教職員トピック解説

文部科学省は2025年度予算の概算要求において、教職調整額を13%に引き上げる要求を、一方で財務省は対案を発表しています。混迷する政治状況もあって、政府予算決定まで決着が難航するのは必至です。担任手当を含む教員賃金の動向について、教職員の制度に詳しい日本教育事務学会理事の野川孝三さんが考えました。

野川 孝三さん(のがわ・こうぞう、日本教育事務学会理事)
公立学校の事務職員として勤務した後に、組合活動に従事し、教育予算増額や教職員定数改善にとりくむ。分担執筆に『いまさら聞けない!日本の教育制度』、共著に『事務職員の職務が「従事する」から「つかさどる」へ』がある。

給特法によって措置される教職調整額とは

<本給に相当するもの>

給特法(公立の義務教育諸学校等の教育職員の給与等に関する特別措置法)によって措置されている教職調整額は、教員には職務と勤務態様の特殊性があるとし、勤務時間の内外を包括的に評価し、教職調整額を本給に相当するものとして支給するという仕組みです。したがって、教職調整額は期末勤勉手当や退職手当、地域手当、へき地手当、年金の算出基礎にも含まれます。現在の教職調整額は月額給料の4%ですが、期末勤勉手当等への跳ね返り分も勘案した場合、6%に相当します。

なお、現在の教職調整額4%は、時間外勤務手当に換算すると6%で月8時間分の超勤に相当します。教職調整額10%にした場合は、時間外勤務手当に換算すると15%で月20時間分の超勤に相当し、13%にした場合は、時間外勤務手当に換算すると19.5%で、月26時間分の超勤に相当します。

※自治体行政職の時間外勤務手当の国からの財源は7%(月9.3時間分の超勤に相当)、警察官の時間外勤務手当の国からの財源は13%(月17.5時間分の超勤に相当)、消防士の時間外勤務手当の国からの財源は8%(月11時間分の超勤に相当)

<教員に一律的に支給するもの>

・教職調整額は、教員の職務と勤務態様の特殊性から包括的に評価するものですから、教員に一律的に支給されています。したがって、メリハリをつけるとして個々の支給に差をつけることはできないことになっています。

※ただし、一部自治体で行われている長期研修者や指導力不足認定を受け研修受講している者、長期休職者など学校で子どもの指導についていない者の教職調整額を減額支給することは可能となっています(支給をゼロにはできない)。

※文科省は、06年度の教員勤務実態調査の結果をふまえて、08年度予算概算要求において、教職調整額の一律支給をやめて、教員の職務負荷に応じて支給率に差を設けるとともに、期末・勤勉手当等への跳ね返りを廃止し支給率を4%から10%に増額する方針を示したことがあります。しかし、当時、予算編成作業の中で行われた法制的な検討の結果、教職調整額は、教員の職務と勤務態様の特殊性を全般的に評価して支給するものであり、個々の教員の職務負荷に応じて支給率に差を設けることは困難であるとの結論に至っています。

給特法を維持する中教審答申

中教審は8月27日の答申で「教職調整額を本給相当として支給するという仕組みは、現在においても合理性を有している」と給特法の維持を求めました。その理由として「教員の職務と勤務態様の特殊性」を挙げました。

具体的には、教員の業務について、自主的で自律的な判断に基づく業務と、校長等の管理職の指揮命令に基づく業務が日常的に混然一体となって行われており、これを正確に分けるのは極めて困難であること、県費負担教職員制度における給与負担者と服務監督権者が異なっていること、時間外勤務手当となっている国立学校や私立学校との相違点などに触れています。

ただし、時間外勤務手当支給となっている民間労働者や一般行政職であっても、実際には、自主的・自律的な判断に基づいて業務執行を行う場面が多々あることを指摘したいと思います。このことは、労基法において、客観的にみて使用者の黙示的な指示により労働者が業務を行っていると認められれば、労働時間に該当し時間外勤務手当が支給され得ることになっていることにも現れています。

また、給特法維持の理由として、中教審答申は、「授業準備や教材研究等の教員の業務が、どこまでが職務で、どこからが職務ではないのかを精緻(せいち)に切り分けて考えることは困難であること」をあげています。このことからすると、仮に時間外勤務手当となった場合、職務とならず自己研鑽(けんさん)とされ、時間外勤務手当の対象とならない授業準備や教材研究もあり得る可能性に留意が必要です。

また、命令により、時間外勤務が行われた以上、使用者には、勤務の対価としての時間外勤務手当を支給する義務があるとされているものの、予算の制約と上記の理由から、時間外勤務手当の未払いが起きることが危惧されます。

人確法完成時の優遇分回復ねらう

答申は、人材確保法による処遇改善後の教員給与の優遇分の水準を確保するため、教職調整額の率について少なくとも10%以上とすることを目指すべきであるとしました。文科省はこれを受け、来年度予算の概算要求では、教職調整額を現行の4%から13%に引き上げています。13%の根拠は、目減りした人材確保法による一般行政職と比した給与の優遇分について、1980年の人材確保法完成時の優遇分まで回復することがねらいのようです。

人材確保法による優遇分の回復が目的ならば、給特法を根拠とする教職調整額の増額ではなく、人材確保法によって措置された義務教育等教員特別手当について、過去、小泉政権下で行われた削減の復元と、さらなる同手当の増額ではないでしょうか。

年末の政府予算案決定で教職調整額の増額支給が認められた場合、多額に財源を要することと、政府の「骨太方針2024」で「2026 年度までの集中改革期間を通じて」としていることから、数年かけて、段階的に増額されることも考えられます。段階的な増額は、教職調整額の増額前に退職する者の退職手当額との均衡を考慮する観点からも必要となるかもしれません。なお、教職調整額の支給対象とならない管理職(校長・教頭等)については、一般教員との給与の逆転現象が起きないように本給の改善が図られることになります。

前回の給特法改正時の文科相の答弁との整合性は

前回給特法改正時の2019年、当時の萩生田光一文科相は参議院文教科学委員会で下記のように答弁しています。

「客観的に見て使用者の黙示的な指示により労働者が業務を行っていると認められれば労働時間に該当するという労働基準法の考え方と比較した場合、校長の時間外勤務命令は超過四項目以外の業務については出せない仕組みになっているため、所定の勤務時間後に採点や生徒への進路指導などを行った時間が勤務時間に該当しないという給特法の仕組みは、労働基準法の考え方とはずれがあると認識されていることも御指摘のとおりだと思います。(中略) 3年後に実施される教師の勤務実態状況調査を踏まえて、給特法などの法制的な枠組みについて根本から見直しをします。その際、現在の給特法が昭和46年の制定当初に想定されたとおりには機能していないことや、労働基準法の考え方とのずれがあるとの認識は見直しの基本となる課題であると受け止めており、これらの課題を整理できる見直しをしてまいります」参議院文教科学委員会、2019年12月3日

次回の見直しに向けた「給特法などの法制的な枠組みについて根本から見直す」「労働基準法の考え方とのズレがあるとの認識は見直しの基本となる課題である。これらの課題を整理できる見直しにしていきたい」との答弁と今回の処遇改善の結果の整合性について、文科省の説明が求められます。

財務省の対案とそれに対する文科省見解

11月11日の財政制度等審議会で、財務省は次の対案を示しました。