教員が開発途上国を訪れる独立行政法人国際協力機構(JICA)の「教師海外研修」がコロナ禍を経て2023年度、3年ぶりに本格再開しました。同研修のうち管理職向けの教育行政コースはひと足早く昨年12月に再開しましたが、そこに参加した一人に湘南学園(神奈川県藤沢市)学園長の住田昌治さん(65)がいます。横浜市立小学校の校長時代は元気な学校づくりに努め、この夏公開される映画「夢みる校長」には「校長室をなくした校長」として登場する名物教育者です。「管理職は、現場の先生たちに海外研修に行かせてほしい」と住田さんが訴える理由とは。

教師海外研修のすすめ ワクワクする学校づくりへの一歩【学校管理職向け】

住田さんが参加した研修は、校長ら学校管理職と教育委員会の指導主事などが対象。12月下旬にエジプトを訪れ、日本式の教育を取り入れている「エジプト日本学校」などを見て回った。学級会や係活動、日直といった日本式の学校生活の取り組みが「TOKKATSU(特活)」という名で導入され、根付きつつあるのを目の当たりにした。

住田昌治さん(湘南学園学園長)
2010年~2021年度横浜市立小学校長。2022年度から現職。日本持続発展教育(ESD)推進フォーラム理事、ユネスコスクールレビューアドバイザー、かながわユネスコスクールネットワーク会長、埼玉県所沢市ESD調査研究協議会指導者、横浜市ESD推進協議会委員、日本国際理解教育学会会員、オンライン「みらい塾」講師他。著書に「できるミドルリーダーを育てる」(2022 学陽書房)、「若手が育つ指示ゼロ学校づくり」(2022 明治図書)、「カラフルな学校づくり」(2019 学文社)など。「校長先生、幸せですか」(教育開発研究所)が近く発売される。

日本の教育を見直すきっかけに

教室に入ると、日直の子が朝の読書タイムを得意そうに取り仕切り、朝の会でもみんなが踊ったり歌ったりするのをリードしていたという。「日直というと、我々はうれしいというより当番でやらなきゃいけないものと考えるでしょう。でも現地では、どの子もリーダーになれる平等なシステム、ととらえられていた。日本ではあまりやりたがらないそうじも、身の回りがきれいになってモチベーションが上がり、結果的に子どもが生き生きする。忘れかけていたことに気づかされ、日本の教育を見直すきっかけになりました」

さらに素晴らしいと感じたのは、少数意見を切り捨てないクラスでの話し合いの進め方だった。大勢の意見に納得できない様子の子が1人だけいたが、みんながその子に寄り添い、その子も意見も採り入れながらまとめる方法を丁寧に探っていた。「まさに民主主義のあり方そのものでした」と話す。「総合的な学習の時間」に似た学習も行われていたという。

学校管理職らがエジプトを訪れたJICAの教師海外研修=2022年12月、JICA提供

こうした海外研修に現場教員が参加するメリットは何か。「その国の良さを見いだすことも当然あるでしょうが、最終的に日本の教育は捨てたもんじゃないと気づく。それから、教室や職員室の空気感の違いが本人に与える影響です。国にもよりますが、多くの場合、日本より自由でフラットな雰囲気を感じるからです。職員どうし下の名前で呼び合い、子どもとの間に規律はあるとしてもハードルは決して高くない」。その感覚を身につけると帰国後に殻が破れ、子どもと同じステージで関わるようになり、信頼関係が高まって授業も学級経営もやりやすくなることがある、というのだ。

異なる価値観と出合う

さらにもう一つ、異なる価値観との出合いが自分の価値観を広げてくれる点を挙げる。「これから多くの価値観の中で生きる子どもたちにとって、先生が職員室の狭い価値観しか知らないのは良くないでしょう。違いを受け入れざるを得ない状況を体験してこそ、いま日本にある多様性を受け入れる素地が生まれる」と話す。裏返せば、日本の学校は価値観が単一で多様性を受け入れる余地が乏しく、トップダウンの縦社会になりがちということでもある。

湘南学園学園長の住田昌治さん

「バスケットをするために教員になった」と語る住田さんは、横浜市で中学校の教員採用試験を受けて合格した。あいにくその年は中学の採用がなかったため、空きがあった小学校で教員生活のスタートを切った。1980年のことだ。ミニバスケットボールの指導を始めるとはまってしまい、中学校に行く気持ちはなくなっていったという。

経験を重ねるのに伴って授業研究への関心が高まり、今で言う「自由進度学習」のような授業を試みることもあった。2002年実施の学習指導要領で「総合的な学習の時間」が始まると、「おもしろい時間ができた」とその研究に取り組み、子どもたちと地域に繰り出す活動も進めた。教頭として異動した「総合」の研究校では、田んぼや畑を生かした活動をするうち、環境問題を意識するようになったという。

ESDから人間関係重視の学校経営へ

「米作りなどを通して、土や水のこと、それらをめぐる紛争や歴史などへと視点を広げた学習をしていました。すると『あなたがやろうとしているのはESD(持続可能な発展のための教育)というものだ』と教えてくれた方がいたのです」。入り口は環境であっても、人権や食糧、エネルギー、国際問題などさまざまな問題につながっていることが見いだせる。ESDをするならユネスコスクールという仕組みを利用したらいい、との助言も受け、その後校長に就いた学校をユネスコスクールへ導いた。

※ユネスコスクール=平和は対話と相互理解に基づき、人類の知的及び倫理的連帯の上に築かねばならない、とするユネスコ憲章の理念を学校現場で実践するため、1953年に発足した国際的な学校ネットワーク「ASPnet」への加盟が認められた学校。互いに交流し、地球規模の問題に若者が対処できるような新しい教育内容や手法の開発が進められている。文部科学省などはユネスコスクールをESDの推進拠点と位置付けている。2023年3月現在、国内では保育施設や大学を含め1,115校が活動している。

教職員どうしリラックスできるよう、ハンモックを設置した校長室。左が住田昌治さん=2021年、横浜市立日枝小学校、住田さん提供

その頃、ユネスコスクールのセミナーで出会ったのが、ユネスコ本部の専門委員としてESD推進に従事していた聖心女子大学教授の永田佳之さんだった。永田さんとの関わりを通じてESDを学ぶ中、環境教育や国際理解教育にとどまらず、価値観や人の生き方、人間関係のあり方を重視した学校経営に行き着いた。

校長を12年間務めた住田さんによると、学校での人間関係の問題は多くの場合、自分との「違い」を認められないことから起きるという。「『違う』ということは相手が間違っていると思ってしまい、相手を否定するから関係が崩れる。違いをお互いに認め合う関係性をどうつくるか。そこに力を注ぐのが校長の仕事だろうと思います」と話す。