ロシアによるクライナ侵攻とその長期化、元首相への銃撃事件と、だれもがショックを受けるような出来事が相次いでいます。こんな時こそ、子どもたちに自分の気持ちを表現してもらい、それを大人が理解してあげる大切さを訴えるのは、昭和大学大学院准教授で同大学病院の院内学級を担当する副島賢和さんです。感情には「願い」が潜んでいる、と説く副島さんの「#Message for Teachers」に耳を傾けます。

副島賢和(そえじま・まさかず)
1966年福岡県生まれ。昭和大学大学院保健医療学研究科准教授、昭和大学病院内学級担当。大学卒業後25年間、教員として都内公立小学校に勤務。99年、在職のまま東京学芸大学大学院で心理学を学ぶ。2006年から品川区立清水台小学校さいかち学級(昭和大学病院内)担任、14年4月より現職。09年、ドラマ「赤鼻のセンセイ」(日本テレビ)のモデルとなる。11年、「プロフェッショナル仕事の流儀『涙も笑いも、力になる』」(NHK総合)に出演。著作に「あかはなそえじ先生の ひとりじゃないよ――ぼくが院内学級の教師として学んだこと」(教育ジャーナル選書)、「あのね、ほんとうはね――言葉の向こうの子どもの気持ち」(へるす出版)などがある。

副島賢和さん
昭和大学大学院准教授の副島賢和さん=2021年10月、東京都品川区

ネガティブ感情にフタをされて

未曽有の出来事が続いている中、子どもたちがどういう心の状態でいるのかを想像してみませんか。まず、こういう状況のときは、テレビのニュースを怖がっている子どもたちがいます。何が怖いのかと言うと、ニュースを見て不安な表情を浮かべている大人たちの姿そのものです。本来は、自分に大きな安心感を与えてくれるはずの大人が怖がっている――。それはいわば、足元の地面が崩れていくような不安でしょう。

子どもたちは元々、「頑張らないといけない」「我慢しないといけない」と思うものです。素直に「怖い」という気持ちを表現してくれればよいのですが、たいていの場合はいつもと変わらない様子でいます。特に学校では、マスクや手洗いはもちろんのこと、黙食も当たり前のようにやりとげる子どもたちがほとんどでしょう。その心のバランスを取るために、家では甘えん坊になったり、わがままになったりしますが、親のほうにそれを受け止める余裕がない場合は、子どもたちの心は傷つき、ゆがんでしまうことがあります。

院内学級
昭和大学病院の院内学級の様子=2021年10月、東京都品川区

子どもは、さまざまな形で自分の気持ちや考えを表現してくれますが、まだまだ自分の心の中を表現する語彙(ごい)や能力は身に付いていません。私が特に子どもの頃から身に付けてほしいと思うのは「感情」の言葉です。それは本来学校をはじめ社会のさまざまな場面において、人と触れ合う中で学んでいくものですが、残念ながらそれを大人から教えてもらう機会はほとんどありません。自身の感情に気づかないようにしている大人ほど、子どものネガティブな感情に対してはすぐにフタをしてしまうからです。そのため子どもたちは、自分の気持ちを素直に表現することができなくなっています。

「怒り」「悲しみ」に潜む「願い」

感情にはとても重要な役割があります。自分の心に潜む「願い」を人に伝える役割です。だから、子どもが感情を噴出させたときには、たとえ「怒り」でも「悲しみ」でも、それをもってはいけないものと決めつけないことが大切です。「怒り」や「悲しみ」を「願い」に置き換えることで、扱いにくい感情も受け取ることができるようになるのです。