寺子屋朝日for Teachersでは5月15日から、「ともに考える 私たちの学校プロジェクト」を始めます。東京学芸大や企業などの「未来の学校みんなで創(つく)ろう。PROJECT」がまとめた学校改革の提言を基に、公募に応じた全国の先生たちが現場の課題やありたい姿をオンラインで話し合い、より豊かな「提言ver.2」をつくっていくものです。議論に合わせて9月まで、プロジェクトに関わる方々にリレー形式でコラムを執筆してもらうことにしました。初回は、「未来の学校みんなで創ろう。PROJECT」リーダーの東京学芸大教授、金子嘉宏さんです。
東京学芸大学教育インキュベーションセンター長、教授。専門分野は社会心理学、教育支援協働学。一般社団法人東京学芸大Explayground推進機構事務局長、一般社団法人STEAM Japan理事、一般社団法人教育支援人材認証協会理事、NPO法人東京学芸大こども未来研究所理事、日本教育支援協働学会理事を兼任。こども、教育関連の企業に勤めながら、「遊びと学び」についての産学共同研究を数多く実施している。
先生、好きに、挑んでますか?
「先生が輝く学校だと思う」
「未来の学校みんなで創ろう。PROJECT」※1を開始した頃、「未来の学校ってどんなところだといいですかね」という問いに対して一人の中学校の先生がつぶやいた言葉である。この言葉が私の頭にこびりついて、折に触れ思考の中を浮上してくる。
子ども達一人一人の成長を心から願い、試行錯誤していたはずだったのに、あたかも万能薬であるかのように新しい教育方法が次から次へと指示され、いつの間にか指示されたことを実現するために悪戦苦闘することになっている。もちろん、「勝手にどうぞ」でうまくいく訳もないが、現場から遠く離れたところで考えられたソリューションを押し付けたってうまくいく訳がない。そして、受けた指示をこなしているだけでは先生は輝かない。先生に輝いてもらおうと思ったら、指示を出して先生方の思いを消していくのではなく、先生の自己決定の度合いを高めていくことが必要なのではないだろうか。先生は教育現場のプロフェッショナルである。そのプロフェッショナルが思う存分、自分の「好き」に挑んでいく、そんな学校が悪い学校になるとは思えない。
学ぶの面白いですか?
「科学っておもしれー」
「科学とは何か?」というタイトルで、乾電池が発明されていく過程を、実験しながら追体験していくという授業を見ていた時、授業の最後に一人の男の子が思わず口走った言葉である。常日頃、学校教育が人材育成に傾斜しすぎているのではとモヤモヤを抱えていた私はこの言葉を聞いて小躍りするほどうれしかった。
学びとは「おもしれー」に突き動かされて、夢中になってしまうことなのじゃないか。そんな学びが「○○力をつけるためのトレーニング」に次々と置き換えられていく。そして、学校の先生が人材育成をする講師になっていく。それで本当にみんな幸せなのだろうか。先生は元々「おもしれー」の権化だったのじゃないか。歴史が大好きだったから、歴史の先生になって歴史の面白さを教えたい。一人一人の先生の「好き」に向かうパッションが子ども達に伝播(でんぱ)していく、そんなことが学校では起きていたのではないか。
ここで再びこの問いが現れる。「先生、好きに、挑んでますか?」
先生の持っている学ぶことに向かうパッションのリミッターを外して、「好き」を思い切り伝播させていく、そんな学校が悪い学校になるとは思えない。
「ともに考える 私たちの学校プロジェクト」のスタートに向けて
2023年の8月に「未来の学校みんなで創ろう。PROJECTからの提言書」というものを公開させてもらった。公開しただけではなかなか読んでもらえないので、強制的に提言書を読んでもらい、それについて語るという100人輪読会という企画を始めた。その折、寺子屋朝日for Teachersさんから、現場の先生方を集めて提言Ver.2をつくりたいというとてもうれしいお話を頂いた。是非是非だ。現場から遠く離れた誰かからの指示で自分の学校を変えていくのではなく、現場の先生から提言を発していく、その活動を通じて一人一人の先生がオートノミーを取り戻していく。その一助になれるのなら大変うれしい。
「未来の学校みんなで創ろう。PROJECT」の英語訳は「Creating the School of the Future Together! PROJECT」ではなく、「Crafting the School of the Future Together! PROJECT」とした。何かを破壊して0から全く新しいものを「創造」するのではなく、一人一人がこれまでの先達の蓄積の上にたち、「手作り」感覚で学校を創っていけたらとの思いからである。「ともに考える 私たちの学校プロジェクト」が学校をクラフトしていくきっかけとなるよう、私も対話に参加していきたい。
※1 未来の学校みんなで創ろう。PROJECT:東京学芸大学附属竹早学校区を中心に推進されている、現場の教員、大学の研究者、企業、行政の人材が協働する学校改革プロジェクト。