中学部活動の地域移行についてオンライン勉強会で話をしてほしい、と地域政党「市民ネットワーク千葉県」から声をかけていただいた。今に至った経過や、各地でどんなふうに進めようとしているのか具体例を知りたいとのこと。中学校関係者にとって、地域移行は最近、耳にしない日はないほどの話題だが、関わりが少ない人には突然降ってわいたように思えるのだろう。各自治体で民間スポーツクラブなどと連携する動きが出てきていることも影響していそうだ。
勉強会は6月1日に開いた。前半は大づかみで国レベルの動きを伝えようと、少子化や教員の働き方改革など地域移行が必要とされた背景や、2023年度からの3年間を改革推進期間として、可能な限り早期の地域連携・地域移行を目指すとしたスポーツ庁、文化庁の「学校部活動及び地域クラブ活動の在り方等に関する総合的なガイドライン」などについて説明した。後半には、総合型地域スポーツクラブと連携するなど、学校ごとに地域の事情に合わせた手法で部活動改革を進める茨城県つくば市の事例を紹介した。
費用負担の問題に質問が集中
勉強会の中でいただいた質問や意見で、特に多かったのは地域移行した時の費用に関するものだった。お伝えした事例でははいずれも、受益者である生徒の家庭が費用を負担していたこともあり、「これまで通り無料でできないのでしょうか」「費用を支払えない家庭の子どもが参加できなくなるのでは」と心配する声が相次いだ。
つくば市の場合、学校によって連携先は総合型クラブ、大学、企業など異なる。活動頻度や回数、支払いの方法も「年間30回で月1250円」「週2回で月3850円」などばらばらだが、活動1回あたりの金額を計算するとおおむね500円前後だ。2023年度から実践校を増やしたところ、費用についての家庭から問い合わせも出始めていると聞く。
地域移行を一部でも始めている他の地域の家庭の負担額は、どうなっているのだろう。気になって調べてみた。
埼玉家白岡市では、土、日曜の部活動の地域移行をスタートしている市立中2校で今年9月以降、家庭に費用負担してもらうことを検討している。金額は1回の単価を250円として、月3回で750円と見込んでいる。
ただ、これだけでは指導料など連携先の民間スポーツクラブに支払う金額はまかなえず、国や県からの補助のほか、市の予算も充てる予定だ。全額を受益者負担とするとしたら、いくらくらいになるのか。「単純計算で4千~5千円くらいかかりそうです」と担当者は言う。
講師謝礼や事務局機能、無償のクラブも
2026年度をもって学校部活動を廃止し、公認地域クラブに完全移行する静岡県掛川市。すでに14の公認地域クラブが学校の部活動と並行して中学生たちを受け入れている。中学生は部活動と地域クラブのどちらに入ってもいい。部活動はスポーツ系、地域クラブは文化系などと両方に入っている生徒もいるという。
会費(負担額)はやはり地域クラブによって異なり、週2回活動して月2千円のところがあれば、同じように週2回でも月7千円ほどかかるところもある。金額の違いの理由は、指導者への謝金のほか、会費管理や入会手続き、会場予約、大会申し込み手続きといった事務局機能を有償とするか無償で行うかにあるようだ。家庭としては、少しでも安いほうが助かるとしても、ボランティア頼みで指導や運営を続けられるのかは心配になる。
同市では現在、地域クラブの会費費担について家庭への支援はしていない。どのくらいの費用がかかるかわからないと、支援すべき金額ははじき出せないし、公認でない一般のスポーツクラブもある中で公認クラブだけ有利になる施策は取りにくいという事情もある。それでも、市教育政策課の担当者は、地域への完全移行を見据え、「子どもたちだれもがスポーツや文化活動を楽しめる形を考えたい」と話す。
中学校の学習指導要領の総則には、部活動は「生徒の自主的、自発的な参加により行われる」とあり、参加するかしないかは生徒の自由である。それでも、経済的な理由で就学が困難と認められる子どもたちの保護者に対して必要な援助をする「就学援助制度」の補助対象品目には、「クラブ活動費」が明記されている。
文部科学省就学支援・教材課によると、これには小学校の特別活動であるクラブ活動だけでなく、中学校の部活動も含まれているという。「野球のグローブといった道具類など個人で購入するものが想定されています」と担当者は言う。では、部活動の担い手が学校から地域に移ったとき、そのための費用は補助対象になるのだろうか。「そこはまさに今年度、地域移行に向けた実証事業の中で検討することになっています。現時点でまだ答えはありません」。実証事業とはスポーツ庁と文化庁が11億円をかけ、運営団体の整備、指導者の確保などを自治体に委託して行っているものだ。
地域クラブ活動への参加費用について、「可能な限り低廉な会費を設定」「自治体は困窮家庭の生徒の支援を進める」と先に紹介したガイドラインはうたっている。費用負担のあり方が今後、さらにクローズアップされることは間違いない。各家庭にどれくらいの負担を求め、地域による差はどのくらいまで許容されるのか。困窮世帯への援助はどうあるべきか。指導者の確保とともに、国民的な議論へと広がりそうな予感がする。