1.部活動の地域移行とは
2.部活動の地域移行のメリット
3.部活動の地域移行のデメリット(課題点)
4.部活動の地域移行において求められていること
5.部活動の地域移行に関する補助金
6.部活動の地域移行の事例
7.部活動の地域移行は足並みをそろえてから実行を
1.部活動の地域移行とは
部活動の地域移行とは、これまで学校教員が担ってきた部活動の指導を、地域団体や関係事業に担ってもらうことで地域の活動に位置づけることを指します。こうした取り組みを国は「地域部活動」と呼んでいます。
地域移行が求められる背景には、児童生徒のニーズの多様化、生徒数減少に伴う部活動メニューの縮小、教員数の減少と勤務負担増などが指摘されています(参照:「部活=学校」である必要はない!?地域が主体となって子供たちのニーズに応える 「総合型地域スポーツクラブ」視察レポート丨スポーツ庁Web広報マガジンDEPORTARE)。
そこで、2022年12月に、スポーツ庁と文化庁の両庁名で「学校部活動及び新たな地域クラブ活動の在り方等に関する総合的なガイドライン」が策定されました。地域移行はすでにモデル校で試行的に取り組まれていますが、公立中学校の休日の部活動については、2023年度から2025年度までの3年間を改革推進期間として地域移行に段階的に取り組み、可能な限り早期に実現することを目指すものとされたのです。私学や高校については実情に応じて取り組むこととなります。
そもそも部活動における地域連携は、1996年の中教審答申が「学校のスリム化」の観点から、「地域社会にゆだねることが適切かつ可能なものはゆだねていくことも必要」だと述べたところに起因します(参照:21世紀を展望した我が国の教育の在り方について/第4章 学校・家庭・地域社会の連携丨中央教育審議会)。この答申以後、学校の働き方改革の視点から、教員の業務負担の軽減策の一つとして地域移行が現実味を帯びてきたのです。
2019年の中教審答申では、部活動の指導を「学校の業務だが,必ずしも教師が担う必要のない業務」に位置付け、「将来的には,部活動を学校単位から地域単位の取組にし,学校以外が担うことも積極的に進めるべき」だという考え方が示されました(参照:新しい時代の教育に向けた持続可能な学校指導・運営体制の構築のための学校における働き方改革に関する総合的な方策について〈答申〉p.33丨中央教育審議会)。その後、上述した「ガイドライン」が策定されたわけです。
地域移行の形態には、次のようなタイプがあります。
- 教育委員会が関係団体と連携して運営するタイプ
- 市区町村が任意団体を設置・運営するタイプ
- 総合型地域スポーツクラブ運営型や体育・スポーツ協会運営型、または民間スポーツ事業者に移行するタイプなど
文化部活動では、地域団体などが中心になり、受け皿となる「地域文化倶楽部」を創設する形態もあります。
2.部活動の地域移行のメリット
地域移行をめぐっては賛否両論ありますが、そこにはメリットとデメリットがあるからです。メリットには次のようなものがあります。
- 児童生徒の選択肢が広がる
- 専門的な指導が受けられやすくなる
- 教員業務のスリム化が期待できる
(1)児童生徒の選択肢が広がる
学校の小規模化に伴い、部活動のメニューが限定されつつある現在、関係する団体や指導的人材の協力を得て地域部活動として実施されれば、その活動メニューが広がります。また、既存の団体に限らず、団体を設立して新たな種目を提供できる可能性も生まれます。
それによって、児童生徒が希望する活動種目に参加しやすくなるでしょう。
(2)専門的な指導が受けられやすくなる
担当する部活動に関して「指導可能な知識や技術を備えている」と回答した教員は48.9%と半数を下回ります(参照:教員勤務実態調査〈令和4年度〉の集計〈速報値〉について p.35丨文部科学省)。教員の資質・能力にかかわらず、担当を求められるケースが少なくないのが実情です。
しかし、地域移行によって、地域クラブに属する専門的指導者や公募による地域の専門家の指導を受けられる可能性が広がります。
(3)教員業務のスリム化が期待できる
文部科学省によれば、教員の約8割が部活動の顧問を担当していますが、担当している部活動の約8割が週4日以上活動(勤務)しています(参照:同上 p.35)。
中学校の活動日数の割合が最も高い週5日の場合、平日の1日あたりの在校等時間は11時間11分です(参照:同上 p.28)。通常の勤務時間は7時間45分ですから、超過勤務時間は3時間26分になります。これに加えて土日の活動も担当していることからわかるように、部活顧問教員の勤務負担は非常に重たいものとなっています。
地域移行が進めば、部活動に要する勤務時間を減らし、勤務負担を軽減することにつながります。
3.部活動の地域移行のデメリット(課題点)
一方、地域移行についてはさまざまなデメリットが指摘されています。主に次の3点です。
- 指導者や受け皿の確保が容易ではない
- 児童生徒の安全上の不安がある
- 保護者の経済的負担が求められる
(1)指導者や受け皿の確保が容易ではない
地域移行で最もネックになるのが、適切な指導者の確保と受け皿になる団体などがどれだけ確保できるかということです。これらの確保には地域差が著しく、特に人口の少ない非都市部ではそれらの確保が困難だと考えられます。
また、たとえ受け皿があっても学校から遠い場合、通いに伴う身体的・時間的負担が発生し、気軽に参加しにくくなるでしょう。
(2)児童生徒の安全上の不安がある
学校とは異なる場で教員以外の指導者が担当している際に、体罰がふるわれたり、事故が起きたりする可能性もあります。これまでにも、勝利至上主義に陥った外部指導者が体罰をふるった事案が表面化しています。安全に関わる配慮がより強く求められます。
(3)保護者の経済的負担が求められる
部活動費は教材費等の実費負担のみでしたが、地域クラブなどの団体に移行されれば、通常、月額数千円の参加費を徴収されることになります。遠方のクラブへの移行の場合には公共交通機関の運賃負担も必要です。多くの保護者は地域移行化によって部活動が無料から有料化されたと捉えるでしょう。
このデメリットを解消するために、政府や地方自治体は部活動に代わる活動をする団体に補助金を支給しています。後ほど詳しく説明します。
4.部活動の地域移行において求められていること
以上のような課題があるなかで、地域移行が実現するには、具体的にどのようなことが求められるのでしょうか。
(1)コーディネーターとして社会教育主事や社会教育士の活用を図る
地域移行をだれがどう手がけるかが最も重要な点になります。指導者や受け皿を確保し、これらを学校につなげるキーマンの存在が鍵となるでしょう。
現実的な方策としては、地域のスポーツや文化活動に係る専門的職員である、教育委員会の社会教育主事(社会教育士)や公民館の主事などの人材をコーディネーターとして活用することが挙げられます。あるいは彼らに指導的人材や受け皿となる団体などに関する情報を求めるのも有効でしょう。
(2)「ガイドライン」の理解と遵守
部活動には事故や体罰、さらに担当教員の負担などの懸念事項などが伴う場合があることから、特に教育委員会にはより具体的なガイドラインの作成が求められます。
また、移行先となる運営団体や指導者にガイドラインの理解と遵守を図るために、教育委員会は地域部活動関係者に対する研修と活動評価の実施が不可欠になります。
(3)教員の兼職兼業
部活動の地域移行は教員の負担を軽減するメリットがありますが、部活動を児童生徒の人間形成の場として捉え、引き続き携わりたいという教員もいます。
文部科学省では、そうした事情を加味し、任命権者(教員の場合は都道府県教育委員会)の許可を得れば「営利企業等従事」として扱う、つまり地域移行後の部活動に代わる活動の担当者に副業として従事できるとしています。なお、その場合、時間外労働と休日労働の合計時間が月単位で100時間未満となるように定められています。
ただ、担当教員の異動によって指導者の不在期間が生じるなど、その教員が担当していた活動が不安定にならないような配慮が求められるでしょう。
5.部活動の地域移行に関する補助金
部活動の地域移行に関しては、その推進のために、部活動に代わる活動を提供する民間団体などに、指導者や施設の利用などにかかった費用に対する補助金を支給しています。
スポーツ庁は、2023年度予算案として「地域スポーツクラブ活動体制整備事業等」に81億7,718万円(前年度4億3,742万円)を計上しました。前年度比約18.7倍という伸び率です。この事業は、2023年度以降の休日運動部活動の段階的な地域移行と地域スポーツ環境の一体的な整備に向けて、地方自治体に補助金を交付するものです。
地方レベルでは、例えば、岐阜県では、高校の休日などの部活動に代わる活動を行う総合型地域スポーツクラブなどの民間団体に対して補助金を支出しています。2022年度は、事業費として3,000万円を予算化し、団体に対して9/10以内を補助金対象経費にしています。補助対象は、指導者の謝金・旅費・保険料、施設の使用料、消耗品費などです。
また、スポーツ庁・文化庁は、部活動の地域移行に伴い、経済的に困窮している家庭の中学生に部活参加支援金を定額支給することとしました。このほか、後述する掛川市では、児童生徒のクラブ参加の月額が4,000~7,000円(活動日数によって異なる)とされますが、同市教育委員会は就学援助の対象範囲を拡大するなどの支援を行うこととしています。
6.部活動の地域移行の事例
地域移行の例として、学校部活動を廃止する予定の静岡県掛川市と小規模自治体の富山県黒部市の取り組みをご紹介します。
(1)静岡県掛川市-学校部活動を廃止する-
静岡県掛川市は、2021年度から地域移行に向けた体制整備を進め、2023年1月の総合教育会議で部活動を廃止し、最終的に学校と切り離すこととしました。そして、2026年度までに部活動を「習い事」の一つとして捉えて、「かけがわ地域クラブ」に移行する方針を示したところです。
「かけがわ地域クラブ」は、市スポーツ協会や市文化財団に対する業務委託によって運営され、その他の地域団体が運営する各クラブには市が支援することとされています。そして、これら団体に関係する各クラブがその専門性に基づく活動種目を実施し、児童生徒の参加を得ることになります。
本市の施策は、学校部活動を無くし、その受け皿である「地域クラブ」関連の各クラブに移行することによって、児童生徒のスポーツや文化活動などの環境を整えるという最先端の事例になります。
(2)富山県黒部市-「KUROBE型地域部活動」をスタート-
富山県黒部市は、2021年度に「KUROBE型地域部活動」をスタートさせ、全2中学校の30部活動のうちの10部を休日の「地域部活動」に転換しました。当初はこの10部のうち7部が地域に移行、うち3部活動が中学校の合同実施という形でしたが、2023年度以後にはすべての運動部活動の休日を地域に移行することを目標にしています。
これらの部活動については、地域競技団体が運営し、学校施設や市内外体育施設を会場に指導者を派遣しています。備品・用具は学校部活動で使用しているものを活用することとされます。保護者負担は保険料年間800円と参加費年間5,500円(3年生は年間1,500円)となります。
なお、顧問教員は、休日の部活動には原則として参加しないこととされています。
7.部活動の地域移行は足並みをそろえてから実行を
現在、都道府県のほかに、市区町村単位に取り組みが行われつつあるものの、掛川市のように学校部活動廃止する自治体の教員が他市に異動した場合、再び学校部活動を担う可能性があります。また、休日の兼職兼業が認められた教員の異動についても同様のことが指摘できます。
部活動の環境の変化は、いうまでもなく生徒にも影響を及ぼすことになります。
地域移行は地域の実情に応じて進められるべきですが、一度の人事異動によって環境が大きく変わらないように、少なくとも教員の人事異動圏内にある学校間では、ある程度の足並みをそろえる必要があるでしょう。