アントレプレナーシップ教育は、大学だけでなく、小・中・高校の学校現場でも取り入れられてきています。アントレプレナーシップ教育とは、一体どのような力を身に付ける教育なのでしょうか。アントレプレナーシップ教育導入の背景と実践事例を教育学研究者が解説します。
目次
1. アントレプレナーシップ教育とは
アントレプレナーシップとは、起業家(アントレプレナー:entrepreneur)としての性質や技量(シップ:ship)を意味した合成語です。具体的には、どんな時代でも、冒険心を持ち、挑戦し続けながら、自分らしく生きていける力のことです。
「チャレンジ精神をもって、自分らしく生きていける力」は、変化の激しい現代において、決して起業家だけに必要な技量ではなく、すべての子どもたちに必要な力といえます。
他者から与えられた受け身の知識や技能の獲得ではなく、自ら課題を見つけて挑戦し続けられるように、主体的に知識や能力を学び取る力。それらを用いて新たな価値を創り出していける精神の育成を目指すのが、「アントレプレナーシップ教育」です。
こちらでは、自分らしく生きていける力を身に付けられるようなアントレプレナーシップ教育について、詳しく解説していきます。
(1)アントレプレナーとイノベーション
20世紀前半に活躍したオーストリアの経済学者であるヨーゼフ・アロイス・シュンペーター氏は、「イノベーション」という概念を生み出した存在として知られています。
シュンペーター氏は、経済成長のきっかけになるイノベーションを引き起こすには、アントレプレナー(起業家)としての精神を育み、その力を発揮することが重要であると考えました。
またシュンペーターは、アントレプレナーとは「既存の活動を効率的に行う管理者ではなく、創造的な破壊力を実行できる人」だと捉えています(参照:『アントレプレナーシップの原理と展開』p.17~37「第1章アントレプレナーシップと経済活動」)。
(2) アントレプレナーシップ教育が目指すもの
文部科学省は、アントレプレナーシップ教育を「自ら社会課題を見つけ、課題解決に向かってチャレンジしたり、他者との協働により解決策を探求したりすることができる知識・能力・態度を身に付ける教育」と説明しています(引用:全国アントレプレナーシップ人材育成プログラム|文部科学省)。
アントレプレナーシップ教育は、起業家を育成するためだけのビジネス教育とは異なります。さまざまな社会変化に対して、自ら枠を超えて行動を起こし、新たな価値を生み出していく精神の育成を目指す教育のことです。
既成概念や従来までの枠組みにとらわれず、社会や時代の変化を感じ取り、自ら課題を見つけて、自由に行動を起こす力を身に付ける。こうしたアントレプレナーシップ教育が、いままさに必要とされています。
(3) なぜ今必要とされているのか
日本政府は、未来社会のコンセプトとして「Society 5.0」を提唱しています。Society 5.0とは、狩猟社会(Society 1.0)、農耕社会(Society 2.0)、工業社会(Society 3.0)、情報社会(Society 4.0)に続く社会を意味します。Society 5.0では、「サイバー空間と現実空間との融合」により、経済の発展や社会課題の解決が実現されるとしています。
そんなSociety 5.0時代を切り拓いていくためには、イノベーションや新たなる価値の創造ができる人材の育成が必要です。異分野をつなげる力と、新たな物事にチャレンジするアントレプレナーシップを身に付けることが、欠かせない時代といえるでしょう。
今後、変化する社会の中で生き抜くためには、自ら課題を見つけ出し、主体的に学び、課題解決に向かって、自分らしく行動できる力を身に付けることが必要です。
2. アントレプレナーシップ教育で身につけたい能力
これからの時代を生き抜いていくためには、高い志を持ち、自立した人間として、他者と協働しながら、新しい価値を創造する力の育成が求められています。アントレプレナーシップ教育で身に付けたい具体的な能力は、起業家精神と起業家的資質・能力です。