現在、教員不足に悩む学校現場ではペーパーティーチャーの活用に期待が寄せられています。この記事では、ペーパーティーチャーの活用が推進される背景やメリット、課題について教育工学の専門家が解説します。
目次
1.ぺーパーティーチャーとは
ペーパーティーチャーとは、教員免許を取得後、教員として勤務した経験がない人、もしくは一度教員として勤務したものの現在は教職を離れた人のことを指します。経験がない期間に関する明確な定義はありません。しかし、文部科学省が教員免許更新制導入に関する議論のなかで更新期間を10年間としていたことから、10年以上教職から離れている人を指すという見方もあります。
近年、ペーパーティーチャーを学校現場に呼び込もうとする動きが見られます。
2.ペーパーティーチャーの活用が推進されている背景
ペーパーティーチャーを教育現場に呼び込む動きが活発になった背景はいくつかあります。そのうちの一つが深刻な教員不足、そしてもう一つが2022年7月に決定した教員免許更新制の廃止です。
ここでは、ペーパーティーチャーの活用が推進される背景について詳しく解説します。
(1) 教員不足問題
ペーパーティーチャーの活用が推進されている一番の理由は、教員不足の深刻化です。
2022年1月、文部科学省は「『教員不足』に関する実態調査」の結果を公表しました。この調査では、学校種ごとの教員不足の概要・小学校の学級担任の代替状況・教員不足の要因などが明らかになっています。
調査結果は以下のとおりです。
【教員不足の実態】
- 2021年4月の段階で、全国の小学校・中学校・高等学校・特別支援学校のうち1897校で2558人の教員が不足している
- 不足している学校数の割合は全体の5.8%にあたる
- 小学校で学級担任を代替している役割は、「主幹教諭・指導教諭・教務主任」による代替が最も多い
- 「校長・副校長・教頭」による代替も1割程度見られる
【教員不足の要因】
- 産休・育休取得者や病休者の増加により必要となる臨時的任用教員が見込みより増加した
- もともと臨時的任用教員として勤務していた人の正規採用が進んだことで、講師名簿の登録者が減少し、臨時的任用教員のなり手自体が不足している
こういった教員不足の厳しい現状に対応するため、全国に約400万人いるとされるペーパーティーチャーに注目が集まりました。
(2)免許更新制の廃止
教員免許更新制の廃止もペーパーティーチャーの活用を後押しする要因となりました。この制度のために、教員免許状を失効したペーパーティーチャーの数が多かったためです。
教員免許更新制は、定期的に最新の知識技能を身に付けることを目的として2021年4月1日に導入されました。制度の概要は以下のとおりです。
- 教員免許状の有効期間を10年間とすること
- 有効期間を更新するためには、2年間で30時間以上の講習を受けること
(参照:教員免許更新制の概要|文部科学省)
なお、免許状には次の2種類があります。
しかし、教員免許更新制は2022年7月1日に廃止されています。旧免許状には有効期限がありません。一方で新免許状には10年間の有効期限があります。有効期限を過ぎて失効した新免許状は各都道府県の教育委員会での手続きにより、有効期間のない免許状に更新できるようになりました。更新には無料の場合と手数料がかかる場合があります。
「『教員不足』に関する実態調査」では、免許がすでに失効していたり、手続きの負担を理由に未更新であったりすることから、半数以上の自治体で講師名簿登録者や退職教員を採用できていないことがわかりました。教員免許更新制が廃止されたことで採用可能な人材が増え、ぺーパーティーチャーの活用に拍車がかかったのです。
3. ぺーパーティーチャーを活用するメリット
ペーパーティーチャーの活用には、教育現場が抱える課題への改善策が期待されています。ここでは、具体的なメリットについて解説します。
(1)教員不足の解消
ペーパーティーチャー活用の一番のメリットは、教員不足の解消です。
前述のとおり、文部科学省の「『教員不足』に関する実態調査」では、全体の5.8%の学校で教員不足が生じていることが明らかになりました。また、大学教員が2022年4月〜5月におこなった別の調査では、どの学校種においても調査対象である教職員6〜7割が、2021年度の1年間に教員不足が起きていたと回答しています(参照:教員不足の実態調査について 〈概要、途中経過〉p.2|末冨芳〈日本大学教授〉)。
こうした状況のなか、1人でも多くのペーパーティーチャーが教員として働くことは、不足している学級担任などの確保、ひいては教員不足の解消につながると考えられます。
(2)管理職などの負担軽減
ぺーパーティーチャーの採用により教員不足が解消されることは、教員のなかでも特に管理職などの負担軽減につながります。
例えば小学校で教員不足が生じた際、学級担任の代替は「主幹教諭・指導教諭・教務主任」が担うことがもっとも多く、「校長・副校長・教頭」による代替も1割程度見られました。学校や教員を指導・管理する立場である管理職が担任の業務をおこなうことで、本来の業務に支障をきたす恐れがあります。
また、管理職は講師を探すために講師名簿とは別に独自で電話をかけることがあります。講師が見つからないときには、1日に何十件と電話をかけることもありました。ぺーパーティーチャーが採用されればこういった業務の手間がなくなり、管理職は本来の業務に集中できるようになります。
4.ぺーパーティーチャーを呼び込むなかで見えてきた課題
教員不足の解決に大きな期待が寄せられるペーパーティーチャーですが、活用における懸念点や課題も浮き彫りになってきています。ここではそれらの懸念点や課題について詳しく解説します。
(1) 変化が激しい教育現場への対応
一つ目の課題は、変化の激しい教育現場への対応です。ここ数年で教育現場は大きく変わってきています。
【教育現場の変化の例】
- 小学校におけるプログラミング教育、外国語教育の実施
- 特別な配慮や支援を要する児童への対応
- ICTや情報・教育データの利活用
- 不登校・ヤングケアラー・貧困など、子どもたちを取り巻くさまざまな問題の発生
これらの変化に対応するため、教員に求められる資質・能力はより高度化かつ多様化しています。多くのペーパーティーチャーが教職課程で学んだのは、10年以上前になります。変化の激しい教育現場に対応するための知識や技術を学べていません。
なかには、教員経験が浅い、もしくはない人もいます。ペーパーティーチャーが現在の教育現場で必要な知識や技術をいかにして身に付けていくかが、今後の課題です。
(2)継続して勤務できる労働環境の確保
ペーパーティーチャーが教員として働き続けられる環境を整えることも課題の一つです。