愛知県一宮市教育委員会は今年度から、すべての小中学校61校で「男女混合名簿」を導入した。「男女共同参画」推進の一策として、県内では大半の学校が「混合名簿」を導入しており、県からは「一宮市さん、なかなか進まないですね」とも言われてきた。4月から同市の児童・生徒の名簿は性別に関係なく、50音順に並べられている。
県内の大半で導入されていた混合名簿。市教委によると、2022年度までに混合名簿を導入したのは小学校42校のうち、2校。23年度も新たに導入したのは小学校4校だけで、残り36校と中学校全19校は男女別のままだった。
市教委には年度当初、各校から名簿が提出される。児童・生徒の傷病やいじめ問題などの緊急時に対応するため、市教委としても名簿を把握する必要があるからだ。
その名簿を24年度から、男女混合で作ってもらった。市教委は「意識改革のきっかけになる」とみる。
■混合への動き、全国では35年以上前から
なぜ導入が進まなかったのか。市教委によると、これまでも男子先行と女子先行を入れ替えながら運用する学校もあったというが、男女別でも問題なくやってこられたという意識から、混合名簿の導入まで至らなかった面もあるようだ。
学校教育課の木村安代・指導担当課長は、混合名簿だった小学校の校長を3年間経験し、入学式や卒業式で性別に関係なく子どもたちが整列する姿を見てきた。「当時、何も困ることはなかった」と話す。教育現場では今、「ジェンダー平等」を目標のひとつに掲げるSDGs(持続可能な開発目標)も浸透しつつある。
学校の名簿を男女別・男子優先から、男女混合へと改める動きは、35年以上前にさかのぼる。堺市が1989年6月、全市で出席簿を50音順にすると決めたことが「全国初」と報じられた。
愛知県教委によると、名古屋市を除く県内では23年度の時点で小学校701校のうち約88%の615校が、中学校301校のうち約76%の228校が、男女混合名簿になっている。名古屋市内の小中学校も同年度までに全校で導入を終えたという。
一宮市は昨年、男女共同参画を進める一環で、小学4~6年生と中学生を対象に「モヤッとする言葉」を募った。寄せられた139の言葉からは、性別で分けられたり、性別を理由とした言動にふれたりして、小中学生が違和感を抱く姿が浮かぶ。
体育祭となると団長が男子、副団長が女子。「団長やりたかったのに」。着替えの時、男子は廊下、女子は教室。「男子にも羞恥(しゅうち)心はある。教室にして」。男女別の整列で間違ってならんだ女子。「お前、男なの?」と言われた。
テレビや映画を見ていたら「女子なんだから家事は全部できて普通だ」「女のくせに生意気だな」というセリフが。歯科医院で治療後にもらえる歯ブラシ、青色が欲しかった女子は「はい、ピンクね~」と渡され、「何も言えなかった」。野球の試合でヒットを放つ女子に相手監督が「女の子なのによく打つね」。「一生懸命練習していれば、男女関係なく力を発揮できるのでは?」
市は、大人にも考えてもらおうと、139の言動などをホームページで公開している。
=朝日新聞デジタル2024年04月18日掲載