病院の院内学級で学ぶ子ども、不登校の子ども、さらに日本語指導が必要な外国籍の子どものいずれもが直面する学習の停滞や遅れに対応し、その子たちの学習支援に役立つ算数・数学動画コンテンツ作りをしている人がいます。小学校教員時代、ブタを飼育した実践が「ブタがいた教室」の名で映画化された京都教育大学教授の黒田恭史さんです。どんな思いで取り組んでいるのでしょうか。10月18日には黒田さんを講師に迎え、無料オンライン勉強会を開きます。

黒田 恭史さん(くろだ・やすふみ、京都教育大学教育学部数学科教授)
小学校教員時代に行った豚を飼う実践が2008年に「ブタがいた教室」として映画化。16年より学生らとともに不登校の子どもや外国人の子どものための多言語に対応した算数・数学動画コンテンツ制作を開始し、専用ホームページで無償公開している。著書に「本当は大切だけど,誰も教えてくれない算数授業50のこと」「動画でわかる算数の教え方」(いずれも明治図書)などがある。

学校からこぼれ落ちていく不登校の子どもたち

2022年度の不登校の小学生は10万5113人で前年度比約29ポイント上昇、中学生は19万3936人で前年度比約19ポイント上昇と、両方を合わせると約30万人に達する勢いで、ここ数年急増する傾向が続いています。さらにこのデータに、病気、経済的な理由、コロナ禍、その他を加えた長期欠席児童生徒数では、小学生は19万6676人、中学生は26万3972人で、両方を合わせると約46万人と、中規模な市の人口になります(文部科学省調査)。

この人数を在籍児童生徒数と比較すると、小学生は32人に1人、中学生は12人に1人が学校を休んでいる計算になります。学校を休む子どもの理由は多様であり、家族も含めて非常に辛い時間を過ごすことが少なくありませんが、その解決は容易ではありません。

不登校や外国籍の子たちへの学習支援とは 「ブタがいた教室」の先生と考える

その一方で、学校を休むことで、もう一つの問題が生じてきます。それは、学習が停滞する、あるいは学力が低下するという問題です。とりわけ、算数・数学は積み上げ型の教科ですので、いったんつまずくと、なかなか挽回することが難しいと言えます。気力を振り絞って学校に行ってみたけれど、授業は全く分からず、自分だけが取り残された気持ちになって、さらに学校に行きにくくなってしまうといった場合も少なくありません。

外国人の子どもの学びに立ちはだかる壁

23年度の日本語指導が必要な外国籍の児童生徒数は5万7718人、日本国籍の児童生徒数は1万1405人で、こちらも両方を合わせると約6万9千人となります(文部科学省調査)。来日した子どもたちにとって学習時の最大の壁は、日本語です。英語ではAからZまでの30種類足らずのアルファベットを記憶するのに対して、日本語では約50種類のひらがなに加えて、2千字を超える常用漢字を筆順も含めて記憶し、音読みと訓読みを選んで適切に使用することは並大抵のことではありません。

加えて、算数・数学の内容は、国によって取り上げる学年が異なりますので、母国と同じ学年に入ったとしても、難度が跳ね上がることがあります。つまり、言葉の壁と内容の壁が同時に立ちはだかってくるわけです。

動画コンテンツ制作のきっかけ

16年度に受け持ったゼミの学生の一人が、京都市内の病院の院内学級のボランティアをしており、その子どもたちの算数・数学学習支援を卒業論文で取り組みたいと言ってきました。重病や大怪我をしている子どもたちが学習するためには、大きく三つのハードルがありました。一つ目は……