2022年度から高校で「総合的な学習の時間」に代わって必修となった「総合的な探究の時間」のねらいは、生徒自身が課題を発見し、解決していく力を育成することにあります。探究学習を実りあるものにしていくポイントは、どのようなことでしょうか。「未来の先生フォーラム2024」のリアルプログラムで9月15日に講演する立命館宇治中学校・高等学校教諭で、同校キャリア教育部長の酒井淳平さんに聞きました。
2008年度に同部の立ち上げを推進。18年度には日本版コア科目「総合的な探究の時間」の研究開発学校、19~21年度にはWWL(ワールド・ワイド・ラーニング)カリキュラムの開発拠点校の指定をそれぞれ文部科学省から受け、探究×キャリア教育を大切にした「総合的な探究の時間」のカリキュラム開発に挑戦。著書に「探究的な学びデザイン 高等学校 総合的な探究の時間から教科横断まで」「高等学校新学習指導要領数学の授業づくり」など。
生徒が見つけたテーマに楽しく伴走する
これまでの生徒で、私の専門である数学を探究テーマに選んできた子はほとんどいませんでした。しかし、「専門外のことはわからないから教えることができない」とは思わずに、「それ、どういうこと?」「なるほどね」と、自分も学ぶことを心がけています。必ずしも自分だけで考えるのではなく、他の先生やその方面に明るい知人に相談することもあります。
生徒が楽しんで学びを深めるには、教師も一緒に学ぶ姿勢で取り組むといいのではないでしょうか。私自身は、「教えなければならない」という感覚から自由になり、時には上手く学習が進まないことも含めて、「楽しく生徒に伴走する」ことを大切にしています。
探究学習を進めるのにあたり、キャリアをつなげることは目的にはしない方がいいでしょう。好きなこととキャリアがストレートに結びつく方がレアケースです。私たち大人も、キャリアについては悩みますよね。高校生が自分のテーマを見つけるのは基本的には難しいものです。
しかし、進路を考える時に、自分に向き合うことは避けて通れません。そこで、探究学習以外の授業や学校行事の様々な活動も合わせて考えることが重要です。教科の魅力に気づいたり、行事を通して自分の役割や得意なことを見つけたりすることもあります。
高校生活全体を通して自分を見つめた結果、好きなことに出会えることもある、というくらいの心構えでもいいのではないかと思います。
一人の生徒が少し世界を広げることの価値
ただ、教科の授業や学校行事、従来の進路指導などと比較しても、探究学習に取り組むと好きなことが見つかる確率が圧倒的に上がると感じます。私たち教員ができることは、その確率を少しでも上げることではないでしょうか。
京都北部の地域課題に出会い、それを自分のテーマにしてから、自分から積極的に学校外の人ともつながってどんどん活動を進めた生徒がいました。好きなことが見つかった生徒がガラッと変わっていく様子を、他にも何人も見て、これだと思うものを見つけた時の力はすごいと痛感してきました。探究学習は、生徒が自分自身の内面を見つめ、内発的動機付けを高める機会になるものだと思います。
ただし、探究の成果を披露する様々なコンテストで賞を取るなど、メディアで取り上げられるような成果を上げる生徒は一部のケースであり、全員にそのような高いレベルを求めるのはハードだと思います。他の人と成果を比べるのではなく、一人の生徒があるテーマを探究したことで少し世界を広げることができた、ということに価値を見出すといいと思います。
探究学習への取り組み方は人それぞれです。私は、教員のかかわり方も、多様性があってよく、無理をしすぎないことが大切だと考えています。
教員も、やりたいことを形にする
探究学習では、willとmustとcanの重なるところを見つけましょう。私たち教員はそれぞれ自分の教科が好きで、さらに生徒の成長を見守りたいなどの思い(will)があって教員になっている人が多いと思います。しかし、日々のやらなければならないこと(must)に追われ、最初の思いはどうしても忘れてしまいがちです。
探究学習をきっかけに、教員はもう一度、当初の思いを呼び起こし、やりたかったことを形にしていけたらいい。それは、教科の魅力が伝わるような授業を創造し、生徒にとってより良い学びができるよう工夫するといったことにつながるはずです。
その中で、無理をしないでできること(can)を探すのも大切だと思います。頼れる人を見つけて力を借りることも一つの方法です。そこで、教員同士のつながり作りについても当日お話ししたいと思っています。