先生のための勉強会
11人が1年がかりで授業案開発
現在の「先生のための勉強会」の前身は、まだSDGs(国連の持続可能な開発目標)が学校に浸透していなかった2018年に正式スタートした「先生のためのSDGs勉強会」です。これまで20回以上実施してきましたが、SDGsという言葉が教科書にも掲載されるようになり、当初の役目を終えたとして、2022年3月にはSDGsという文言を外した「先生のための勉強会」にリニューアルしました。
その中身は、少人数制で、1年かけて授業案を研究・開発する「連続講座」(有料)と、連続講座の成果を報告する場を兼ね、広く参加を募る年2回の「先生のための勉強会」(無料)の二本立てです。
リニューアル初年度となった2022年度の連続講座のテーマは「気候変動」で、海外を含む各地の小、中、高校教員と保育園長の計11人が受講しました。受講者、講師の全員が対象となる全体会と、校種別のチーム会がそれぞれ毎月、オンラインで開かれ、講師のアドバイスを受けながら、持ち寄ったアイデアをもとに話し合い、授業案の開発を進めてきました。
子どもの変容調べ、効果を「見える化」
この講座の特徴の一つは、授業案を作って終わりではなく、受講者たちが授業案に基づく授業を実践したうえで、その授業によって、子どもたちの価値観や行動がどのように変容したかまで、アンケートを取るなどして追跡しているところにあります。効果を「見える化」することで、多くの先生たちに共有され、先生たちのコミュニティーが広がっていくことを目指しています。
3月27日に開く勉強会「ともに創る 深いSDGsと新たな学校文化」では、学校種ごとの授業案の概要や、子どもたちの意識や行動の変容について受講者の教員が報告します。冒頭には、ユネスコ本部の専門委員としてESD(持続可能な開発のための教育)の推進に10年以上取り組み、本講座の特別講師も務める永田佳之・聖心女子大教授が基調講演します。
連続講座で講師を務めたのは、PBL(Project Based Learnig)を実践する新渡戸文化中学・高校副校長の山藤旅聞さん(高校)、新渡戸文化小学校教諭の栢之間(かやのま)倫太郎さん(小学校)、開発教育などに携わる埼玉県立伊奈学園中学校教諭の松倉紗野香さん(中学校)の3人。ウェビナーでは、授業案の報告に合わせ、3人のプレゼンテーションも予定しています。
永田佳之・聖心女子大教授インタビュー
深いSDGsに根ざした取り組みがなぜ今、学校に求められるのでしょうか。私たちが「先生のための勉強会」に取り組む意義とは。永田佳之教授に聞きました。
先生たちはいま、気候危機の時代を生きていく子どもたちと接しています。その危機は、子どもたちではなく、主に産業革命以降の大人世代がつくってきたもの。でも大人にとっても、ここまでの危機は初めてです。先生は何でも知っている、答えをくれる、という前提が機能しない。それが地球規模課題の本質であり、予測困難な時代と言われるゆえんです。
未来世代のニーズに応えられる先生に
若者世代から学校教育への不満の声は世界各地で上がっています。昨年暮れ、エジプトでのCOP27に合わせてユネスコが若者の声を集めて出したリポートには、学校への不満がたくさん書かれています。自分たちが生きていくこれからの時代に備えさせてもらえない、持続可能な未来に向けてどう行動していいのか、教えてくれないという不満もあります。変化があまりにめまぐるしく、各国のカリキュラムも教員養成も追いつかないのが現状です。未来世代のニーズに応えられる先生になってもらいたいのです。
学校教育のSDGsは世界的に、産業界などと比べても遅れています。「ESD for 2030」という国際的な運動で強調されている取り組みに、「ホール・スクール・アプローチ」(Whole School Approach)があります。「学校まるごとSDGs」と僕は呼んでいて、教室で学ぶSDGsの価値観を足もとの学校生活で実践しようというものですが、この取り組みが遅れているのが一つめの課題です。
学校が節電していなかったり、ものを無駄遣いしていたり、食生活も課題はいっぱい。ただ、一度にすべてサステイナブルにするのは無理でも、大人がここまで努力している、ということを子どもと共有することから希望は生まれます。