくはYMCA阿南国際海洋センターへ。問い合わせフォームはこちらからどうぞ。
班リーダーの声
1班 安杖浩太郎さん(高校1年)
様々なことに挑戦し、様々な人に出会え、3年目でも新鮮な気持ちで参加することが出来ました。班を引っ張っていくことができたと思います。3泊4日、楽しくみんなと過ごすことができて良かったです。
2班 田中志季さん(中学3年)
グループリーダーとして活動させていただいて、急に引っ張る立場になり、不安と悩みもありましたが、自然の力がグループみんなをつなげてくれて、一生忘れられない経験と思い出になりました。ありがとうございました。
3班 鄒樹音(スウ・ジュネ)さん(中学3年)
リーダーとしてチームの意見をまとめたり、指示を出したりすることに対して責任感を感じることもありましたが、この経験を通してとても成長できたと感じています。ありがとうございました。
4班 中家杖さん(高校1年)
多様性とメンバーの尊重の大切さを感じました。今回のキャンプは前回と同様に留学生や他の学年、地域から集められたグループで活動しました。そのお陰でお互いの意見を理解、尊重し、一つの目標に向かって活動する楽しさと達成案を感じることができました。
5班 伊地知和貴さん(高校2年)
今年で3年目ですが、やはり今年も新しい気づきや経験があり、とても充実した4日間だと思います。今年はリーダーとして悩むところや難しい場面も多々ありましたが、そのような点でも人として成長できたと思います。
6班 竹中あかりさん(中学3年)
班活動では、誰一人置いていかないことを大切にし、メンバーが各活動のリーダーになって全員がSDGsに取り組めるよう工夫しました。初めての試みでしたが、試行錯誤しながらも無事活動を達成できて良かったです。
主な参加者の声
木村帆菜さん(高校2年)
キャンプをしたことがない私にとって、この体験はとても新鮮でした。また年齢も違う様々な地域の方々と交流する機会をいただき、忘れられない思い出を作ることができました。貴重な経験をありがとうございました。
中村誠さん(高校1年)
初めて参加してすべて自分たちで一から計画を立てて自分たちがしてみたいことをサポートしてもらえて全力で楽しめたし、周りも初めての人からベテランの人までいるし、中1~高2までといった幅広い人たちがいて良かった。
佐伯源士郎さん(高校1年)
今回参加して、SDGsのゴールにたどり着くのは相当難しいと気づきました。無人島では、主に人工ではなく自然の物で工夫し代用しました。釣りざおなどは自然の物から作れるけれど、それだけだとやはり人工のものより不便になってしまいます。環境に良く、使い勝手がいい、このどちらも両立することはできないのです。何事も何かを得るためには何かを捨てることが必要不可欠だと思いました。
永野仁一朗さん(中学1年)
最初は無人島や日常生活でしっかりやっていけるか不安でした。でも、リーダーや色々な人たちは意外となじみやすくて、自分のやってみたかったことができました。水を自由に使えなくて不自由な無人島での1泊をして、世界に水を使えない人々がいることを実感しました。
ダオ・ミン・グエットさん(ベトナムからの留学生)
環境にやさしく考えて行動することがとても大切だと思いました。これから水や電気やガスなどを使う時、必要以上に使わず、節約して使用したいと思います。さらに、環境に悪影響を及ぼす材料(プラスチックなど)の使用を可能な限り制限し、再利用可能な物を使用し、環境への廃棄物の排出を制限したいと思います。皆さん、手を取って一緒に環境を守りましょう。