文部科学相の諮問機関、中央教育審議会(中教審)が2021年1月の答申「「令和の日本型学校教育」の構築を目指して」の中で打ち出した「個別最適な学び」「協働的な学び」に迫るインタビュー連載の第2弾です。「『令和の日本型学校教育』の奇妙さについて―『個別最適な学び』に着目して―」(2023年3月)と題する論文を公表した守屋淳・北海道大学大学院教育学研究院教授へのインタビューを2回にわたってお届けします。前編は、「個別最適な学び」という言葉が生まれた背景などについて語っていただきました。インタビュアーは寺子屋朝日編集長の片山健志と、日本最大級の教育イベント「未来の先生フォーラム」代表理事の宮田純也です。
ICT活用の記載が乏しい「奇妙さ」
片山:守屋さんの論文「『令和の日本型学校教育』の奇妙さついて-『個別最適な学び』に着目して-」を読み、答申に感じていた疑問が腹落ちするような感覚でした。まずは、論文を書いたきっかけを教えていただけますか。
守屋さん:「個別最適な学び」という言葉には、かねて「変だな」という感覚がありました。所属する「北海道教育学会」で2023年の学会誌の特集を検討していた時、「令和の日本型学校教育」について論文執筆のお話をいただいたのが直接のきっかけで答申全部を読みました。率直な感想は、「もっとICTの話が書かれていると思っていたのに、そうではなかった」というものでした。また、「個別最適な学び」という言葉への違和感をあらためて確認できました。そうした考察を論文にまとめました。
北海道教育学会の学会誌「教育学の研究と実践」第18号(2023年3月)に掲載された。中教審答申「令和の日本型学校教育の構築を目指して」について、新学習指導要領の路線を推し進めようとする全体の趣旨は評価しつつ、「個別最適な学び」イコールICTの活用、と誤解される余地があることを指摘。また、教育への安易で無批判なICTの導入には注意を促している点が正確に理解されたとしても、「個別最適な学び」という概念自体、学びの貧しいイメージを広げてしまうおそれがあることを説いている。
1959年、大阪府生まれ。東京大学大学院教育学研究科博士課程単位取得満期退学、90年に姫路工業大学専任講師。同大学助教授を経て、1997年に米国シアトル大学客員研究員。2010年に兵庫県立大学環境人間学部教授に就任し、11年から現職。編著に「子どもを学びの主体として育てる」(ぎょうせい、2014年)など。研究テーマは「主体としての子どもの学びと、それを支える教師のあり方の研究」。2023年3月に「『令和の日本型学校教育』の奇妙さについて-『個別最適な学び』に着目して-」を公表。