公立学校教員には原則として残業代を支払わない代わりに、給料月額の4%の教職調整額を上乗せすることを規定した「教育職員給与特別措置法」(給特法)。その見直しを求め、署名などの活動を続けてきた「給特法のこれからを考える有志の会」の中心人物の一人に、ワーク・ライフバランス社長の小室淑恵さんがいます。企業3千社以上の働き方改革に道筋をつけてきたコンサルティング会社のトップはなぜ、給特法廃止を訴えるのでしょうか。「#どうする給特法」の第3弾は小室さんに聞きました。後半では、自民党が5月、教職調整額の10%以上への引き上げなどを提言した「令和の教育人材確保実現プラン」の概要も紹介しています。

小室淑恵さんインタビュー

小室 淑恵(こむろ・よしえ)
株式会社ワーク・ライフバランス代表取締役社長。公立学校250校、民間企業3千社、7省庁の働き方改革コンサルティング実績を持ち、残業を減らして業績を上げる手法に定評がある。小室さんが伴走して残業削減した企業では業績と出生率が向上し、学校では、持ち帰り残業も削減し、残業を半減させながらも子どもに向き合う時間が増加するなどの成果が出ている。文部科学省「中央教育審議会」委員、「産業競争力会議」民間議員など複数の公務を歴任。共著に「先生がいなくなる」(PHP新書)などがある。2児の母。

――教員の長時間労働は、子どもたちにどんな影響を与えるでしょうか。

民間企業では、睡眠不足の上司ほど部下に侮辱的な言葉を使う、という研究結果が出ています。長時間労働にのみ込まれて睡眠不足になると、脳の扁桃(へんとう)体という部分が変容を起こし、自分をコントロールするのが難しくなる。それが教員に起きると、怒りやイライラは子どもたちにぶつけられてしまいます。教室が抑圧的な環境となっても、子どもに人事異動や転職はありません。日本の子どもの自己肯定感が極めて低く、不登校が増え続けていることと無関係ではないと考えています。

集中力は13時間しか維持できない

強すぎる指導によって子どもを自殺に追い込む「指導死」を引き起こすような教員も元々、長時間労働をいとわない勤務が、自己コントロールを失わせていったとも言えるのではないでしょうか。つまり教員の長時間労働問題と言っても、教員本人や家族が心配するだけでなく、子どもたちに最もしわ寄せが起きているので、すべての保護者が危機感を持たなくてはならない問題です。もっと言えば未来を担う人材育成に関わるので、国を挙げて改善しなければなりません。

人間の集中力が起床から13時間しか維持できないことは、厚生労働省のガイドラインにも載っています。一般的なサラリーマンより起床の早い教員の場合、夕方5~6時までが本当は集中力の限界です。それ以降に仕事をするとミスや事故が増え、それをカバーするためにまた仕事が増える。いじめの初期段階で教員が見逃していたと言われるケースがよくありますが、いじめに向き合うには非常に大きなエネルギーが必要で、恒常的に睡眠不足の教員はそれができる状態にありません。高い意欲を持って働ける時間に対応できていたら、いじめの深刻化を防ぐこともできると思います。

――これまで学校の働き方改革にも関わってきた中で、特に効果を上げた取り組みとその秘訣(ひけつ)は。

まず少し前は、留守番電話の導入でした。設定した時刻以降は電話対応から解放されます。非常に効果が高かったので、今では文部科学省の「全国の学校における働き方改革事例集」にも入っています。私たちとともに最初に留守電の導入に挑戦した学校では、教育委員会との間で「子どものトラブルの対処が遅れたらどうする」といった議論があり、導入まで半年かかりました。