この春、朝日新聞グループ入りした日本最大級の教育イベント「未来の先生フォーラム2024」は、オンラインが7月29日~8月2日にZoomウェビナーで、リアルが9月14、15日、桜美林大学新宿キャンパス(東京都新宿区)で開かれます。同フォーラムと連携する寺子屋朝日for Teachersは、登壇者の方々にそれぞれのテーマを取り上げる意義や教職員の皆さんに伝えたいことをインタビューしました。オンラインで7月31日、リアルでは9月15日にお話しいただく熊本大学特任教授の前田康裕さんから紹介します。

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前田 康裕さん(まえだ・やすひろ、熊本大学特任教授)
熊本大学教育学部美術科を卒業後、公立の小中学校で25年間、教員を務める。その間に岐阜大学教育学部大学院教育学研究科を修了。その後、熊本市教育センター指導主事、同市立小学校教頭、熊本大学准教授、熊本市教育センター主任指導主事を経て現職。著書に「まんがで知る 教師の学び」「まんがで知る 未来への学び」「まんがで知る デジタルの学び」シリーズ(さくら社)など。

「デジタル時代の学びSHIFT―子供から教師までの学び変容を探る―」

「GIGAスクール構想」が2021年に始まって約3年経ちました。学びのデジタル化は、児童や生徒は自分の学びを多様な表現方法で容易にアウトプットできるなど、学びの可能性を広げました。同時に、この間の変化について私が感じていることは、「格差が広がっている」ということです。地域間、学校間、そして先生間においてもです。

例えば、ハードウェアの面ではまだきちんとネットワークさえうまくつながっていない環境の学校もありますし、環境面は大丈夫でも、ICTをほとんど使っていない先生もいます。あるいはICTを使ってはいるものの、授業形態は今までのままで、単にG IGA端末を授業の一部に使っているだけ、というケースも結構あります。

240610 前田康裕・熊本大特任教授

一方ですごく先進的に、生成AIなども使いながら授業を組み立てている先生もいる。その差はどんどん広がっています。

大事なのは、単にG IGA端末を使えばいいということではなく、先生一人ひとりが自分の強みを活(い)かしたクリエーティブな授業をして、子供たちが持っている能力を引き出すことです。

子供が主体的になる仕掛けを作る

私が以前、小学5年生の国語で敬語を勉強をする授業をやった時の話です。
教科書に書いてある尊敬語や謙譲語、丁寧語をそのまま覚えても面白くありません。そこで、班ごとに間違えやすい敬語を使った動画を作ってみんなで見合うという授業をやりました。子供たち自身が間違えやすい敬語を探してきて、それを使ったちょっとしたドラマを作り、子供たちが演じて10分ぐらいの番組にするのです。

自分で情報を集め、アウトプットすることによって主体的な学びになりますし、子供たちも非常に楽しんでやっていました。当時はいいソフトがなかったので子供たちが撮った動画は私が編集をしていましたが、今は小学校高学年なら自分たちで編集までできるでしょう。

子供はもちろん先生も変革が必要

子供たちにとって、学力や知識はもちろん必要ですが、社会がどのように変化しても学び続けられる意欲やスキルを身につけることが何より大切です。また、いい点数を取りたい、というだけではなく、社会を良くしていこう、あるいは自分の人生を良くしていこう、という方向に動いていかないと将来の学びにつながりません。

そのためには、子供たちはもちろん、先生たちも学び方を変革していく必要があると思っています。教育のDX化はもちろんですが、意識レベルから変えていく必要があります。

「学び方」を変えていく

私はよく子供たちに「学ぶ」と「習う」の違いはなんだろう、と尋ねます。

「習う」の場合は、内容が先にあります。例えば、漢字を習う、三味線の弾き方を習う、というようにです。しかし「学ぶ」とは必ずしも内容が先にあるわけではありません。例えば、あの人の生き方から学ぶ、失敗から学ぶという言い方もあります。「学ぶ」も「習う」もどちらも大切です。だから、「学習」というのです。

今の時代は特に「学ぶ力」が大事です。学ぶ力があれば、どんなことからも、誰からも気づきを得て、学ぶことができるからです。これは子供たちだけの話でなく、先生自身もです。

例えば、校内研修に参加するとき、誰か教えてくれる人がいて、その人の話を聞けばなんとなく学んだ気になると思いますが、本来「学ぶ」とは、何かに気づき、自分が変わることです。ですから、同じ話を聞いても、本当に学んでいる人とそうでない人では歴然と差が出てきてしまいます。つまり、学ぶ機会を増やすだけでなく、「学び方」を変えなければいけないのです。

抽象化を意識した振り返りをする

もう一つ、学び方を変える際のコツです。

先生方は日々の教室の現場で得た実践知のようなものを持っていると思いますが、少しだけその抽象度を上げて言語化することを意識してみてください。そうすることで概念化(一般化)することができ、他の先生と共有しやすくなります。

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また、研究者たちが今まで発表してきた教育学や心理学などを知識として持っておくことも大事です。今は何でもネットで調べられる時代ですが、知識を持っておくことは思考を深める上でとても役立ちますし、自分の経験が概念化しやすくなります。

もちろん、研究者たちも現場に届くような形で発信していかなければいけないでしょう。その意味で言うと、私は現場の経験も長く、研究者としても活動しているので、両者の橋渡しができるのではないかと思っています。

教育の現場で働くすべての人たちがお互いに尊重し合い、協力し合い、学び合える環境を築くことが大事です。今夏に行われる「未来の先生フォーラム」がそのような場になればと願っています。

前田康裕さんの講演 「デジタル時代の学びSHIFT―子供から教師までの学び変容を探る―」(7月31日、オンライン)はこちらから→