昨年12月29日、東京・下北沢。そのイベントスペースは、若者でごった返す中心部の商店街から、路地を1本入ったところにあった。メインの通りの人波が自然に寄せてくるわけではない場所なのに訪問者が絶えないのは、高校生たちが路上で直接、イベントへの来場を呼びかけているからだった。
全国の高校生約60人が、東南アジア各国のSDGs関連商品のマーケティングを実践的に学ぶプログラムは、グローバルに活躍できる人材育成を目的にNPO法人の「very50」(東京都豊島区)が運営している。現実のさまざまな課題をどう解決するか、実体験を通じて学んでもらうことがねらいだ。この日は商品を実際に販売するイベントが開かれていた。
扱っているのは、ベトナム、カンボジア、ラオスの三つのブランドの商品。ベトナムのブランド「Tòhe(トーヘ)」は、障害のある子どもたちがアートを学んで描いた作品を生かした手作りの品をそろえる。Tシャツやポーチ、トートバッグ、財布などの図柄はどれも鮮やかで伸び伸びとしており、楽しんで描いている様子が伝わってくる。眺めていたら「よかったら説明します」「ギフトにいかがですか」と高校生が声をかけてくれた。トートバッグは一番人気だといい、話を聞いているうちに残りは1点になった。
カンボジアからは、女性の雇用創出を目指すネックレスやブレスレットなどのアクセサリー、ラオスからは伝統技術を生かした竹の編み物やオーガニックコットンのランチョンマットなどが並んだ。
10月から約3カ月にわたったプログラムは、この日の販売イベントと翌日のプレゼンテーションで大団円となる。ブランドごとに3グループに分かれた高校生は、それぞれの商品をどうやって日本に売り込むかオンラインで話し合ってきた。たとえば「トーヘ」は現地では認知度が高いが、日本ではあまり知られていない。どこから攻めたらいいか。ベトナム好きな人? アート好き? 最終的に「家族」にターゲットを絞ったという。
大阪の関西インターナショナルハイスクール2年生の田中優さん(17)も「トーヘ」を担当したひとり。アイデアと行動力には自信があり、最初は商品をリヤカーで販売しようと提案したが、「なぜリヤカー?」とスタッフに問われて説明できなかった。「自分が楽しいのと、売れるのは別なのだと納得しました」と恥ずかしそうに笑う。「学校とは全然違う人と出会い、話したことで刺激を受け、毎日が勉強でした。自分たちがやっていることは、今は特別かもしれないけれど、20年くらい後にはノーマルなことになると思う」。
中国出身で名城大付属高校(名古屋市)1年の趙淼(チョウ・ミョウ)さん(16)も同じグループで、主にポスターやチラシのデザインを担当した。何事も没頭すると満足がいくまでやりこんでしまう性分で、危うくスケジュールに間に合わなくなりそうな局面も。「70点のできでも、まず先に進めることを優先させるべき時があると学びました」と反省を口にした。他にも、消費者の意識を調べるためアンケートを取ったり、販路を開拓するため、雑貨店に飛び込んで営業をかけるメンバーもいたという。
very50が育成を目指す人物像は、「自立した優しい挑戦者」だという。ディレクターの大島輝一さんによると、「自立した」には、自分で考えられる、お金を稼ぐことができる、といった要素が含まれる。そこに「優しい」を加えたのは、貧困など社会課題に向き合ってもらいたいからだ。「『かわいそうだから』というのとはちょっと違います」と大島さん。個人の力でいかんともしがたい課題に対して、あわれむのではなく解決へ一歩でも近づく努力をしよう、という意味と理解した。
今回のイベントの情報は、very50のインターンとして高校生たちをサポートしている山崎真由さん(24)が教えてくれた。彼女が高校2年生だった8年前の夏、官民協働の留学支援制度「トビタテ!留学JAPAN」の高校1期生としてガーナに留学した経験を取材させてもらった縁がある。その後も大学2年で休学してフィリピンで教育NPOのインターンなどを務めた行動派はこの春、社会人になる。
very50が取り組んでいるような実践型の課題解決プログラムはまだ、教室と社会をつなぐ線の1本に過ぎない。今はまだ細い1本だとしても、やがて太い幹になり、同じ志を持つ幹がいくつも育っていく。若者が自らの力で、社会課題の解決に乗り出す時代が近づいている予感がする。