全ての子どもたちが安心して通うことができる学校を作る。そのために、教員が、地域住民ができることとは、どんなことでしょうか。「たくさん失敗し、やり直しをしながら『みんなの学校』を作っていった」という、大阪市立大空小学校初代校長の木村泰子さんに聞きました。木村さんは9月15日、桜美林大学新宿キャンパス(東京都新宿区)で開かれる「未来の先生フォーラム2024」のリアルプログラムで講演します。
大阪府生まれ。2006年に開校した大阪市立大空小学校の校長を9年間務めた。大空小では「すべての子どもの学習権を保障する」という理念のもと、教職員や地域の人たちとともに、障害の有無にかかわらず、すべての子どもがいつも一緒に学び合ってきた。15年には大空小の1年間を追ったドキュメンタリー映画「みんなの学校」が公開され、大きな反響を呼んだ。この映画は文部科学省の特別選定作品となり、現在も全国各地の教育現場などで自主上映されている。同年春に45年間の教員生活を終え、現在は講演活動やセミナーで全国の人たちと学び合っている。
安心して「やり直し」ができる環境
大空小学校は2006年に開校しました。子どもたちは地域の未来を作る宝です。だから「学校に来られない子が一人もいなくて、子どもたちが安心して、「ここにいてもいいんだ」と思える学校を作ることを最上位の目標にしたい」と、開校する時に教職員全員で合意しました。学力向上ではなく、すべての子の学ぶ権利を保障するのです。
開校したころから、保護者を含む地域の人たちに、とにかく学校に来て子どもたちのサポーターになってくださいと呼びかけました。次第に、地域の人がどんどん教室まで入ってきて、その時に困っている子が困らないように支えてくれるようになりました。
教室から飛び出す子もいますが、飛び出すことができるという安心感があるからその子は学校に来られるのです。教室から飛び出すというのは、その子の主体的な行動です。それで怒られると思ったら、次の日から学校に来られません。
教室から出た子は職員室などの大人がいる所に来ます。大人はそういう時、このようなメッセージを発信してその子に寄り添います。「大丈夫? 何に困っているの? 私にできることない?」。
大空は、子どもたち、保護者、地域住民、教職員、それに今は卒業生が5本目の柱となって作っている、みんなの学校なのです。
たった一つの約束を破ったら「やり直し」
よく、「どうしたらそのような学校を作れたのですか」と聞かれますが、これといって何か決めて実施したわけではありません。ただし、「みんなの学校づくり」につながらないことをしたり、「自分がされて嫌なことは人にしない」という“たった一つの約束”を破ったりした時は、大人も子どもも「やり直し」です。
でも、失敗した時はチャンスです。「やり直し」ができたら、その子の成功体験となり、未来の自分の力につながりますから。大空では大人も山ほど失敗をして「やり直し」をしてきました。
先日、卒業生が面白いことを言っていました。大空はやり直しの自由が保障されていた、と。社会に出るとやり直しの自由は保障されていないですが、大空で得たものは残っているんですね。社会でいろいろな壁にぶつかっても乗り越えて、自分の未来を作っていけるようです。
正解は子どもたちが持っている
そんな学校をつくるために教員にできることとは何か、何をしたら誰一人取り残さない学校ができるのか。どこにも正解がありません。正解は子どもの数だけ子どもが持っています。今回、参加するみなさんとは「先生の役割って何だろう?」という問い直しをしたいと思っています。
私は若い教員や学生と関わる機会も多く、「どうしたらいい先生になれますか」と聞かれることもよくあります。だけど、自分がいい先生になろうとすると、子どもはそのための道具になってしまう。
今、子どもを主語にしたとき、日本の実態はこうです。約30万人の子が学校に行けない。年間500人を超える子が自ら命を落としている。いじめ、暴力行為、虐待も過去最多といわれています。誰もが学校に行けて、子どもが誰一人死なないことを日本社会の当たり前にしなくてはなりません。
これまでの学校現場は、他者評価が中心でした。でも大事なのは、自分を客観的にとらえて評価する自己評価。メタ認知ですね。できていないことがあれば少しずつできるようにしていく。できていることはさらに伸ばしていけばいいんです。友達と比較する必要はありません。
また、子どもたちの安心感と同時に大事なのが、教員の安心感です。特に若い教員が困ったときに職員室で助けを求められるようにしていくことが重要です。
これまで先生は「勉強を教えるプロ」でした。これからは、 子どもから学び、子どもと一緒に学ぶ「学びのプロ」になるときだと考えます。当日、皆さんと一緒に学べるのを楽しみにしています。