ルーブリックは、小・中・高の学校教育だけではなく、大学や企業の人材育成の場でも注目されています。ルーブリックとは、一体どのようなものなのでしょうか。教育学研究者が、ルーブリックとは何か、メリット・デメリットを解説したうえで、作成方法を具体例を交えてわかりやすく説明します。

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1.ルーブリックとは

ルーブリックとは、学習目標の達成度合いを判断するために、評価の観点と評価の尺度を一覧表に可視化した評価方法の一つです。具体的には、①目標の達成度をどのような観点で評価するのか、➁目標達成に向けてどのレベルにまで達することを求めているのか、評価の「観点」と「尺度」をマトリクス表で示した絶対評価の判断規準となるツールであり、評価方法のことです。

小・中・高校でルーブリックを用いる際には、学習指導要領に対応した学習評価の観点を示したうえで、評価の尺度を設定し、具体的な評価規準を作成していきます。事前に教員と生徒がルーブリックを共有することが重要であり、両者が質の高い教育活動を目指しながら、指導と評価を一体化させます。

とくに、プレゼンテーションやレポートなどの評価に、ルーブリックが有効です。妥当性と信頼性のある評価をおこないながら、学習者の学びの意欲を引き出し、質の高い教育活動につなげていくことができます。

(1)ルーブリックの概要

ルーブリックは、小・中・高校だけではなく、大学や企業の人材育成の場でも採り入れられるようになってきました。グループディスカッション、プレゼンテーション、レポート課題などに対する妥当性と信頼性のある評価が目指されるなかで、ルーブリックの必要性は高まりつつあります。

活動の目標を明確にして、どのレベルにまで達することを求めるのか、評価規準を明確に共有することで、誰が見ても納得のいく公正な評価を目指しています。また、ルーブリックを自己評価に用いるのも有効です。他者からの評価と自己評価を比べながら、質の高い教育成果を生み出すことができます。

(2)ルーブリックが注目されるようになった背景

アメリカで開発されたルーブリックは、1990年代に絶対評価の規準表としてアメリカ各州の初等中等教育で導入が広まり、2007年にはアメリカの大学協会(AAC&U)が学部教育における有効な評価方法としてルーブリックのモデルを示し、この頃からルーブリックの研究が数多く蓄積されてきました。(参照:VALUE ルーブリックはどのように作成されましたか?|Association of American Colleges & Universities

日本においても、文部科学省は2000年の教育課程審議会答申「児童生徒の学習と教育課程の実施状況の評価の在り方について」や2001年の指導要録通知以降、「集団に準拠した評価(いわゆる相対評価)」から「目標に準拠した評価(いわゆる絶対評価)」へと評価の方針を改め、絶対評価の規準の検討を進めてきました(参照:小学校児童指導要録、中学校生徒指導要録、高等学校生徒指導要録、中等教育学校生徒指導要録並びに盲学校、聾(ろう)学校及び養護学校の小学部児童指導要録、中学部生徒指導要録及び高等部生徒指導要録の改善等について〈通知〉|文部科学省)。そのようななかで、ルーブリックは、絶対評価の規準を可視化できる評価方法として注目されるようになったのです。

とくに、新学習指導要領(2017~2019年改訂版)では、「主体的・対話的で深い学び」の視点に立った授業改善が目指されています(参照:主体的・対話的で深い学びの視点からの授業改善|文部科学省)。生徒のアクティブ・ラーニングをどのように適切に評価していくのか、学習評価の三つの観点である「知識・技能」「思考・判断・表現」「主体的に学習に取り組む態度」をどのような尺度で評価していくのか、評価方法のブラッシュアップが求められています。

2.ルーブリックのメリット

ルーブリックは、評価する側と評価される側の両者にメリットがあります。この記事では、ルーブリックのメリットを3点紹介します。

(1)評価規準が明確になり公正な評価につながる

メリットの1点目は、評価規準が明確になり、公正な評価につながる点です。評価の規準を明確に一覧表で示すため、評価者が異なっても、同じ観点で分析し、同じ尺度で評価ができ、評価の妥当性と信頼性を高めることができます。

同じ教科を担当する教員同士や、同じ学年を担当する教員同士で、評価規準を話し合い、共同で作成したルーブリックを活用することで、クラスごとの評価のばらつきを抑えた評価が可能になるでしょう。

学校組織全体でルーブリックを検討しながら評価の目合わせをすることが、指導の足並みをそろえて「指導と評価の一体化」を高めることにもつながるため、校内研修で取り上げるテーマにも適しています。

評価規準が明確になり、公正な評価につながることは、評価する側だけではなく、結果的に評価される側にもメリットをもたらします。

(2)足りない部分や優れているところに気づける

メリットの2点目は、足りない部分を補い、優れているところに気づける点です。プレゼンテーションやレポート課題などに対して、ルーブリックを活用すれば、教員はあいまいなフィードバックをするのではなく、規準に即した適切な評価を伝えることができます。生徒自身も、ルーブリックを見ながら、自分の到達度を観点ごとに認識し、学習改善につなげられます。

ルーブリックは、授業を実施する前に、あらかじめ評価の観点と評価の尺度を一覧表にまとめて、教員と生徒で目指すべき学習の姿勢を共有しておくことが重要です。評価規準は、学習指導要領で示された各教科の目標に準拠するように設定することを基本としますが、評価規準の具体的な文言については、教員間で検討を重ねたり、教員と生徒で話し合いをしたりして、学校現場に適した規準になるよう改善していくことも必要です。

(3)生徒の学習意欲の向上が期待できる

メリットの3点目は、生徒の学習意欲の向上が期待できる点です。ルーブリックを用いることで、生徒は目指すべき目標に向けたステップを理解することができます。大切なのは、生徒がルーブリックの一覧表を見ながら自分の現状を把握し、ステップアップをしようと、学ぶ意欲を引き出せるかです。

そのため、評価規準を示す文章は、単に否定的な言葉を用いるよりも、何が不足していると評価されないのかを明確にし、足りない部分をどのように補ったらよいのか、目標達成に向けて改善を促し、やる気を引き出せるような記述にすることが肝心です。

3.ルーブリックのデメリット

初めてルーブリックを作成する際には、評価規準の作成に時間を要することが一般的です。おおよそ10年に一度改訂される「学習指導要領」に基づきながら、各教科・各単元の目標を理解し、どのようなステップでその目標に近づいていくのか、定期的にルーブリックを見直していく必要があります。

ルーブリックの作成は簡単ではなく、これがデメリットとも捉えられますが、ルーブリックの作成に費やす時間は、教員にとって授業改善につながる貴重な機会です。指導と評価の一体化を目指しながら、教員にとっても、生徒にとっても、一つひとつの教育活動が意義ある取り組みになるように計画を立てることが重要です。

4.ルーブリックの作成方法

ルーブリックを作成する際には、「評価の観点」「評価の尺度」「評価の規準に関する文章」を決めて、表の中に書き込んでいきます。まずは、基本となるフォーマットを示したうえで、ルーブリックの作成の手順を三つ示します。

(1)評価の観点を決める

評価の観点は、ルーブリックの一番左の列に記入します。

新学習指導要領では、「知識・技能」「思考・判断・表現」「主体的に取り組む態度」の三つの観点で、指導と評価を一体化させることが求められています。そこで、ルーブリックの一番左の列に記入する評価の観点には、「知識・技能」「思考・判断・表現」「主体的に取り組む態度」の三つを明記しましょう。

学習指導要領にある各教科・単元の目標に照らし合わせながら評価の具体的な観点を検討し、細分化した小項目がある場合は、その右列に項目を記入していきます。

(2)評価の尺度を決める

評価の尺度は、ルーブリックの最上段に記入します。

評価の尺度は、3段階から5段階で設定するのが一般的です。この尺度は、学習の達成度の度合いを示すものであり、目標達成に向けたステップになるよう定めますが、ステップの段階が多ければ多いほどステップの違いを明確に判断することが難しくなります。

評価の尺度の例を示すと、「よくできる」「できる」「もう少し頑張ろう」のほか、「上級」「中級」「初級」という3段階や「極めて優秀」「優秀」「発展途上」「萌芽の段階」という4段階の書き方があります。評価を計量化したいときは、これらの尺度に3点、2点、1点などと点数表記を加えるとよいでしょう。

(3)評価規準を示す文章を記入する

教員と生徒が、同じ教育目標に向かって、学びの質を高めていけるよう目標達成までのステップを具体的な文書で表に記述していきます。文章を記入する一例を三つのステップに沿って説明します。

①最高レベルの評価規準を示す文章を記述する

まずは、最高レベルの評価規準が伝わるように、目指すべき姿を文章で記述していきます。この欄に示す文章が、達成すべき目標に最も近い評価規準になります。目指すべき姿がわかるように、評価規準を文章で表現しましょう。

例えば、プレゼンテーションに対する最高レベルの評価規準には、「発表の構成が導入・展開・結論にまとまりがあり、丁寧でわかりやすい説明がなされていた。また十分な声量で、話す速度も適切であった」と目指すべき姿を記入します。

②最低レベルの評価規準を示す文章を記述する

次に、最低レベルの評価規準がわかるように、足りない部分が明確にできるように文章を記述します。足りない部分の何を改善すれば、よい評価になるのかがわかるようにします。

例えば、プレゼンテーションに対する最低レベルの評価規準には、「発表の構成が導入・展開・結論という構成になっておらず、まとまりのない発表であった。また話し方が不明瞭であり、話すスピードが速すぎたり遅すぎたりと適切ではなく、声量も小さい(もしくは大きい)という問題を抱えていた」というように、問題点と改善要望がわかるように記入しましょう。

③中間レベルの評価規準を示す文章を記述する

最後に、最高レベルと最低レベルの間の評価規準を文章で記述します。評価の尺度の段階にあわせて、中間レベルのステップを示せるようにしましょう。

例えば、プレゼンテーションに対する中間レベルの評価規準には、「発表の構成にまとまりはあったが、導入・展開・結論の構成の一部に問題があった。また発表を聞き取ることはできたものの、話し方が単調であり、適切なスピードではなかった」とさらに上位を目指せるような課題点を明確に示します。

上記の方法は一例ですが、ルーブリックの基本フォーマットを繰り返し使用しながら生徒自身にも評価の観点を理解してもらい、プレゼンテーションやレポートなどの質的改善へとつなげていきます。

5.ルーブリックを導入している教育現場の例

ルーブリックを導入している学校の事例を一つ紹介します。

福島県立ふたば未来学園中学校・高校では、2015年の高校開校時より、全教員で協議を重ねてルーブリックを検討し、育成すべき資質・能力を共有して活用していることが報告されています。同校が2021年度より活用しているルーブリックは、下記のとおりです。

出典:人材育成要件・ルーブリックの改訂について(6 April 2021 Ver.)|福島県立ふたば未来学園中学校・高等学校

このルーブリックは、評価の尺度がレベル1からレベル5まで5段階で表記されており、詳細な規準を示しています。学校全体で育成すべき人材の要件について話し合い、全教員でルーブリックの作成に着手している点が特徴です。

6.ルーブリックで指導と評価の一体化を実現できる

学習指導要領(2017~2019年改訂版)では、主体的・対話的で深い学びのなかで、指導と評価を一体化させることが求められています。指導と評価の一体化を実現するためには、授業づくりのときから指導と評価の観点を一致させた計画を立てる必要があり、その際、ルーブリックを活用することで、指導と評価の規準が一覧表で可視化することができます(参照:指導と評価の一体化とは?実現のための手順やポイントについて解説丨寺子屋朝日 for Teachers)。

ルーブリックは、事前に教員と生徒が評価規準を共有し、お互いの信頼関係を築きながら、教育活動の本質を高めていくことが重要です。ルーブリックを活用して、「主体的・対話的で深い学び」の目標達成度を高めていけるような評価を目指しましょう。