学校で取り上げづらい、と先生方から指摘されることが多いテーマの一つが「LGBTQ+」です。先生方を含む私たち自身、LGBTQ+についてよく知らないために、当事者がどんな悩みを持ち、何に困っているのか想像しにくいことが背景にあるのかもしれません。だれもが気持ち良く充実した学校生活を送れるよう、先生たちが知っておくべきこととは――。「図解でわかる 14歳からのLGBTQ+」を2年前に編集・発行した社会応援ネットワークの高比良美穂・代表理事が解説します。

高比良 美穂(たかひら・みほ)
一般社団法人社会応援ネットワーク代表理事。「子ども応援便り」編集長。朝日新聞社でメディアプロデューサー、若者向け新聞「SEVEN」の編集長などを経て2002年に独立。「子ども応援便り」「がっこう応援便り」などの編集長を歴任し、11年、東日本大震災の被災地の学校からの要望で避難所にメッセージ号外を配布したことをきっかけに団体を設立。以後、全国の学校や保護者団体と連携し、「学校に今、必要なこと」に応え、心のケアや防災教育、多様性などのテーマで情報提供や出前授業などの活動を続ける。20年、コロナ禍での悩みに応えるためのサイト「こころの健康サポート部」を立ち上げる。主な著書に「図解でわかる 14歳からのストレスと心のケア」、「図解でわかる 14歳からのLGBTQ+」(太田出版)など。

「14歳からのLGBTQ+」発行の経緯

この本の編集を担当した社会応援ネットワークは、さまざまな人の「今、○○に困っている」「こんなこと出来ないかな」という声一つひとつに応えて活動している団体です。団体設立のきっかけが被災地の子どもたちの「心のケア」ボランティアだったこともあり、学校や保護者、教職員からの情報提供や相談ごとが絶えることはありません。

コロナ禍でも多くの悩みや相談が寄せられました。「部活の大会が中止になって、生徒がやる気を無くしている」「家にいる時間が長くて子どものイライラがひどい」……。同様の相談が相次いだため、「こころの健康サポート部」という専用サイトを立ち上げ、子ども向けのストレス対応の動画を配信したところ、課題を抱えた子どもや若者からの相談や質問が増えてきました。ある日、こんな投稿が目にとまりました。

「自分はトランスジェンダーだけど、中学高校時代に誰にも相談できなかった。そもそも、どこの誰に相談すればいいか分からなかった。何とか卒業できたのは、図書室の本で自分と同じような登場人物を見つけたから。今も、同じように悩んでいる子がいると思う」  

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髙比良美穂・一般社団法人社会応援ネットワーク代表理事

このテーマで、学校図書館に置きやすく、授業でも資料として使える分かりやすい本があれば、一人で悩んでいる子どもの応援になるかもしれない、と制作に取りかかりました。

教職員がLGBTQ+を知ることはなぜ大切か

今、街中でアンケートをとると、「LGBTという言葉を知っています」という人は70%を超えるまでに広まっていますが、同時に「言葉は知っているけれど自分の周りにはいません」と答える人も80%を占めています。実はこの誤った認識こそが、この問題の最大の障壁なのです。

取材の中で、当事者の生徒たちが先生から言われてつらかった言葉をあげてもらいました。最も多かったのは、こんな言葉です。

「うちのクラスにはいないと思うけど、世の中にはLGBTで困っている人がいるのです……」

「ここにいるのに」と心の中でつぶやいて、「卒業するまで誰にも言うまいと決めた」と語った生徒がいました。このように、教職員の皆さんの何げない一言で、子どもたちを傷つけてしまう可能性があるのです。

性的マイノリティーは長い間、迫害や権利の制約を受けてきました。そのため当事者が我慢して隠し続けてきた経緯があり、それは今も続いているのです。つまり、この問題は配慮する対象が見えにくく、良心や善意では解決できない段階だといえます。個別配慮の前に、現状の認識や基本的な知識を身に着けることがとても大事です。

性的マイノリティーの人の割合は

では、実際にLGBTQ+の当事者はどのくらいの割合でいるのでしょうか。
さまざまな調査結果がありますが、どの調査でも性的マイノリティーの人はおおよそ5%以上という結果がでています。この本では、LGBTQ+は8.9%、35人学級なら3人程度はいると解説しています。

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「図解でわかる 14歳からのLGBTQ+」(社会応援ネットワーク/太田出版)から作成

教職員の皆さんならイメージできると思いますが、活動家の方がよく例えに使うのが名字です。日本人に多い名字の上から8つが、佐藤、鈴木、高橋、田中、伊藤、渡辺、山本、中村ですが、そのすべてを合わせた人の数よりも多いと言われています。また、左利きの人と同じくらいとも例えられます。確率論からしても、「うちのクラスにはいない」という表現は適切ではないでしょう。

自覚が芽生える時期

性的マイノリティーが社会から見えにくい理由の一つには、心身の成長期においては当事者本人にもまだ自覚がないということがあるようです。

自覚が芽生える時期としては、小学6年生から高校1年生の間が多いと報告されています。大きなきっかけの一つが、制服選び、制服採寸の時です。採寸の際、特に戸籍上女性のトランスジェンダーが「スカートは嫌!」という反応を示して初めて、本人も家族も気づくことが多いようです。

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「図解でわかる 14歳からのLGBTQ+」(社会応援ネットワーク/太田出版)から作成

最近の傾向として、卒業式だけは自認した性で出たいということから、最終学年でスラックスに切り替える、追加発注するというケースも増えています。多様性に配慮した制服が一気に広がって、子どもたちも自己主張しやすくなったこともあるでしょう。これからの学校の環境づくりとして、制服に多様な選択肢を用意することが大切になってくると思います。

「LGBTQ+」とは?

ところで、皆さんはLGBTQ+の言葉の意味を正確に理解できているでしょうか。

性的マイノリティーの人たちを表す呼び方としてよく知られているのは「LGBT」でしょう。女性同性愛者のLesbian(レズビアン)、男性同性愛者のGay(ゲイ)、自身の性を問わず両方の性を好きになるBisexual(バイセクシュアル)の三つの性的指向と、戸籍上の性別と性自認が異なるTransgender(トランスジェンダー)の頭文字をとった言葉です。2006年、国際連合の「モントリオール宣言」ではじめて公文書に表記されるなど、性的マイノリティーの権利獲得に大きな役割を果たしてきました。

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「図解でわかる 14歳からのLGBTQ+」(社会応援ネットワーク/太田出版)から作成

一方で、「少数派の中の多数派をくくっている」「性の多様性を表現できていない」などの指摘もあり、より適切な表現を求められるようになってきています。最近では自分の性や性的指向を決めない人などを含むQuestioning(クエスチョニング)を「Q」、既存の枠組みに当てはまらないさまざまな性のかたちを「+」で表した「LGBTQ+」を使うケースが増えています。

性的多数派の呼び方を知る意味

「授業やホームル―ムで取り上げたいけど、難しい」「児童・生徒が自分ごととして捉えるか」と躊躇(ちゅうちょ)している教職員の皆さんは、性的多数派を含めた「性の多様性」を紹介することから始めるとよいでしょう。

法律上の性別と性自認が一致している人のことを「シスジェンダー」といいます。シスはラテン語で「こちら側の」を意味し、トランスの対義語です。また、性別を問わず、異性を好きになる人を「ヘテロセクシュアル」といいます。ヘテロ とは、「異なる」、「別の」という意味のギリシャ語由来の言葉で、対義語は「同じ、よく似た」を意味するホモなどです。

このように、多数派にも呼び名があることを合わせて伝えることには大きな意味があります。例えば、「私はシスジェンダーのヘテロセクシュアルなんだ」と認識することで、多数派の子どもたちも「性の多様性」を、より自分ごととして捉えられるようになるでしょう。

1月22日配信予定の後編では、「学校生活でどんなことに困るのか」「カミングアウトされた際に気をつけるべきこと」などを解説し、「個人や学校として取り組めること」を紹介します。