まず中学1年生は、2年生とともに「ポスター」「旅」を組み合わせた「ポスタビ」というプログラムに取り組む。地域に根ざした活動を重視するSDGsだが、首都圏各地から集まる多くの中1生にとって、学校がある都内中心部はなじみの薄い場所だ。そこで1、2年生は7人ほどのチームを組んで学校かいわいの店舗や企業を訪ね、店主や従業員に働きがいや地域への思いなどをインタビューする。それをSDGsと関連づけ、ポスターという形に仕上げていく。
中学生は「地域」をフィールドに
対象の店は、教職員があらかじめ協力を取り付けた花店や精肉店、豆腐店、楽器店など幅広く、創業100年を超える老舗もある。ただ、教職員が行うのはどのチームがどの店に行くか割り振るところまで。店へのアポ取りや実際の取材は生徒に任せる。1、2年生合同のチーム編成がそんな時、リーダーシップとフォロワーシップを育むという。
SDGsのどのゴールと関係するかも、生徒自身が考える。ゴール11の「住み続けられるまちづくりを」が多くなりがちだが、そればかりではない。「甘酒屋さんなら健康に配慮している点に着目し、ゴール3の『すべての人に健康と福祉を』などおもしろいアイデアが出てきます。それぞれの店舗の取り組みがいろんなゴールにつながっていると気づくことが大事です」。SDGsプログラムを担当する川邊健司教諭は言う。
3年生では、SDGsをより強く意識した「クリエーティブプロジェクト」へと進む。こちらは3年生だけでチームを組み、SDGsに熱心に取り組む地元企業を取材して記事にまとめ、そこから解決すべき課題を見いだし、最終的に動画にまとめる。動画化まで行うのは今年度が初めてで、コンテストへの応募も計画している。不動産ディベロッパーなど3社の協力が得られたが、逆に企業側から「生徒の意見を聞きたい」と求められ、社内会議などに参加したこともある。
中学のプログラムは全体として地域をフィールドにしている。「地域に出て、知らない大人から話を聞くことは生徒に大きな刺激になる貴重な経験」と川邊さん。東京家政学院中が有利なのは、1学年の人数が30人ほどと少ないことだ。「100人規模の学校では協力企業を探すことは難しく、小さいからこそできるプログラム。SDGsは私たちと社会の未来をつなぐ『接着剤』です」
「児童労働」「ジェンダー」関心広がる
中3のS.M.さん(15)は今夏、クリエーティブプロジェクトで結婚式場を訪ね、パティシエからフードロス対策や不平等をなくす取り組みについて聞いた。使う食材は国産を基本にさまざまな農家と契約しているが、契約農家どうしつながり、ネットワークになっているという話が印象に残ったという。
今後、掘り下げてみたいテーマはファストファッション。朝読書の時間に見つけたのがファストファッションの本だった。「安くてかわいい」と気に入っていたブランドが、途上国の労働者の低賃金や児童労働と密接に関わり、今も改善されていない可能性があるらしい。「買っていいのかなと考えてしまうけど、私たちが買わないと作っている人にお金が入らない。改善策を探したい」と話す。
同じく中3のS.A.さん(15)がずっと関心を持っているテーマは、SDGsのゴール5の「ジェンダー平等を実現しよう」。とりわけ最近は、LGBTなどの性的少数者について学びたい思いが募る。世界で認めている国もある同性婚を、日本ではまだ認めていないことがどうしても納得できないからだ。「同性どうしでも結婚は本人どうしが決めればいいことだと思う。もっと詳しくなって、みんながウィンウィンになれるような方法を考えていきたいです」
高校では新たな入学者を迎え、一気に4クラスになる。フィールドは地域にとどまらなくなるが、中高のプログラムすべてに共通するのはチーム単位で行うことだ。周りの仲間といかに協力し、個性や価値観を調整していくかを大事にしているという。
異分野のエキスパートがタッグ
「総合的な探究の時間」を使い、自らの問題意識を基に考える「探究」が、高校のプログラムのメインになる。このうち高1は「エキスパート探究」と呼ばれ、衣食住のいずれかに関連する社会課題を調べて解決方法を提案する。それぞれが衣食住の何らかの専門家になることを目指す取り組みだ。
これと連動する高2の「ジグソー探究」では、高1の時のチームを解体し、異なる分野を学んだ生徒たちで新たなチームを作って探究する。協働学習の手法であるジグソー法に基づき、異なる分野のエキスパートの思考をかけ合わせる「知の結合」により、イノベーションを起こそうというわけだ。
ここ数年の事例では、「米中対立と日本」というテーマで研究したチームがある。米中両国が戦争をするとしたら、いつ、どこで、といったシミュレーションをした。「もし台湾が中国に占領されると台湾海峡の物流が滞って経済が打撃を受けるほか、東アジアの米軍の動きが中国に筒抜けになってしまうといったことなど、高校までに学ぶ機会のない地政学の視点から分析していることが斬新でした」(川邊さん)という。
こうした全プログラムの発表の場となる3月のGPAは、今年度で3年目となる。元々は学年ごとの報告で完結していたが、異なる学年のプレゼンを見ることが互いに刺激になり、相乗効果が期待できると教職員が考え、ひとつにまとめ上げたという。最優秀賞、学年ごとの優秀賞に加え、昨年度からは外部の人に審査してもらう特別賞もできた。
「全学年の足並みを3月に向けてそろえていくのは大変ですが、生徒たちの一生懸命さに助けられているところが大きいです」。川邊さんは手応えを感じている。