探究学習が今ほど注目される前から、探究的な学びを続けている学校のひとつに、東京都豊島区の私立女子校、川村高校があります。国内最大級の探究学習の祭典「クエストカップ全国大会」を目指す学習プログラムを始めて10年を超え、2022年度で11年目となりました。関心のある企業を選び、そのミッションにグループで応えようとする挑戦は学び合いを促し、さまざまな自由な発想が生まれます。将来の進路を見つける機会にもなっています。

クエストカップ全国大会は、教育と探究社(東京都千代田区)などが主催し2005年に始まった探究学習の全国的な祭典だ。今年のクエストカップ2023は2月18日~25日、各地の学校をオンラインでつないで開かれる。クエストエデュケーションと呼ばれる探究学習のプログラムに1年間取り組んだ学校の生徒がエントリーし、選ばれたグループが出場できる。今回も1チームが優秀賞に選ばれ、全国大会出場を決めた。同社によると、プログラムは全国で37都道府県の中学と高校309校の生徒約5万9千人が受講している。

「起業家」「社会課題探求」など四つある部門のうち、川村高校の1年生は全員、「企業探究」部門のプログラムに1年かけて取り組む。仕事に対して自分がどんな意識を持っているか理解したら、協賛企業の中から関心のある企業を選んで4、5人のグループを作る。研修を受けたり、事業内容に沿ったアンケートを取ったりしながら各企業への理解を深める。学校にいながらインターンを体験するイメージだ。各企業から課題(ミッション)が出されると、解決策となる企画案を出し、グループごとに一つの答えにまとめ上げていく。

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川村中学校・高校=東京都豊島区

土曜の2、3時間目を充てているが、ほとんどのグループはそれだけでは時間が足りず、放課後に話し合ったり、グループLINEでやりとりしながら進める。

ミッションの多くは抽象的で、いずれもすぐには答えが出せないものばかり。「『もう一人の自分』との出会いから、世界が始まる テレビ東京のプロジェクトを提案せよ!」(クエストカップ2022のテレビ東京)、「ここからの、あたりまえを私たちがつくる。人の『元気の源』を生み出す これまでの大正製薬を超える新商品を提案せよ!」(同2021の大正製薬)という具合だ。数社から始まった協賛企業は今回、11社を数える。

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「パナかわ」の5人

電池を製造・販売するパナソニックエナジーを選んだA組のチーム「パナかわ」は、「電池で海をきれいに」という企画を打ち出した。チームのメンバーの一人(16)によると、電池の電極のうち、電流が流れ込むアノードの材料にビニール袋が使えるとする米国の研究成果を踏まえ、海洋プラスチックの削減につなげようとする内容だ。「100年後の地球に向かって『一人ひとりのイキイキ』を解放する新プロジェクトを提案せよ!」というミッションに対し、環境破壊や地球温暖化こそが100年後の不安要素と位置づけ、解決策を考えた。

「私たちの考える『イキイキ』は、好きなことが自由にできるということ。地球温暖化で夏に部活動ができないほど気温が上昇することが今でもあるのだから、100年後はもっとできなくなっているかもしれない」と別のメンバー(16)は話す。既に海に捨てられているものだけでなく、ごみになる前に防ごうと、家電店にプラスチックごみの回収ボックスを置くアイデアも盛り込んだ。

問題は、海洋ごみをどうやって回収するか。ボランティアを募り参加費を支払って集めてもらうことを考えたが、担当コーディネーターから「参加費を払ってまで回収したいと思うでしょうか」と助言を受け、電池の割引クーポンを渡す、工場見学に招待するといった特典を付けることを考案した。家電店での回収にも、スタンプカードの利用を加えた。

チームの5人は口々に「電池って身近ではあるけれど詳しくは知らなかった。電池について深めるか、全く新しいものを開発するかで迷った」「人に何らかの行動をしてもらうためにどうしたらいいか考えて結果を出したことは、大学でも会社に就職してからも役立つと思う」などと話し、最後までやり遂げた達成感を味わっていた。

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「アベンジャーズ5」の5人

自然共生型アウトドアパークを各地で運営する「フォレストアドベンチャー」の「『意味ないこと』から待ち遠しい明日をつくる 世界が驚く一大プロジェクトを提案せよ」というミッションに対し、B組の「アベンジャーズ5」は「フォレスト休暇」という企画を出した。フォレストアドベンチャーに1回行けば、1日休みになる仕組みを制度化しようという提案だ。

夢のアイデアの源泉は、昨年9月の定期試験後すぐに授業が再開された時、フォレストパークに家族で行ったことのある一人(16)が、休日の待ち遠しさを実感したことだったという。

「『どうせ…』を遊び心で大改革する 〇〇をUPDATEする新サービスを提案せよ!」というヤフーのミッションに、ゲームアプリの開発というアイデアで応えたのは、C組の「チームおせっかい」だ。「どうせ友だちができない」問題を、ゲームの通話やチャット機能で解決することを狙った。

一方で不特定多数でプレーした時に相手を中傷する言葉が飛び交うのを避けるため、禁止用語を非表示にするなどの機能を付けることも盛り込んだ。ゲーム好きなメンバーの一人(16)は「将来IT関係の仕事に就いて、飽きさせないようなUI(ユーザーインターフェース)のゲームを作りたい」と話す。

230208 チームおせっかい
「チームおせっかい」の5人

川村高校の現在の1年生は、内部進学組と高校から新入学組がほぼ半数ずつ。互いに顔を見て話すことが欠かせないクエストエデュケーションのプログラムは、知らないどうしがうちとけ合い、関係を築くのに役立っているという。

入試広報室の石川充・副室長は「この学習をきっかけに進路について考える機会が増え、受け身でなく自分から動くことの大切さも学べる。そして知識というのは、学んだ成果をアウトプットすることを通じて初めて自分のものになる、という思いを強くしています」と話す。