給特法とは、公立学校の教育職員の待遇について定めた法律です。昨今、この法律は、教育職員の待遇をむしろ悪化させる要因になっているとして問題視されています。この記事では給特法が成立した経緯や具体的な内容、指摘される問題点を元小学校教員で現在教員養成にかかわる大学教員が解説します。
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1.給特法とは

給特法とは、「公立の義務教育諸学校等の教育職員の給与等に関する特別措置法」のことで、日本における公立学校の教育職員の給与や労働条件を定めた法律です。教育職員には、原則的に時間外勤務手当や休日勤務を支給しない代わりに、給料の月額の4%に相当する額を「教職調整額」として支給することが定められています。

教育職員の仕事は、「自発性」や「創造性」が必要とされ、正解や上限がない仕事といわれます。給特法は、そうした職務を担う公立の義務教育諸学校等の教育職員の職務と勤務態様の特殊性に基づき、その給与その他の勤務条件について特例を定めた法律です。

しかし、本来は待遇確保のために定められた法律が、近年の教育職員の長時間労働が問題となるなかで、待遇悪化の要因の一つとして見直す動きが起こっています。

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2.給特法が成立した経緯

第2次世界大戦後、労働基準法が1947年に公布・施行され、週の労働時間は40時間、1日の労働時間は8時間までと決められました。

労働基準法には、残業や休日出勤、時間外労働をさせる際には、労働組合または労働者の過半数を代表する人と書面による協定をしなければならないことが定められていました。これがいわゆる「36(サブロク)協定」と呼ばれる労使間の約束事です。当初は公務員にも、一般労働者のように労働基準法が適用されていました。

しかし、公務員は部署や職務によって拘束時間が大きく異なることが、問題として指摘されるようになりました。そのため、1948年に公務員の給与制度改革がなされ、週における拘束時間に応じて給与が支給されることになりました。

一方、教育職員は勤務時間を単純に測定することが難しく、残業手当が支払われないようなことが度々起こり、裁判になることもありました。そうした状況を踏まえ、教育職員に関しては、残業手当は支給しないこととし、代わりに「週48時間以上勤務する」ことを想定して、基本給(月給)の4%に相当する教職調整額を支給することにしたのです。つまり残業手当は支払わないけど、一定額の賃金を上乗せをすることで教育職員の職務の特殊性に対応しようとしました。

こうして1971年に「国立及び公立の義務教育諸学校等の教育職員の給与等に関する特別措置法」が制定され、2004年に現在の名称である「公立の義務教育諸学校等の教育職員の給与等に関する特別措置法」に改められました。

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3.給特法の具体的な内容

では、給特法は具体的にどのような内容を定めているのでしょうか。ここでは特におさえておきたい内容に絞ってご紹介します(参照:公立の義務教育諸学校等の教育職員の給与等に関する特別措置法丨e-Gov法令検索)。

(1)給特法の対象者は教育職員

この法律の対象者は、公立の義務教育諸学校等の教育職員です。

義務教育諸学校とは、公立の小学校、中学校、義務教育学校、高等学校、中等教育学校、特別支援学校、幼稚園のことです。教育職員とは、義務教育諸学校の校長(園長)、副校長(副園長)、教頭、主幹教諭、指導教諭、栄養教諭、助教諭、用語助教諭、講師、実習助手及び寄宿指導教員のことを指します。

つまり、私立学校の教育職員はこの法律の適用外となります。 

(2)教育職員へ教職調整額を支給

校長、副校長、教頭を除く教育職員には、時間外勤務手当や休日勤務手当などの残業手当を支給しない代わりに、教職調整額を支給しなければならないことになっています。教育調整額とは、教育職員の勤務時間の長短を問わず、働いている時間・働いていない時間関係なしに(勤務時間外の職務に対する評価も含んだ対価として)、給料月額4%が支払われるものです。

また、以下の場合において、教職調整額を受ける人の給与に関しては、条例で定める内容が適用されます。

  1. 地域手当、特地勤務手当、期末手当、勤勉手当、定時制通信教育手当、産業教育手当、退職手当などが給料の算定基礎となる場合、教職調整額を加えた額を算定基礎とする
  2. 休職期間中に給料が支給される場合は、教職調整額を加えた額を支給する
  3. 外国の地方公共団体の機関などに派遣される一般職の地方公務員に給料が支給される場合、教職調整額を加えた額を支給する
  4. 公益的法人などへの一般職の地方公務員の派遣などにより給料が支給される場合、教職調整額を加えた額を支給する

(3)教育職員の正規の勤務時間を超える勤務に関するルールも策定

給特法は残業手当を支給しない代わりに教職調整額を支給すると定められていますが、そこには教育職員に時間外勤務をさせないようにする意図が含まれています。一方で、それは現実的でないことから、給特法では政令で定める基準に従い、条例で定める場合には、教育職員に時間外勤務をさせることができるとされています。

ただし、勤務させる場合は、教育職員の健康と福祉を損なわないように、勤務の実情に十分な配慮が求められます。また、この教育職員に時間外勤務を命じることができる仕事は「超勤4項目」、具体的には校外実習その他の実習、修学旅行その他の学校行事、職員会議、非常災害などに関する業務に限られています。

4.給特法の問題点

上記でご説明したように、給特法は教育職員の待遇確保のために定められた法律ですが、いまは待遇の悪化を招くものとして問題視されています。具体的な問題点とその背景を見ていきましょう。

(1)給特法が抱える問題点

給特法の問題点は、「定額働かせ放題」と揶揄されるように、教育職員が長時間の時間外勤務をしているのにもかかわらず正当な対価を受け取れていないところにあります。一律4%の上乗せ賃金で働いているというよりも、その上乗せ賃金で働かされているようになってしまっているのです。

この法律が争点のひとつとなった裁判があります。埼玉県内の公立小学校に勤務する教育職員が、勤務時間外の業務も労働基準法が定める労働であり、時間外勤務に対する残業代を支払うべきだとし、埼玉県に対して損害賠償を求めた裁判「埼玉超勤訴訟」です。原告は一審、二審と敗訴し、上告しましたが受理されず、棄却されました(2023年3月)。これにより、原告の敗訴が確定しました。

原告は、時間外労働をしているのだから割増賃金を払うべき、また、法定労働時間を越えて労働をさせられたのだから損害賠償請求を認めるべきだと主張してきました。しかし、第一審では、原告が行っていた時間外業務の一部は正規の労働であると認めながらも、損害賠償がなされる規準には達していないと判断されました。教育職員が自主的で自律的な業務を行い、それが勤務時間外に及ぶこともあるので、「超勤4項目」に該当しないそれ以外の業務の時間外勤務について、時間外割増賃金を支払う必要はないというわけです。

原告側は、実際にはこの4項目以外の業務も職務上の命令として遂行してきたと訴えていましたが、判決は、それらの業務が自主的、自律的なものであると見なされ、教職調整額が支払われているのだから、損害賠償の必要はないと訴えを却下しました。

近年の教育職員の勤務実態調査によると、かつてよりも在校時間が減少しているものの依然として長時間勤務をしている教育職員が多い状況です(参照:教員勤務実態調査〈令和4年度〉集計【速報値】p.1丨文部科学省)。教育職員が現在行っている時間外勤務には、「超勤4項目」に関わる業務もあればそれに該当しない業務もあることでしょう。

しかし、同時にそれに該当しない業務全てが自主的で自律的な業務であるかどうかは各々の教育職員個人では判断が困難です。生徒指導困難校などでは、生徒指導案件や保護者への対応事案が日常的に起こります。そこへの対応は、かなりの時間を要するものも少なくありません。

また、教育職員は学校を取り巻く任意団体の事務局などを請け負っていることもあり、それに関連する業務もあります。それらは該当項目外だから「やらなくていい」というわけにはいかないのが実情です。

生徒指導案件、保護者対応はもちろんのこと、任意団体の仕事になると校長の推薦や承認を得ている場合があり、当該の教育職員個人がさらに断ることが難しい構造になっています。

(2)給特法が問題視されている背景

給特法の問題点は、「これは自ら必要としてやっている仕事なのか線引きが難しい」という今の教育職員の勤務実態に対して法律の仕組みが合わなくなり、むしろ教育職員の足かせになってしまっているところにあります。その背景には、教育職員の仕事における自発性や創造性が失われていることが挙げられます。

給特法は、教育職員の職務の特殊性に配慮した法律であり、そもそもその特殊性は、教師は時間外を含め自主的に働くものであるから厳格な時間管理はなじまない、というのがそのイメージでした。つまり、この法律は教育職員の勤務時間に自由な裁量がある程度確保されていることが前提となっているのです。

ただ、それが今、機能しなくなってきています。例えば、2000年以前は授業づくりや教室の掲示物、学級通信の配布など、各教育職員の個人の裁量に任されている部分がかなりあり、個性的な教育活動が展開されていました。しかし近年は、授業は自治体主導で「授業スタンダード」「学習スタンダード」として、授業の進め方や児童生徒の学習規律を均一化しようという動きもあります。また、クラス間での格差を不安視する保護者の心情への配慮などを理由に、教室に貼る掲示物の内容や場所を限定したり、学級通信を全校一律に禁止したりする地域もあります。

管理統制の徹底によって自由度が奪われると「自分で考えて仕事をしても仕方がない」「これは自ら必要としてやっている仕事ではない」と自発的・創造的に働くことが難しくなるものです。こうしたことも、給特法が教育職員の勤務実態に合わなくなってきている、と指摘されている要因だと考えられます。

5.給特法の改正・廃止を巡る動き

給特法の問題が指摘されるなか、いくつかの団体が改正、あるいは廃止するための動きを見せています。主なものをご紹介します。

(1)中央教育審議会の答申

中央教育審議会の「新しい時代の教育に向けた持続可能な学校指導・運営体制の構築のための学校における働き方改革に関する総合的な方策について(答申)」(2019年1月25日)では、給特法の一部の制度について、教育職員の勤務時間管理や労働基準法の時間外勤務や割増賃金の規定が考慮されるべきだという意見がありました。

この意見では、給特法を見直して時間管理や働き方改革の議論をするべきであり、36協定の締結や「自発的勤務」も含めた労働時間の制限、すべての校内業務に対する時間外手当の支払いが原則とされるべきだと主張しています。また一方で、教育職員の職務の本質や教育の成果は勤務時間だけで評価できないという意見もありました。

このような議論を踏まえ、学校における働き方改革のためには、勤務時間の内外を評価して教職調整額を支給し、時間外勤務手当や休日勤務手当は支給しないとする給特法の基本的な枠組みを前提とし、そのうえで、文部科学省や教育委員会、学校はそれぞれの役割と責任を果たし、労働安全衛生法の改正に基づいて勤務時間管理の義務や上限ガイドラインに従い、学校内の時間を短縮する取り組みを徹底的に推進することを求めました。

また、現行制度における教職調整額の4%が、実際の勤務状況に比べて不十分だとの指摘を認めつつも、教職調整額の水準については、勤務実態を追認するだけでなく、在校等時間を短縮するための施策を実施することが優先されるべきだと指摘したうえで、今後、これらの取り組みの成果を踏まえながら、中長期的な課題として検討する必要性を訴えました。

さらに、2023年5月22日には、文部科学省からの諮問を受けて、給特法の改正を視野に入れた議論が始められました。それに先立って提示された自民党案では、教職調整額を増やすことが盛り込まれています。ただ、現役の教育職員からは、そもそも給特法を廃止しなければ現状は変わらないという声も挙がっています。

(2)改正給特法の施行

改正給特法とは、「公立の義務教育諸学校等の教育職員の給与等に関する特別措置法の一部を改正する法律」のことで、2019年12月に成立し、2022年4月1日から施行されています。

改正法では、1年単位の変形労働時間制を導入可能にする制度も盛り込まれました。これによって、長期休業期間の教育職員の業務の時間は学期中よりも短くなり、また、地方公共団体の判断により、学期中の業務の縮減に加え、かつて行われていた夏休み中の休日のまとめ取りのように集中して休日を確保することなどが可能となりました(参照:公立の義務教育諸学校等の教育職員の給与等に関する特別措置法の一部を改正する法律の概要丨文部科学省)。

(3)教職の環境のあり方などに関する調査研究会の開催

教育職員は、子供たちの資質・能力の育成に向けた、新たな教育の実現を直接担う存在であり、その確保は日本の未来において重要です。そこで、文部科学省では「質の高い教師の確保のための教職の魅力向上に向けた環境の在り方等に関する調査研究会」を設置し、給特法に関しても議論してきました。

2023年4月13日の論点整理では以下の論点が出されました。まず、今の教育職員の時間外在校等時間が給特法制定当時に想定していたときよりも大きく超えているが、それをどのように考えるか。次に、給特法をはじめとする公立学校に固有の仕組みの在り方について考えるうえで、私立や国立の学校と公立学校が担う役割にはどのような差異があるのか、また、それを踏まえ、各学校に務める教育職員の給与の在り方をどのように考えるか、です(参照:質の高い教師の確保のための教職の魅力向上等に向けた環境の在り方等に関する調査研究会【概要】丨文部科学省)。

人材確保における困難さが指摘される今、給与面の充実も早急な対策が必要でしょう。

(4)教育職員による廃止の署名活動