学校の教科書はどうやって作られているのでしょう。地域や年代などによって使用する教科書が違うのはなぜか、改訂のタイミングやその過程、さらには各学校で使用する教科書がどのようにして決められているのか、解説します。
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明星大学名誉教授。専門は、教育行政、教育政策、学校経営、比較教育。1976 年に文部省(現文部科学省)入省、大臣官房審議官、スポーツ・青少年局長、放送大学学園理事などを歴任し、2009~2022年度に同大学教授。独立行政法人教職員支援機構評議員、放送大学評価委員会委員、自治大学校研修講師、教職員の働き方改革推進プロジェクト代表なども務める。著書に「教育の制度と経営」(明星大学出版部)、「頻出 教育法規キーワード90」(教育開発研究所)、「いまさら聞けない! 日本の教育制度」(武久出版)、「支援スタッフで学校は変わるのか」(アドバンテージサーバー)、「教育の最新事情」(明星大学出版部)など。
教科書が作られるまでの手順は?
教科書とは、「教育課程の構成に応じて組織排列された教科の主たる教材として、教授の用に供せられる児童又は生徒用図書であつて、文部科学大臣の検定を経たもの又は文部科学省が著作の名義を有するもの」(教科書発行臨時措置法第二条)です。基本的に4年に1度改訂される機会があり、さらに学習指導要領が改訂されると教科書も改訂されます。
教科書が児童・生徒に支給されるまでの手順として、まず教科書発行会社によって学習指導要領の内容に従った「著作・編集」が行われます。次に編集された教科書を文部科学省が受理し、「検定」を行います。検定に合格した教科書は、各地の学校や教育委員会に「採択」を求める案内とともに届けられます。
教科書の検定はどのように行われるか?
文部科学省内の常勤職員である「教科書調査官」(*1)が教科ごとに検定を行います。検定では、「誤記や誤植がないか」「学習指導要領の内容及び内容の取扱いが不足なく取り上げられているか」「公正中立で妥当な内容であるか」「子どもの発達段階に応じた教育的配慮が施されているか」などを基準に審査します。
その結果を受けて、大学教授や小中高校の教員などで組織される「教科用図書検定調査審議会」(*2)で調査審議の上、検定の可否を答申し、文部科学大臣が合否を決定するという流れになっています。
大多数の教科書は一度で合格するか、もしくは修正指示を受けた箇所を修正して合格します。近年では稀ですが、不合格の場合は、修正を行った後、再申請をすることもできます。
最新の学説はどのように反映されるか?
教科書に盛り込む内容は、大学教授や現役の教員を交えて意見交換がなされ、著作・編集する教科書発行会社が決定します。最新の学説を反映することはとても大事なことです。しかし、社会人文科学的事象についての学説、特に歴史や公民などにおける記述は、客観的、中立妥当なものになっているかという点で多く議論されています。
2014年1月、特定の見解を強調した記述を避けるため、教科書の検定基準が改正されました。その改正ポイントもとりわけ社会科に係るところが多くなっています。特筆すべきは、学説が定まっていない場合、政府の見解や最高裁判所の判例を併記するなど、多様な意見をバランスよく盛り込まなければならないと定められたことです。
教科書の採択はどのように行われるか?
公立学校の場合、教科書採択の権限は、その学校を所管する教育委員会にあります。つまり、小中学校であれば市区町村の教育委員会、高等学校などの都道府県立の学校であれば各都道府県の教育委員会がその権限を有します。そして、単独の教育委員会で採択する地区を「単独採択地区」、複数の教育委員会が共同で採択する地区を「共同採択地区」と呼びます。
採択地区は、2022年6月現在、全国に581地区あり、1県平均12地区となっています。
一方で、私立学校や国立学校の場合は、学校長に採択権が委ねられています。
現行の採択制度の問題点は?
2011年に沖縄県の共同採択地区において問題が生じました。共同採択地区全体の意見と採択地区内の一つの教育委員会の意見が分かれてしまったのです。これは、教科書無償措置法で、「採択地区で種目ごとに一種の教科書を採択すること」と規定される一方で、地方教育行政法では教育委員会の職務権限の一つに「教科書その他の教材の取扱いに関する事務の管理、執行」と規定するなど、整合性のある法整備がなされていなかったことが原因です。
これを受け、教科書無償措置法が2014年に改正されました。採択地区において、協議によって規約を定め、「採択地区協議会」を設け協議の結果に基づき採択するというものです。ここでの決定事項を市区町村教育委員会は順守しなければなりません。加えて、採択地区の設定条件も改正され、柔軟な採択地区の決定が可能となりました。
学校単位では採択はできない?
前述の通り、教科書採択権は教育委員会にあります。しかし、教科書は誰が使用するのかということを考えなくてはいけません。教科書は学校と教員、子どもが使用するものです。現場から離れたところで教科書採択が行われることは、そもそも適切であるかという議論もあります。
1996年、政府の行政改革委員会では、将来的には教科書の学校採択を促すような意見が出されています。近年、採択地区の小規模化が進んでいますが、最終的には現場が望む、現場の声が反映される学校採択が行われるべきだと思います。
(*1)教科書調査官
文部科学省の常勤職員として置かれ、大学の教職の経歴等をもつ専門家。発行者から申請
された教科用図書について教科用図書検定調査審議会の調査審議のために必要な調査を行
う。
(*2)教科用図書検定調査審議会
文部科学省に置かれる教科用図書の検定の審査に関する諮問機関。検定申請された図書が
教科用図書として適切であるかどうかについて専門的・学術的な審議に当たる。
この記事は「いまさら聞けない! 日本の教育制度」(社会応援ネットワーク著/武久出版)の内容を加筆修正して作成しました。