名古屋大大学院の内田良教授(教育社会学)らのグループが13日に文部科学省で記者会見して明らかにした「学校の業務に関する調査」では、仕事の持ち帰りなどで残業時間が見えにくくなった教員の労働実態と、それが子どもたちに影響を及ぼしていることが浮き彫りになりました。内田教授のほか、名古屋大院生で岐阜県立高校教員の西村祐二さん、同院生で埼玉県の元小中学校教員の元木廉さんの3人による会見の全容を紹介します。

会見全容

会見した名古屋大学大学院の内田良教授

内田:この3人にプラス、うちの大学の大学院生、複数名で、教員の働き方に関するウェブ調査を行いました。昨年11月のことです。その詳細に関しては、配付しました資料の一番後ろの方にとても細かいことが書いてありますけれども、そういう形で調査を行いました。その速報という形で、今わかっていることをお話ししたいと思います。

それでは資料を、スライドがたくさん貼り付けてある資料をご覧ください。学校の業務に関する調査ということで、第一報は、実は僕のウェブサイトに上がっているんですけれども、学校リスク研究所っていう。それのより詳細なものというふうにご理解ください。

公表された「学校の業務に関する調査」の調査報告(第2報)

どういう調査を行ったかというのが2枚目の下の方のスライドですね。現場の、まだまだ見えていない実態だとか、あるいは、その背景にある意識を見ていこうというもので、対象は公立小中学校のフルタイムで働いている先生で、管理職は除いています。

2021年11月に調査を行いました。それぞれ小学校450名、中学校450名ぐらいの人数で取りました。どういった設計でやっているかというと、特に一つ目、見えない残業時間を含めて教員の勤務時間の全体像をちゃんと描き出すということ。そしてもう一つが「長時間労働」。今までは文科省の調査って、あるいは他の調査でもそうなんですけど、「何時間働いた」という客観的なレベルを出すのにとどまっていて、それがどういう影響をもたらしているか、そういった関係性を見ていきたい、と考えて設計いたしました。

まず大前提ですけれども、教員は決して教職が面白くないだとか、そういうことではなくて、「やりがい」あるいは「魅力がある」というのは、軒並み85%前後の人たちが、まず「教職はとてもいいものだ」と考えている。

これ大前提で、ご確認ください。ただし、この先がまずいんですね。3ページ目の資料の上の方を御覧ください。これは図の中の左側が、教師がとても魅力のある仕事だっていうことが書いてあって、この横に伸びてる棒が何を意味しているかというと、「やめたいと思ったことがある」の割合です。この3本あるうちの一番上をご覧ください。

調査報告書から「Q教師はとても魅力ある仕事だ×この2年ほどの間に、教師を辞めたいと思ったことがある」

つまり「教職は素晴らしい仕事だ」と思っている人の中でも辞めたいと(思ったことがある人がいるということ)。この2年間です。一生涯じゃなくて、この2年ってすごく限定しました。あえて。それでも「辞めたいと思ったことがある」が半分いると。ということで、改めて、「#教師のバトン」もそうだったんですけれども、いま文科省や教育委員会が、教師のなり手がいないということで、「とにかく魅力を発信すればいいんだ」というふうな議論が多いんだけれども、多分魅力はもうみんなわかってるということですね。問題なのは魅力ではなくて、長時間労働の問題こそ解消しなければいけない。魅力はわかっているということです。

その下も同じようなものですね。「魅力のある仕事だ」と思っている人別に転職サイトを見たかどうかっていう、その割合を聞いてみた。転職サイトというのは、これはもう明らかに転職を意識した行動レベルで、かなり一歩踏み込んだものですね。そういったところで見ても、「魅力ある」で「とても思う」という人たちの中でも28.2%が転職サイトを見ているということなので、これはかなり踏み込んだ行動です。改めて「魅力があるけれども、やめたい、苦しい」というところが、大事なところかなと思います。

調査結果から「Q教師はとても魅力のある仕事だ×この2年ほどの間に、転職サイトをみたことがある」

続けて4ページ目を御覧ください。左上の表が、これが実際に学校にいる平日の出勤から退勤までの時間を示していて、その下がいわゆる学校にいる時間だけじゃなくて、家に持ち帰った仕事だとか、あるいは土日に学校に来てやっている仕事と、そういったふうにぱっと見わからないところですよね。そういった時間数も聞いています。

調査報告書から「平日の出退勤時刻と在校時間数」など

その右側の下の方をごらんください。これが今回の分析で後ほど、何回も言及するので、ここはちゃんと見ておいていただきたいんですけれども、この右下の表が何を意味しているかというと、「総時間外業務」と今回、名付けたものです。それは何というと、教員の働き方の特徴というのは、単に在校時間が長いだけじゃないんですね。特徴は、休憩時間もほぼないということ。これが一つです。もう一つが、持ち帰って仕事をしているということ。この二つが、教員の働き方をかなり他の職種と比べて、特徴づけているところなんですね。ということで、その休憩中の仕事も含め、そしてもちろん定時外の学校にいる定時外の仕事も含め、そして持ち帰り仕事も含める。とにかく学校の業務をやっている時間を全部調べましょうということで、すべてを足したもの。そこから定時の時間だけ引いたものです。

ということで「総時間外業務」というのは、まさに定時以外で学校のためにやっている全ての時間を計算したものです。それが1週間あたりで、「0~20時間未満」ということですね。そして、「20時間~40時間未満」と「40時間以上~60時間未満」ですね。というふうに分けました。ちょっとそれ以上大きいのは、記入ミスとみなしまして、外れ値と扱ってますので、この三つのカテゴリーで分析を、この後していくということです。

実はいろんな時間数で既に分析しているんですね。定時以外のいわゆる学校の中の残業時間だとか、いろんなものと分析したんですけれども、これがやっぱり一番効く。つまり本当に自分の24時間の中で、どれだけ学校の業務をやっているかは、いろんな他の質問と関係性が強いですね。だから、改めて教員が持ち帰りまで含めてやっている、その全体像を見ないと、教員の働き方というのは語れないなということを、強く実感しているところです。

4ページの下の方のスライドの下の方に、文科省の調査とのいろんな比較を挙げていますので、またご覧になってください。文科省の調査は、もう毎日、一日ずつつけていく非常に詳細な調査なので、その精度にはかないません。ですけれども、調査は行われているのが2016年なので、だいぶ日付も年月も経っていますので、比較という意味も含めて載せました。

特徴は、これはだいたい予想ついていたことなんですけれども、学内の勤務時間よりも、持ち帰りが増えているんじゃないのかなと。それは時間管理が始まったからです。時間管理が始まって、そして多分、厳しく言われるから持ち帰っているんじゃないのかなと、思いながら調べてみたところ、やっぱり文科省の調査と比較しても、学内の業務はちょっと少なくなり、そして学外、持ち帰り仕事などは増えているというのが、この4ページの下の表から、一番下ですね、このグレーの色がついてるところを見ていただければ、どの時間が増えているということはわかります。例えば小学校の「平日持ち帰り」のところ、プラス27になっています。あるいは「土日の持ち帰り」、小学校プラス13とかですね。こんな感じで、一番多いのは「中学校の平日の持ち帰り」かな、プラス30。そんなふうに、ますます教員の仕事が見えなくなっているんじゃないのかというところが、危機感を抱くところです。

次に5ページを御覧ください。これは単純に男女差を表したものですけれども、なかなか女性の働き方っていうのが、あんまり焦点が当たっていなくて。これまでどっちかというと部活動が話題だったので、どうしても中学校の男性文化みたいな、そんなところに議論が集まっていて、結構ね、女性の小学校の先生は、やっぱり体調を崩したりとか、本当によく聞くのは膀胱炎によくなるということ。何か統計があったらいいのになと思います。そんな感じで、小学校の女性の先生は相当にノンストップ労働をしているんだろうなと思いながら、このデータを出してみました。そうすると特に大きな差として出てきたのは、「持ち帰り仕事を女性の先生がたくさんやっている」と。男性に比べてですね。多分、それは家に帰って、子育ての役割も任されていて、みたいな、そんなところが見えてきます。なので、早めに帰って、家で持ち帰り仕事をやっているというところかと思います。

小学校 中学校
学内勤務(1日) 持ち帰り仕事(1日) 総時間外業務(1週間) 学内勤務(1日)

持ち帰り仕事(1日)

総時間外業務(1週間)
平日 休日 平日 休日 平日 休日 平日 休日
全体 11.20 0.98 0.92 1.32 24.46 11.62 2.78 0.85 1.48 28.53
男性 11.25 1.13 0.76 1.03 24.45 11.63 2.83 0.92 1.27 28.22
女性 11.18 0.91 1.00 1.47 24.46 11.60 2.73 0.77 1.71 28.87
男性-女性 0.08 0.22 -0.25 -0.44 -0.02 0.04 0.10 0.16 -0.44 -0.65

※調査報告書のデータを基に作成した総時間外業務を示す表(単位は時間)

教員の働き方の時間管理が始まってますけれども、いくつかポイントをお話しておきたいと思います。まずね、これが普通の所定の定時です。大事なのは、ここの三つ、これが隠れる。見えなくなるということなんです。具体的には、ここは定時の時間があって、これが普通に申告した時間です。正式に学校側に申告した時間はこちらです。そして、その先、これが「申告漏れ」。過少申告だとかそういったものの数字です。これは先般NHKさんのクローズアップ現代でも、この過少申告のことが話題になりました。今日も少しだけご報告したいと思っています。この過少申告があるだろうと。そしてこちらが、休憩時間。休憩時間も仕事をしているんだけど、結構ね、休憩中の仕事というのは、現状カウントされていない学校がたくさんあるんです。なので、ここも非常に大事です。

そして一番上が「持ち帰り仕事」ですね。この三つが教員の今の残業の中で、かなり見えなくなっているものだろうというふうに思います。ちなみに一言だけ言っておくと、文科省は「休憩時間は、休憩時間についてもちゃんと働いた分はカウントしろ」というふうに、Q&Aで書いてます。だからちょっとね。なかなかたどりつかなくって、Q&Aまで行けば、休憩中働いた分もちゃんと在校等時間の中に入れなさい、と書いてあるけど、多分それをみんな知らないし、僕も最初全然知らなかった。ということなので、そもそも時間管理の方法さえ、現場まで行き着いてないんじゃないのかなと思えるところがございます。

では続けて、次のスライド6ページ目を御覧ください。ここからはもう数字だけなので、ざっと結果をご説明していきたいと思います。まずは休憩時間。これはやっぱり0分。これ11時間何分、学校にいてですね。それで「0分」と答えている人が、半分ぐらい小中学校でいるということで、本当にノンストップ労働です。その下、これを男女別で見たものですけれども、やっぱり低学年の女性の先生が、休憩時間0分という割合が非常に多いんですね。これはまさに僕の実感とも合致していて、女性の先生はずっと子供の相手をしていて、トイレに行けないまま体を壊すみたいなことがあるので、割とこれデータに出てるなと、低学年の女性の先生のノンストップ労働だということです。

7ページ目を御覧ください。長時間労働の影響。先ほど申し上げたものですけれども、左側の「0~19時間」「20~39」「40~59時間」と、これが総時間外業務の三つのカテゴリーです。それに応じていくつかの質問との関係性を調べました。一つ目が、いじめを発見できているか不安だというもの。これはやっぱり長時間の人ほど「不安だ」と答えているということで、それはそうだろうなと。忙しすぎて子どもの面倒が見られていないという側面が非常に強いのだろうなというところが見て取れます。

調査報告書から「Qいじめを早期派遣できているか不安だ」の回答

次は8ページ。準備不足のまま、授業に臨んでいると。これも、もう基本的には結果は全て同じです。総時間外業務が多いほど、授業準備ができていない。いじめの話も、授業準備の方も、結局忙しいということは、教員の体調はもちろん考えなきゃいけないんだけど、同時にその影響は子どもに下りてきます、ということです。忙しいということは、授業準備もできていないし、いじめも発見できていないんじゃないのか。と考えなきゃいけない。これは本当に教員の長時間労働というのは、日本社会全体の問題だというふうに理解しなければいけないと思います。

「転職サイトを見たことがある」。これも同じように、時間数が大きくなるほど、転職サイトを見ていると。改めて、転職サイトを見るっていうのは「辞めたいな」って思いじゃなくって、具体的な行動なので、非常にインパクトはあるかなというふうに思います。

9ページ目にいきます。これが過少申告のお話で、総じて全体的に小学校・中学校で少なく書き換え、書類上の勤務時間ですね。少なくしろというふうにだいたい小学校で15.9。中学校で17.2%が言われてるんだけど。それもまたやっぱり、時間外労働の多さによって変わってくるということで、それは多い人ほど多分、書き換えろと言われていると。その通りだなというデータがここに出てきます。「教師を辞めたいと思ったことがある」というのも、当然ながら時間数が増えるほど辞めたいと思っている。非常にもう正直なデータが次々出てきているということです。

10ページ目、ここが今、月45時間の規制というのが文科省で始まり、それが教育委員会におり、当然現場におりてきてるはずなんですね。でも、僕の実感としても、それを知らない人が結構いてですね。それを聞いてみました。「知っていますか」っていうと、教員はだいたい「知っています」って答えるんですよ。なので、あたかもお宅の学校で時間設定ありますかっていう、もやっと、まるでない可能性があるかのような質問で、なんとか聞き出しました。そうすると、設定があると答えているのは、この赤い色なので、「設定あり」でも、正解と不正解がいるんですね。正解は小学校で16.3%、中学校で10.9%で、設定はあるけど間違えて答えている人がもうちょっといるという状況です。つまり、そもそも時間管理が始まったんだけど、その上限設定さえほとんど理解されていないことが見えてきます。

上限が月45時間だと正解できた人と不正解の人の勤務時間の分布を調べた。なんで調べたかというと、時間管理を知っていても知らなくても時間外業務にほとんど差がないからです。知っていても機能していない。普通は時間管理をしっかりしていけば減るものだと思っていたのだけれど、そういう関係性は今のところ見られません。

「正確に申告する予定か」も聞きました。正確に申告しているか。土日になると、みんな学校に行ってただ働きしていて、どこにも申告していない。それが小学校の土日で43%ありました。まったくもって見えていない時間数があるということです。

「いま教員として教師を勧めることはできない」

教育現場の実情について話した岐阜県立高校教員の西村祐二さん

西村さん:現場の人間としての率直な感想を述べていきたいと思います。まず教職の魅力発信で教員不足が解消されていくのかと言うことについてです。今回の調査では、「教師はとても魅力のある仕事だ」という質問について、「とても思う」「どちらかと言えばそう思う」を加えた数が、86.6%。「仕事にやりがいを感じる」は84.8%にのぼりました。内田先生の資料では84.9%となっているものです。「仕事が楽しい」と答えた数も77.2%。ただ、「自分の学校の子どもに教職を勧めることができる」は40.0 %なんですね。これは僕自身の現場実感と重なるところで。魅力はものすごくあるんですよね。これはものすごい数字です。
いろんな職業があるなかで現場の人間がこれだけ多く魅力を感じている。にもかかわらず、自分の学校の生徒が「将来教職を目指したいんです」と言ったときに、3年生の担任としてそういう子が何人かいる訳なんですけれど、正直なんと声をかけていいのかわからない。その子たちが教員養成大学に入って、大学4年生の時に後悔しないか、勤め始めてすぐやめてしまうのでは、鬱になってしまうのでは、思えば思うほど無責任にいま、教員として教師を勧めることはできない。こんなに魅力があるのに、すごくつらい現実です。同じように感じている教員がたくさんいるということです。
また、それに関わることなのですが、「この2年ほどの間に、教師を辞めたいと思ったことがある」65.8%。「この2年ほどの間に、転職サイトをみたことがある」35.1%。3人に2人が、過去2年間に辞めたいと思って、3人に1人は具体的な行動を取ったことがある、ということです。魅力はあるのにそういう風に行動してしまう。それが教育現場の現状だと言うことです。今、「教員不足」から教員志望者をいかに増やすかということが検討されていると思いますが、同時に現在勤めている人の流出に歯止めをかけないと、じゃんじゃかじゃんじゃか魅力アピールで入ってきた人たちが尻尾を巻いて逃げ出してしまう。

3点目として、働き方改革の主体について。これは内田先生が紹介していないデータですが、紹介するには勇気がいりますが。
「次のうち、誰・どの組織が働き方改革を主導すべきだと思いますか」という質問に対して、48.7%が「文科省」、28.9%が「教育委員会」と答えています。ところが、「働き方改革に現在最も貢献していると考えられるのは誰・どの組織だと思いますか」という質問については、「文科省」が7.3%、「教育委員会」が7.6%にとどまっています。
行政は何もやっていないなどと言うつもりはありませんが、教員の率直な感想として、行政にまだまだやってもらうべきことがあるのではないかという思いです。
一つは、いま話題になっている部活動の地域移行です。地域移行してもらいたいと思っていますが、果たしてうまくいくのか。あとは給特法。「残業は教員が好きで勝手に働いているもの」とみなしている給特法の抜本議論をやはりやってもらうべきだと思います。
これに関連して4月28日より給特法の抜本的見直しを求めるオンライン署名を私も呼びかけ人になって始めました。調査とは全く別の団体の活動になりますが、署名開始から想定よりずいぶん早いスピードで署名が集まっていて、1週間で3万3千筆。きょうまでに3万5940筆が集まっています。こういった行政にしかできない議論を今後やっていく姿を見せてくださると、文科省の働き方改革への貢献度も上がっていくのではと思います。
2019年には給特法の根本改正は行わずに、そのほか出来ることを全て「総力戦で行う」とされました。その結果、今年度行われる残業調査、どれだけ減っているのか減っていないのか。劇的な変化が見られない限りは、やはり残業を自発的であるという給特法の規定を抜本的に改善する必要がある、と現場の人間として考えます。

「教員に勤務時間の意識ほぼない

会見では公立小中学校の元教員、元木廉さんも教員の労働環境について話した

元木:元木廉と申します。埼玉県内の小中学校で20年間勤務した元公立学校の教員です。退職直前の6年間は小学校で教務主任・主幹教諭をつとめておりました。こちらにいらっしゃる斉藤ひでみ先生こと西村祐二先生は現職かつ実名での発信をされています。そのような姿を拝見して、私も心意気を感じております。今回ここに来ることを後押ししてくれた教育委員会の先生や校長先生も複数おられます。学校現場の声なき声をお伝えしたいと思います。よろしくお願いします。

私からは、特に教務主任を経験した人間として3点、個人的な見解を含めてお話しします。1点目は、学校がなすべき業務の精選についてです。「学校は業務の総量を減らすべきだ」という質問で、とても思うが76.2%、どちらかというと思うが20.4%で、9割以上の教員が業務の総量を減らすべきだと考えています。

私も教務主任として、教育委員会の方針に従い、学校長の命を受けて、校内のさまざまな働き方改革を推進する立場におりました。例えば年間行事計画などを見直して、準備も含めて余裕があるものにしたり、授業時間数を様々な工夫で調整したりして、放課後の事務処理時間を確保するように努めておりました。しかし一方で様々な学級の事務処理、児童対応、校内で分担している各教科の校務分掌、報告文書の作成等々、勤務時間内に終わることはほぼありません。勤務時間が終了しても、そのこと自体をほぼ意識することなく、時間が過ぎていきます。なぜなら教員には勤務時間の意識がほぼないからです。これは給特法による影響が非常に大きいと考えています。

2点目は授業準備の時間確保です。「準備不足のまま授業に臨んでしまっている」という質問では、「とても思う」「どちらかと言えば思う」で6割以上を占めました。学校教育の世界では「教師は授業で勝負をする」という言葉があります。文部科学省でも平成27年に「学校現場における業務改善のためのガイドライン」を発行しておりますが、ここでも副題に、子どもと向き合う時間の確保と示しています。子どもたちと向き合う時間の確保は必須です。あわせて授業を通して子どもたちと真剣勝負で向き合う時間という意味も込められていると思います。

先ほど申し上げたように、担任は放課後にも様々な事務処理、それに加えて部活動指導などもあります。結果として、教材研究を後回しにせざるを得ない現状があります。教師の中心的な業務は授業であることを再認識して、ここに力を注げるように環境を整えることが必要だと思います。

3点目として、いじめの早期発見です。「いじめを早期発見できているか不安だ」という質問では、「とても思う」「どちらかと言えば思う」で7割以上を占めました。現在も日本各地でいじめに関わる裁判や報道がなされています。学校におけるいじめの早期発見、対応については、最優先すべき業務です。一方で、朝から晩まで息つく暇もない先生方の状況もよくわかります。だからこそ勇気をもって業務精選を行い、教員に体と心の余裕を与えてほしいと思います。そのことがいじめの早期発見にもつながると思います。

教育は国家百年の計です。ここで教育を持続可能なことにすることは将来の日本への責務だと考えます。簡単ではございますが、私からの報告を終わらせてもらいます。

質疑応答

Q:第2報とあるが、ここに書かれていることはすべて新しくわかったことでしょうか。

内田さん:ネットで「学校リスク研究所」と検索していただくと、僕のサイトがあって、そこに第1報があります。そこには過少申告のことと、休憩時間など、ここで紹介しいたもののごく一部が載っています。今回はかなりたくさんのことを出しましたが、質問はたくさんあるので、しっかりしたものはあと数カ月必要かなと思っております。単純集計はもちろん出していますが、もう少しアカデミックに分析しなければいけなりません。

Q:調査は昨年の11月ということで、コロナの影響は?

内田さん:何回かコロナの影響で実施を延ばしました。11月のこの時期はまさに、東京の感染者数も数百人に減って、みんなが終わるかな…と思っていた時期です。ウェブ調査のいいところは、すぐできるところ。そこを狙いました。ウェブ調査って家でできる。土日に。だから教員が忙しいときに学校でやる形ではなく、祝日を含めた1週間でやった。コロナの影響はあったとしてもかなり少ないです。勤務時間も、学校全体が落ち着いているときの、その前の1週間で答えてください、としました。

Q:調査はマクロミル社のウェブモニターを利用したとのことですが、調査会社に委託して、公立の小中学校の先生に絞って回答をお願いしたのですか。

内田さん:はい、いま研究者が学術的にやる場合のウェブ調査は基本的にみんなこういう形で、どこかの会社にお願いして、そこが抱えているモニターが何十万人といますので、その中で教員だけにアンケートに答えてもらうように情報を流してもらう形です。

Q:文科省が今年度行う調査を意識して調査したのでしょうか。

内田さん:これは科研費の研究計画なのです。2年くらい前から計画を立てていました。この趣旨は、いま5年間お金をもらっているうち2年目で、昨年11月は1年目でした。昨年やって、5年後にもう1回同じ調査をしようということがポイントなのです。文科省がいつ調査をやろうが、やっぱり調査手法が違うと、どうしても数字がずれる。文科省の調査と比較して、増えた、減ったということは、あまりやりたくはないんですね。それよりもできるだけ同じ調査手法で5年後と比較する。そこにポイントがあります。

Q:調査の動機は。

内田さん:直接はまさに給特法の改正によって2020年4月から、勤務時間管理が一応、始まったわけですね。これが始まるとたぶん、時間管理によって仕事が本当に減るのか。何よりも危惧していたのは、それが見えなくなるんじゃないのかということです。残業時間が消えるんじゃないかということはかなり意識して、質問項目を作りました。で、きょうの発表もまさに一番やりたかったことをご報告したということです。

Q:過少申告について。少なく申告するように求められたということだが、だれがだれにということでしょうか。どうして正しく申告しないのでしょうか。

内田さん:質問の論点は、一つは上から要請されているんじゃないのか、ということですね?もう一つの質問は、自分から消しているんじゃないのかと。そのあたり、現場の感覚をお話しいただけるといいと思います。
元木さん:私が勤務していた自治体ではありませんが、感覚的には、管理職が教育委員会に報告する段階で、オーバーしているものを報告することはできないという意識が働くからだと思います。加えて教員目線から言うと、こちらのほうで残業時間が大幅に超過していると産業医の面接があるよ、という形で、その先生としても不都合が生じてしまう。自分が関わりたくないから改ざんして、法定の勤務時間内に抑えているというようなことだと考えます。

内田さん:産業医の面談というのは、相当先生たち、意識していますよね。それを校長が言うものだから、その前に自分が過少申告したり、言われたから忖度して減らしたり、ということで時間数が減っていく現状が、かなり広く見られているんだろうと思います。逆に、お金が関わっていない分、いくらでも書き換えられてしまう。増えようが減ろうが、だれも困らない。だったら減らした方が、最終的に自分が倒れるかもしれないけれど、だれからも叱られないし、簡単に減らせちゃうことが大きな問題だと思います。

Q:時間外勤務がどれくらいだと産業医面談が入るのでしょうか。

元木さん:90~100時間というけたになっている場合は、産業医面談になります。

西村さん:80時間が目安になっていることも多くて、なぜ勤務時間を過少申告するのかという先ほどの質問に関しても、80時間以上の教員をゼロにするという目標を掲げる自治体もあって、具体的にどういう圧力があるかは何とも言えませんけれども、そういう目標設定があると管理職としても現場の人間としてもしんどい面があるかもしれない。反面、お金がかからないからというのもありましたが、土日に部活で3時間以上勤務して、手当が出るとかだったらちゃんと申告するんですよね。そこが平日の残業で残業代と全く関係がないと、教員の側でもちょっと面倒だなということで、毎日5時に帰っていますという申告をするという実態も過去に見られました。

元木さん:補足で、先ほどの勤務時間の内容については、土日に勤務したときにその時間をカウントするかどうかは自治体によって異なる運用があるようなので、そのあたりも差が出てくる。私が勤務していた自治体では、土日も勤務にカウントしましょうということで、やっていました。

西村さん:ちなみに上限設定について、間違えた回答の中に「80時間」と答えた先生がいました。80時間以上の勤務の人のゼロを目指す、というのを間違えということだと思います。

Q:時間外業務の上限設定をしたことで、時間外業務が隠れてしまうのでは、という問題意識があったのだと思いますが、実際、隠れてしまった。どんな実感を持ちましたか。また、なぜ隠れてしまうのでしょう。文科省の施策のどこに問題があったのでしょうか。

内田さん:隠れてしまうことについて、もちろん想像はしていました。持ち帰りや休憩時間も含めた実質的な労働時間が、いろいろなものにかなり強く影響している、というのは大きな発見でした。それが今、国の調査でどこまでしっかり拾えているか。これから拾っていかないといけない。そして、それがどういう影響をもたらしているか、もです。忙しいことはみんなわかっている。見えていないものをちゃんと拾い、影響までちゃんと抑えるということをやっていかないと、世論に訴える力がなくなっていく。とにかく子どもに影響があるということを言っていかないといけないと思っています。
なぜ隠れてしまうのかは、まずもって業務量が多すぎる。そしていま部活動などいろんなものが削られています。単純に考えたら、もっと楽になっているはずなんです。なぜ楽になっていないかというと、部活以外で切り落としてきた仕事はたくさんあるわけです。そうすると、部活をやめた代わりにいじめ対応を充実させるとか、そういうふうに本務ができていないとき、他のものが減ったら当然本務に時間を費やすわけです。というわけで、時間数がすぐに減るかというと、そうはならないだろうと読んでいます。結論としては人を増やさないといけないし、教員にできない専門外のことは外部の専門家に任せないといけない。特にいじめ対応なんかは、特に保護者対応、若い先生なんかは相当疲弊しますので、そういったことも外部に任せていく。最終的に予算や人の問題になっていくのかなと思います。

Q:簡単に減らせるから改ざんしてしまうとのこと、ただ給特法改正の機運は高まっているでしょうか。ここで強く、その必要性を訴えるべきでは。

西村さん:僕自身が給特法に何となく違和感を持った最初が、夜7時になったら、管理職から「そろそろ帰ってくださいね」と言われるようになったことです。「先生たち、子どものために働きたいでしょうけれども」という声かけなんです。結構クエスチョンマークがついて、なんで残業しているんだろう、やらないといけないから、管理職に振られた仕事をやっているにもかかわらず、この残業は私が好きでやっている形になっている。残業の責任者が不在、もしくは教員本人が責任者だとなっていると、どうしても過少申告もしやすくなる。管理職としても教員本人が申告したんだから、と受け止めてしまうと思うんです。だから残業代云々ももちろんですが、残業の責任者、さいたまの超勤訴訟でも、本人が好きでやっていたという扱いをされているから教員が苦しんでいるのです。

内田さん:お金が関わっていないというのは、時間管理がいい加減になる大きな原因だと思います。思いのほかというか、想像を超えて、時間管理していないですわ。もっと何か、学校も時間数を知ってピリピリしているのかと思っていたけれど、全く知らないという感じです。給特法の根本的な改正が必要だと思います。

Q:小学校だと24.5時間、中学校で28.5時間がすべて込みの総時間外業務時間と考えていいでしょうか。

内田さん:はい、そうですね。これは1週間ですので、月あたりに換算するのであれば、これを4倍にして使ってもらって問題ないです。

Q:どうして書き換えてしまうのでしょうか。場合によっては公文書偽造です。残業80時間は過労死レベルなので、通常の会社なら労基署が入ってもおかしくない。やすやすと改ざんしてそれを許していては手の打ちようがない。なぜ法律違反という歯止めが効かないのでしょうか。

内田さん:給特法が定められた4%上乗せする分残業がない、という法律の前の1966年に教員の勤務調査があったんです。それ以降、2006年まで40年間調査していなかった。で、2016年にして、今年度するわけですが、それが何を意味するかというと、学校というのは本当に時間管理がすっ飛んでしまった現場ということです。時間管理というのはいらないんだというふうな空気がずっとあって、数年前までみんな印鑑でやっていましたから。11時間働こうが、8時間で帰ろうが、来たよというだけで終わっていたんです。土台が根こそぎ、時間管理の感覚を奪われた現場だということが大前提です。
休憩時間を知らないというのも3割くらいあります。そんなことで休憩、取れるわけないじゃないですか。だからこそ、その分過少申告も簡単にやってしまう。罪の意識もない。それが教育委員会に行く。教育委員会が施策を考える上で非常に大事な数字というのは、文科省の調査ではなくて現場から上がってくる数字です。何かをやったとき、たとえば80時間以上ゼロ運動とかやったとき、過少申告で上がってくると、ああ成果が出た、で終わっていく。おっしゃる通り、悪循環です。でもそこまで考えられないのでしょう。事なきようにということで。時間管理をしてこなかった長い歴史があるのだろうと理解しています。

Q:文科省は一応、在校等時間は短くなっているといっています。

内田さん:それは教育委員会に対する調査かな? 今度しっかりした調査やりますからね、そこで持ち帰りもしっかりやりますから。しっかり調べてほしいし、そこでまた見えてくるのではと思います。

Q:過少申告を求められた教諭は実際に応じているのか。割合とか具体的な数字は。

内田さん:数字としてそこまで追っていません。「過少申告を求められた」こと以上のことは聞いていない。実際に応じたのかどうかは聞いていない。個人的には話はたくさん聞いています。管理職から赤字で消されたと先生からも画像が送られてきました。

Q:月45時間の上限を知らない教員がたくさんいる要因は何でしょうか。

元木さん:小中学校は年度初めにさらっと校長から言われます。いろんなことを話し合う会議の最初に言われるので、それが上書きされて、言ったけど覚えていない状態になる。なので意識されていないのでは。

内田さん:休憩時間もそのとき言っている。何時から何時と。ただ、言うだけなので、みんな忘れていきます。