前回の教員免許更新制の廃止と新たな教員研修の記録の義務付けに続いて、今回は、校長が個々の教員に対して行う資質向上に関する指導助言の内容と、法改正を踏まえて文部科学省、各教育委員会で今後、どんなことが行われると考えられるかについて、国会審議などをもとに解説します。新たな研修に関する制度導入について、学校現場の現状から見た疑問と危惧される点についても考えてみます。

野川孝三(のがわ・こうぞう) 公立学校の事務職員として勤務した後に、組合活動に従事し、教育予算増額や教職員定数改善にとりくむ。分担執筆に『いまさら聞けない!日本の教育制度』、共著に『事務職員の職務が「従事する」から「つかさどる」へ』がある。

校長が個々の教員へ行う指導助言とは

指導助言の内容は

義務化される、校長による教員への指導助言の内容について、文科省は国会で次のように説明しています。
個々の教員の経験、適性に応じた資質の向上のための取り組みを促進するため、

  • 当該教員からの相談に応じること
  • 研修機会に関する情報提供を行うこと
  • 資質の向上に関する指導・助言を行うこと

また、文科省は、「教員の研修は自主性が重要であることは言うまでもないことで、教育基本法に書いてある。この法案によってかわるものではない」「教員が自ら学びを振り返り、適切な現状把握と目標設定の下で自ら必要な学びを行う、主体的で個別最適な学びが表現されると考えており、研修履歴の記録というのは教員を管理するものではない」としています。なお、文科省が今後策定するガイドラインの中で、校長による指導助言などの方法や時期を示すことになっています。

「期待される水準の研修を受けていないと認められる場合」とは

中央教育審議会(中教審)の審議のまとめにもある「教員が期待される水準の研修を受けていないと認められる場合」について、国会の中で文科省は次のことを明らかにしました。

  • 教員が期待される水準の研修を受けているとは到底認められない場合など、やむを得ない場合には、職務命令として研修を受講させる必要もあると考えている。
  • 具体的に、どのような場合に期待される水準の研修を受けているとは到底認められないと判断すべきかについては、教育委員会が適切に対応できるよう、文科省のガイドライにおいて、例えば、合理的な理由なく法定研修や教育委員会が定めた教員研修計画に基づき全教員を対象にした研修に参加しない場合、特段の支障がないにもかかわらず必要な校内研修に参加しない場合、あるいは例えばICT活用指導力など特定分野の資質の向上に強い必要性が認められるにもかかわらず、管理職などが受講を促してもなお、相当の期間にわたり、合理的理由なく研修を受講しない場合などを例示することを考えている。

今後の予定

今後、研修記録と指導助言に関して、文科省と教育委員会において次のことが予定されています。それぞれ、国会質疑で説明された内容などが盛り込まれるものと想定されます。

文科省が行うこと

  1. 大臣告示である「校長及び教員としての資質の向上に関する指標の策定に関する指針」を今夏に改定

    指針には、次のようなことが盛り込まれると想定されます。
    ・教員の資質、能力の柱として、学習指導、生徒指導などに加え、特別な配慮・支援が必要な子供への対応、ICTやデータの利活用などを明記
    ・資質の向上に関する指導助言などの基本的な考え方、研修受講に課題がある教員への対応、研修の厳選・重点化を含む効果的・効率的な実施などを新たに規定
    ・研修の内容、態様に応じた成果の確認方法の明確化
    ・教員とは別に、都道府県・政令指定市教育委員会が策定する、校長に特化した育成指標の必要性
    など。

  2. 上記の指針を踏まえたガイドラインの策定

    ガイドラインでは、次のような内容を示すことが想定されます。
    ・研修などに関する記録の内容や範囲、校長による指導助言などの方法や時期
    ・教員が期待される水準の研修を受けているとは到底認められない場合として、想定されるケース
    など。

都道府県・政令指定市教育委員会が行うこと

任命権者の都道府県・政令指定市教育委員会は、文科省が改定する上記の「校長及び教員としての資質の向上に関する指標の策定に関する指針」を参酌して、校長・教員の資質の向上に関する指標を改定(校長用は新設)することになります。この指標を踏まえて、都道府県・政令指定市教育委員会及び中核市教育委員会は研修計画を策定します。

新たな研修のイメージ

学校現場からの疑問と危惧される点

教員免許更新制の廃止は学校現場から大いに賛同されますが、新たに導入される一人ひとりの教員研修の記録作成と校長による指導助言の義務付けについては、学校現場の現状を見たとき、いくつかの疑問と危惧される点があります。